第76話 キューの選択


 キューの仲間による歓迎イベントで四人の犠牲者(?)を出したため、俺はルルから叱られてしまった。    

 もっとも、犠牲者のうち一名はすでに元気になっている。というより、元気になり過ぎている。


「んっもう、最高ー!

 なに、このモフモフパラダイス!」


 キューの仲間たちを四、五匹一度に抱きあげた黒騎士は上半身が白い毛に埋まって、宇宙怪獣のようになっている。

 プリンスの騎士たちって、なぜか時々怪獣っぽいんだよね。

 

「コルナ、キューちゃんを連れてきてくれる?」


 コルナに声を掛ける。 

 今回の旅にはいくつかの目的があったのだが、この草原こそ、その一つが果たされるべき場所なんだよね。


 みんなには、草の上に落ちている『白い魔獣』の毛を回収してもらう。

 落穂拾いならぬ、落毛拾い。素材収集、がんばってください。


「お兄ちゃん、どうしたの?」


 キューを抱いたコルナが側に来る。


「コルナ、キューを降ろしてくれる」


「うん、なんで?」


「理由は、今から分かるから」


「ならいいけど」


 草地に降ろされたキューは、さっそくコルナの足に顔を擦りつけている。

 

「ちょっとこの辺りを散歩するよ」


「二人で?」


「ああ」


 なぜか、コルナの頬が赤くなる。


「……み、みんなはいいの?」


 コルナは、白い毛を拾っているルルたちの方をチラリと見た。


「うん、もっと大事な仕事があるから」


 俺とコルナは、キューを連れ、バレーボールくらいの大きさに縮んだ、白い魔獣たちの間を歩く。


「思ったより少ないわね」


 コルナが言っているのは、白い魔獣の数だ。

 白い毛を伸ばし大きく膨らんでいたから大群に見えた彼らだが、こうして小さくなると、思いのほか数が少ない。

 この魔獣は『白い悪魔』と恐れられているから、人は怖がって近づかないけれど、穏やかな性質だし、それほど数が多くないのかもしれないね。


「キュキュキュッ!」


 突然、キューがコルナの足元から跳びだし、一匹の白い魔獣にぶつかっていった。

 魔獣はその毛でふわりとキューを受けとめると、小さなピンクの舌を出し、キューの顔をペロペロ舐めている。  

 すると、もう一匹、やや大きな白い魔獣が近づいてきて、キューとその魔獣に体を寄せた。


「もしかして、この子たち――」


 コルナが言いかけた言葉を俺が続ける。 


「キューの両親だろう」


 コルナは驚いた後、とても悲しそうな顔をした。

 俺が何のために、「散歩」に誘ったか分かったのだろう。


 かつてこの世界に来た時、キューはなりゆきで俺やブランと一緒に行動することになった。

 キューが両親のいるこの世界に帰りたければ、俺やコルナにそれを止めることはできない。


「キュ」

「キュウ」

「キキュウ」

 

 キューは、父親と母親の顔に自分の鼻をくっつけ、何かお話ししてるみたいだ。


『(*'▽') ご主人様、何を話してるか聴かなくてもいいの?』


 うん、点ちゃん、せっかく久しぶりに親子でおしゃべりしてるのに、邪魔しちゃ悪いでしょ?


『(@ω@) ご主人様が、気づかいを!』


 いや、それほど驚かなくていいと思うけど。


 三十分ほど両親に甘えていたキューだが、やがて両親の間からこちらを見た。


「キュ、キューちゃん……」


 お別れを言おうとしたのだろうが、コルナは言葉に詰まってしまった。


「コルナ、行こうか」


 肩を落とした彼女の背中をそっと撫でる。


「……う、うん。

 キューちゃん、またね……」


 彼女が背中を向けようとした瞬間、キューが数度ぽんぽんと弾み、ぽーんとコルナの胸に跳びこんだ。


「キューちゃん!」


 コルナがキューを抱きしめる。


「キュキュ!」


 キューの声からは、明らかに喜びの感情が聞きとれた。

 どうやら、俺たちと一緒に行動すると決めたみたいだね。


「コルナ、またキューといっしょにここに来よう」


「うん、うん」


 キューの毛に顔を埋めたコルナは、涙声で凄く嬉しそうに答えた。


「では、キューちゃんと一緒にまた来ますね」


 キューの両親は、俺の声を聞き、小さな顔を上下に振りながら鳴いた。


「「キュキュキュー!」」(元気でやるんだよ!)


 キューの声がそれに答える。


「キュ、キュキューッ!」(うん、父さん、母さんも元気でね!)


 こうして、この『ボナンザリア世界』での最初の仕事が終わった。


『(*'▽') わーい、キューちゃん、また一緒に遊べるね!』

「みゅー!」(嬉しい!)


 点ちゃんとブランも喜んでるみたい。

 改めて歓迎するよ、キューちゃん。

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