第75話 ふわふわ体験
『結び世界』から転移した俺たちは、『ボナンザリア世界』にある草原に現れた。
この草原、周囲は森に囲まれている。
「あれ?
ここ、アリスト城?
あっ、お城がないから『エルファリア』かな?」
キューを胸に抱いたコルナが、キョロキョロ辺りを見回している。
「ここは、新世界『ボナンザリア』だよ」
「えっ?
新世界って、この前、お兄ちゃんが召喚された世界群でしょ?」
「そう。
さっきまでいた『結び世界』、その前の『田園都市世界』、そしてここ『ボナンザリア』は、最近になってポータルズ世界群に再統合された世界だね」
「再統合?」
「そう、再統合。
この三つの世界も、元はポータルズ世界群に属してたんだよ」
「そういえば、そんなこと言ってたよね」
「この場所はね、キューの故郷なんだ」
「えっ!?
キューちゃん、ホント?」
「キュッ」(ホント)
キューが短く鳴いたが、こいつの言葉が分かるのは、点ちゃんと俺だけだからね。
「ふうん、ここがキューちゃんの世界なんだ」
「あれ?
コルナ、どうしてキューちゃんの言葉が分かるの?」
「えーと、何となくかな」
獣人の能力って凄いな。いや、彼女が『竜の巫女』に再覚醒したからかもしれないな。
「シローさん、あれは!?」
ルルが凄く警戒しているよね。
まあ、前方から何かの大群が押しよせているから、当たり前なんだけど。
「みんな、言われた通り、金属の防具はつけてないね?
これからフワフワ体験をするけど、驚かないで。
忘れずに、武器もしまっておいて」
「シロー、でも、本当にアレって大丈夫かしら?」
コリーダが言っている「アレ」とは、草原を覆いつくし近づいてくる白い波だ。
「白い波のように見えるのは魔獣だけど、危険ではないからね。
じゃあ、みんな体の力を抜いて」
「「「あーっ!」」」
ぽわ~ん、ふわん
ぽわ~ん、ふわん
ぽわ~ん、ふわん
白い波は、突進してきた勢いのまま、みんなを宙にはね上げた。
かなり高くまで上がった俺たちの体は、やがて落下に転じると白い魔獣の毛に沈みこみ、その反動で再び宙を舞う。
「「きゃはははは!」」
「凄い凄い!」
「ふわふわだねー!」
ナル、メル、エミリー、翔太はイベントを楽しんでいるが、大人たちの中にも……。
「ほう!
これは楽しいですな!」
リーヴァスさんは、子供たち同様、『白い悪魔』の背中で弾むのが楽しいみたい。
「ななな、いったい何が!?
あわわわわー!」
軍師ショーカが慌てたところ、初めて見たんじゃないかな?
「ほわわわわー!」
黒騎士が宙を舞いながら、かわいい(?)声を上げている。
「エ、エミリー、無事か!?」
ハーディ卿は親馬鹿モード発動中と。
そして、子供たち以上に楽しんでいるのは、ミミだった。
「うわー!
最高ー!」
再覚醒して『軽業師』となった彼女は、空中で伸身の回転技を決めている。
「ミミ、た、助けて!
う、うっぷ!」
あー、ポルは酔っちゃったか。
まあ、激しく上下するからね。
とりあえず、彼に貼りつけてある『・』でその体を空中に固定する。
「シ、シローさん!?
ありがとう」
ポフ
ポフ
ポフ
そんな音を立てると、白い魔獣たちは、バレーボールくらいの丸い体になった。
「「みみゅ~!」」(楽しかったー!)
「ククウ!」(ホント!)
「キュー!」(ホント!)
白猫、黒猫、コリン、キューの魔獣組も楽しんだようだ。
だけど、キューちゃんは自分自身が『白い悪魔』なのに、一緒にふわふわ体験を楽しんだんだね。
「すっごく楽しかったね!」
「これ、癖になるね!」
「気持ちよかったわね!」
「ふわふわだったね!」
ルル、コルナ、コリーダ、舞子にも好評だったようだ。
「みんな、この世界のウエルカムサプライズ、楽しんでもらえたみたいだね」
「シロー、みんなではないようです」
ルルが咎めるような目で俺を見る。
そういえば、草の上に横たわったままの人がいるね。
「「「……」」」
ショーカ、黒騎士、ハーディ卿がマネキンのような表情でこちらを見る。
「あれ?
楽しめなかった?」
「「「……」」」
どうも、楽しめなかったらしい。
「「ぽるっぽー!」」
振りむくと、ポルがうつ伏せに草の上に倒れていて、その
あれ?
これ、やっちゃった?
『( ̄▽ ̄) ご主人様が、またやらかしたー!』
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