第74話 恋の病(下)
ルルに『結びの花』と名づけられた建物は、三角錐の形をしている。
底面の三角形、それぞれの頂点から建物の中心へ向け通路があり、中央には円形のドーム型空間がある。
それぞれの通路を、新婦ととその関係者、新郎とその関係者、そして見届け人が通ってドームへ向かう。
ドームにある円形の祭壇は、ぐるりが花に囲まれるよう設計した。
建物のてっぺんは、透明な三角形の点パネルを組みあわせて造ってある。
そこから薄暗いドームに、陽の光が降りそそぐしくみだ。
俺たちは見届け人用の通路を通り、ドーム型の式場へ入った。
今日は、みんなフォーマルな服装をしている。
今回の旅行では、王族に会うことも予定されていたから、その辺の用意は前もってしてあった。
祭壇の周囲に並べられた椅子にみんなが腰を下ろす。
右の通路からヴァルム少佐を先頭にその家族が、左の通路からモラー少佐とその家族が、一人づつ会場に入ってくる。
俺たちはその度に拍手する。
地球の結婚式と一番違うのは、それぞれ男性だけ、女性だけしかいないことだ。
全員が座ったところで俺が立ちあがり、式の開始を宣言する。
「これから、モラー、ヴァルム両氏の結婚式を始めます」
モラーとヴァルムが立ち、祭壇に上がる。
ヴァルムは執事が着るような服、モラーはふわふわした薄桃色のドレスを着ている。
どちらも、ルルたちが総出で仕立てたものだ。
花の香りとみんなの祝福に包まれ、二人は嬉しそうだった。
「では、結婚の約束として指輪を交換してください」
俺の言葉で、ヴァルムが自分の左手中指にはめていた指輪を外し、それをモラーの左手薬指に着けた。
モラーも同様にして、指輪の交換を終える。
この指輪は、以前この世界に来た時、二人にプレゼントしたもので、それを着けた者同士で念話ができる。もちろん、点魔法で作った作品だ。
お互いがそれを交換するわずかな時間で、点ちゃんが指輪のサイズを調節した。
「二人とも、相手を尊重して、共に暮らしていく意思がありますか?」
「「はい!」」
「では、口づけを交わしてください」
ぎりぎりまで、この手順は不要だと言ったのだが、ルル、コルナ、コリーダ、舞子、四人が絶対に必要だと言いはったのだ。
「ヴァルム少佐!
相手の鼻をつままない!」
「え!?
そうなんですか?」
「そうなんです!」
俺とヴァルム少佐との、そういう下らないやりとりがあった後、二人が唇を合わせた。
新郎新婦の関係者が、目を丸くしている。
それはそうだろう、彼らはキスなど初めて見るのだから。
「お二人とも、もういいですよ」
この二人、言われないとずっと口を合わせたままだったな、こりゃ。
いい加減にしてくれ、リア充!
『(*'▽') ご主人様からの合図を待ってただけだと思うよ』
ノンノン、
『(*'▽') 誰ー?』
その後、ドームの壁に沿って備えつけられているテーブルに食事を並べ、みんなで楽しんだ。
先日海で釣った魚で作った料理が多かったから、ミミが一番喜んでいた。
だけど、新婦より喜ぶってどうよ?
◇
結婚式の翌日、政府関係者と『結びの家』のスタッフに見送られ、この世界を後にすることになった。
「シローさん、次は新しいレシピお願いしますよ!」
料理人のニコ少年は仕事熱心だね。
「結婚式ありがとうございました!」
「シローさんのお陰です!」
ヴァルムとモラーは手を恋人繋ぎしてるな。この、バカップルが!
『(*'▽') ご主人様、ぶんむくれてるー!』
また、点ちゃんが変な言葉を……。
「私も次は結婚を!」
「そうだ、私も結婚しなくちゃ!」
政府のおじさん、おばさんが大騒ぎしてるな。
彼らは、ヴァルムとモラーの方を羨ましそうに見ている。
「結婚は、あくまで男女二人の合意が前提ですよ。
権力にモノを言わせたりしたら、次ここに来た時、その人を消しますから」
俺の言葉に、政府関係者が急に静かになる。
「シロー、もうそのくらいに。
でも、彼が言うとおり、結婚は二人の気持ち次第ですから。
みなさん、では、さようなら」
ルルが上手くフォローしてくれた。
「「「では、よい風を!」」」
「「「よい風を!」」」
これってエルフ世界での挨拶だけど、この世界でも、みんなが口にしはじめてるんだね。
家族と仲間が手を繋ぎ、俺たちは『ボナンザリア世界』へ転移した。
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