第68話 学校を作ろう


 ヴァルム大尉に頼み、学校建設について確認してもらう。

 国の上層部は、一時間もかからず計画への許可を出した。


 建設場所は、ウエスタニアとイスタニア、両国の中間、つまり『結びの家』近くに決めた。

 地下に豊富な水脈が通る場所を選ぶ。

 幸い見渡すかぎりの荒れ地だから、土地は使い放題だ。


 校舎はドーナツを半分にしたような半円形で、内側に沿って屋根つきの廊下を設けた。

 廊下の屋根は半円の直径付近まで伸びていて、雨天でも運動場が利用できる。

 壁、ガラス部分とも、開発して間もない『点パネル』を使う。

 天井もこのパネルで作る。

 点魔法で作った骨組みに、有色と透明のパネルをはめ込む仕組みとなっている。

 やや小さな同型の建物を内側が向かいあうように建てる。こちらは年少クラスが入る予定だ。


 平屋の建物は予定していたより大きくなったが、階段がないだけ便利だと思う。

 小校舎、大校舎、それぞれ教室が十ずつと、食堂、職員室、トイレ、倉庫などがある。

 それほど広くはないが、宿泊用の部屋、シャワー室も用意した。


 ナル、メル、エミリー、翔太に生徒役をしてもらい、模擬授業もしてみた。

 先生役として、ルルは歴史、コルナは美術、コリーダは音楽を受けもった。

 仕方ないから、俺はそれほど得意なわけでもない算数を教えてみたが、四人の生徒たちが優秀だから、なんの問題もなかった。

 リーヴァスさんには、屋外で柔軟体操を教えてもらったが、子供たちの受けはこの授業が一番良かった。


 こうして、あっという間に、開校の日を迎えた。


 ◇


 開校当日は、あいにくの雨だったが、この世界の雨具だろうポンチョに似たものを着た、子供たちとその保護者が円形の校庭に集まった。

 初日ということで、正午過ぎに学校を開けたが、幼少部、高等部とも百人ほどの生徒が集まった。

 点ちゃんが言うには、ウエスタニア、イスタニアの国政に関わる者の子女が大部分を占めているそうだ。

 

 その中に、少年を連れたニコの姿が見えたので声を掛ける。


「よく来たね、ニコ。

 入学するのはその子かい?」


「シローさん、こんにちは!

 ええ、弟のボリスです」


 ニコと手を繋いだ十才くらいの男の子は、さっと兄の後ろに隠れた。

 

「驚かせちゃったね。

 俺はシロー、よろしくね」


 黙っている少年にニコが何か囁いた。


「こ、こんにちは」


 ニコの後ろから出てくると、ボリスは小さな声で挨拶した。

  

「ボリス、この方が英雄だよ」


 ぐはっ! いきなりそうきますか。


「えっ、ホント!?

 シロー様?」


 さっき名乗った気がするのだが、改めて自己紹介する。

 

「俺はシロー、冒険者だよ」


「冒険者?」


「そうだ。

 どんな仕事か知りたいでしょ?

 この学校と言う場所に来れば、そういう事を教えてくれるよ」


「ふうん、教わる場所なの?

 でも、お兄ちゃんがなんでも教えてくれるよ」


 この大陸には、最近まで軍が戦闘を教えるための訓練施設しかなかった。

 おそらく、読み書きや常識などは、家族で教えていたのだろう。


「そう思うんだね?

 なぜこの学校に来た方がいいのか、体験授業を受けてみると分かるよ」


「タイケン……って何?」


「体験授業。

 もうすぐ君が受けるものだよ」


「怖くない?」


「ははは、怖くないよ、楽しいよ」


 ここに集まった少年少女のほとんどは、ボリス少年のような不安を抱えているに違いない。


 ◇


 やがて子供たちは、年少部と高等部に別れ、各校舎の前に集まった。

 家族も一緒に整列してもらう。

 初日ということもあり、今日は男女別に並んでいる。

 運動場には屋根があるので、生徒たちはポンチョを脱いでいる。

 リーヴァスさんが年少部、俺が高等部の前に置かれた演台の上に登る。


「みなさん、こんにちは。

 私はシローです」


 俺の事を知っているのか、ここで生徒たちがどよめく。

 それに構わず、挨拶を続ける。


「みなさんの前に見える建物は学校です。 

 君たちは、これからここで学ぶわけですが、初めてのことだから不安もあるでしょう。

 今日、さっそく模擬授業を行いますから、それを受ければ、きっとその不安も無くなると思います。  

 それでも不安に思う時や、分からないことがある時は、前にいる先生たちに相談してください」


 生徒たちの前にはルルたちの他に、政府から派遣された教師が並んでいる。

 

「では、クラスごとに指定された教室に入ってください」


 年齢別にクラス分けされた生徒たちが、各教室へ入っていく。

 建物を間近に見た生徒たち、その家族から驚きの声が上がる。

 向かいに建つ年少部からも、大きな歓声が聞こえてくる。

  

 体験授業の始まりだ。

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