第69話 体験授業
年少部は六クラス、高等部は四クラスに別れ、最初の授業が始まった。
今日は生徒の保護者も一緒に授業を受ける。
初回から参観日みたいなものだね。
高等部は、俺、ショーカ、コリーダ、コルナが各クラスを受けもつ。
幼少部は、リーヴァスさん、ルル、舞子、ハーディ卿、黒騎士、ポルが各クラスを受け持つ。
ナルとメルはルルのクラスへ、エミリーと翔太はハーディ卿のクラスへ入り、ミミはポルのクラスを補助する。
それぞれのクラスに政府から派遣された教師が加わるが、担任は男女二人になるようにしておいた。
異性への偏見をいかに無くするか、それが学校設立の目的だからね。
◇
俺は年齢が一番高いクラスの教壇に立った。
教師など一生縁がないと思っていたが、こうなれば仕方ないからね。
「先ほども紹介したが、私はシロー。
仕事は冒険者をしている。
君たちが住むこの大陸では、長い間、二つの国が争ってきたことは知ってるね。
この学校では、なぜそんなことが起こったか、そして、なぜ、今では二つの国が一つになろうとしているか、そういう疑問に答える授業が行われる。
ぜひ、いろんなことをここで学んでほしい」
「おい、センセイって呼べばいいのか?
センセイよう。
あんた、見た所、俺たちとそう年も変わらねえじゃねえか。
本当に『解放と英雄』に書いてあるような事やったのかよ?」
一番後ろの座席に横座りしていた、少年と言うより青年と言った方がいい男子が口をはさむ。
その後ろでまっ青な顔になっているおじさんが、彼の父親だろう。
おじさんは見覚えがある顔だから、政府上層部の一人に違いない。
しかし、コイツ、頭の毛を鶏のトサカのように立ててるな。
こういうヤツって、どの世界にもいるのかな。
周囲と違うことをしたくて、かえって没個性になってるなど、本人は気づかないだろうね。
「ケイツの言うとおりだぜ!
あんなことできるワケがねえ!」
トサカ頭に同調したのは、彼の隣に座っているスキンヘッド君だ。
おいおい、お前も没個性かい?
『(*'▽') 二人とも、変な頭ー!』
「ミャン?」(なにアレ?)
ほら、点ちゃんとブランに笑われてるよ、君たち!
「ええとね、君たちはこの『結び世界』が、ポータルズ世界群っていうものに含まれる一つの世界だって知ってる?」
「ワケ分かんねえ!」
「何言ってるんだコイツ?」
トサカとハゲが、何やら興奮している。
正直、めんどくさい。
「君たちは、この世界だけでなく他の世界のことまで知らなくてはならない。
そうしないと、なぜこんなことが起こるのかということを考えることもできないからね」
俺が指をくるりと回すと、横座りしていた椅子ごとトサカとハゲが宙に浮いた。
「な、なんだこりゃ?!」
「どうなってる?!」
「自分がなんで逆さになってるか分かるかい?」
「て、てめえ!
早く降ろせ!」
「降ろさねえと、ぶっ殺すぞ!」
それを耳にして、パタリと床に倒れたのは、彼ら二人の保護者だろう。
なんでかな?
『(*'▽') ご主人様が怖いんだと思うよ』
えっ、俺、なんでそんなに恐れられてるの!?
『d(u ω u) 以前この世界に来た時、倒れた二人はご主人様のマジ顔を見てるから』
あー、あれでビビったのね、ってあれからずい分たつよね!
『(*'▽') よっぽど怖かったんでしょ』
しょうがないなあ。
宙に浮かせたままになってるトサカとハゲがうるさいので、ちょっとクルクル回転させておく。
「あああああー!」
「ひひひひひー!」
『(*'▽') いつもより回っております!』
二人の変な悲鳴を聞いた生徒や保護者が笑いだす。
ついでだと思って、彼ら全員も宙に浮かせておいた。
言っとくけど、回転させたのはトサカとハゲだけだから。
『(; ・`д・´) そんなの言い訳になるかーっ!』
えっ!?
点ちゃん、さっきまで面白がってなかった?
◇
ポータルズ世界群の各世界についておおまかに説明する。
急にいい子になったトサカとハゲを含め、クラスの全員がやけに授業に集中している。
なんでだろう?
『(・ω・)ノ 宙に浮かされたからだと思うよ』
そうかなあ。
それだけじゃない気がするけど。
異世界の景色を写したパネルを黒板に貼ると、みんな身を乗りだしてそれを見ている。
「先生、本当に人族以外の種族がいるんですね!」
目鼻立ちの整った女の子が、パネルを指さし興奮している。
「今日、学校に来てる俺、いや私の仲間にも獣人とエルフがいるよ。
君にぜひ知っておいてもらいたいのは、性別や種族が違っても、みんな人間なんだってこと。
喜びも怒りも悲しみも嬉しさも、君と同じように感じる人たちなんだ」
「そ、それでも、男より女の方が優れていると思います!」
「君、名前は?」
「パメラです」
「パメラ、君は自分が女だからということで、男性から差別を受けて嬉しいかな?」
「嬉しいわけありません!」
「君がしてほしくないことは、他人にもしない方がいいね」
「でも、やっぱり女の方が男より優れているから、彼らを下に見るのも仕方ないと思います」
「その内、この学校で君も習うだろうが、まさにそういう考えをあおってウエスタニアとイスタニアを戦わせていた人たちがいたんだ」
「『科学都市』の人たちですね」
おかっぱ頭の少女が、ぱっと立ちあがり説明してくれる。
「ああ、彼らは『結び大陸』に住む全ての人を、ゲームの駒のように考えていた。
自分たちと同じ人間なのにだよ。
パメラ、君は、彼らと同じになりたいのかい?」
「でもやっぱり、女の方が優れてると思うんです」
「その考えは間違ってる。
女性の方が優れている部分もあるし、男性の方が優れている部分もある。
そして、それは一人一人の個性と較べると、大した違いではない」
「でも……」
「君、さっき宙に浮いたよね?
君は俺を宙に浮かせることができるかな?」
「……い、いえ、できません」
「もし、そのことから君のことを劣っている、取るに足らない存在だと考えて、俺が君をこうしたらどうだろう?」
指を一つ鳴らすと、彼女の前にある机が消えた。
点収納に入れただけなんだけどね。
「えっ、あっ、ど、どうして?」
「パメラ、君は俺に比べると、取るに足らない人間だ。
今から君も消してしまおう」
「イ、イヤ!
や、やめてっ!」
パメラが全身をブルブル震わせている。
後ろに並んだ大人たちの中から、彼女の保護者だろう一人の女性が飛びだし、パメラを抱きしめた。
特殊な事情で、この国には、女親には娘、男親には息子しかいない。
「ほら、見てごらん。
お母さんは、そんなにも君のことを大事に思っている。
だけど、それは君が軽蔑している男性たちが、自分の息子に抱くのと同じ気持ちなんだ」
パメラの目にやっと理解の光が浮かんだ。
「俺が差別を憎むのはね、差別あるところ、必ず弱く優しい者が踏みにじられるからなんだ。
その気持ちから、俺は『結びの大陸』を解放したんだよ」
あれ?
なんだこれ!?
パメラ、なんで泣いてるの?
あーっ、クラス全員泣いてるじゃん。
大人たちまで泣いちゃうってどうよ?
『へ(u ω u)へ やれやれ、これがなければ、ご主人様はカッコイイんですけどねえ』
「ミィミ」(ホント)
なんで?
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