第62話 宝石探し(下)


 点ちゃん1号を森に降下させる。

 白銀の機体が着陸したのは、タムと銀さんが住んでいた隠し小屋のすぐ近くだった。


「「「わーい!」」」


 すでに仲良くなっているタム、ナル、メルの三人が手を繋ぎ、機体のタラップを駆けおりる。

 彼らは近くにある木立へ姿を消した。

 猪っ子コリン、白ふわ魔獣キューがちょこちょことその後を追う。


「シロー、お子さんたち、大丈夫ですか?」


 それを見たショーカが木立を指さす。


「ははは、大丈夫です。

 あの木立の向こうには、タムの家があるんですよ」


 みんなが1号から降りたので、機体を収納する。

 大きなものがいきなり姿を消したので、銀さんが驚いている。

 木立に囲まれた隠し小屋で装備の確認をした俺たちは、タムに案内され、森の中へ入った。

 

 ◇


 静かな森の中を三十分ほど歩くと、目的の場所に出た。

 そこは木々が生えておらず、白い砂が「U」字型に小山を成していた。


『(Pω・) これは人が造ったものではなく、そういう地形のようです』 


 へえ、どうやったら、こんなモノができるのかな。

  

 白い砂の小山に囲まれた広場は、小型のドーム球場ほどありそうだった。


「みんな、こっちに来てー!」


 タムは俺たちを白い砂山の一番奥に案内した。


「この白い砂のどこでも宝石は採れるけど、青い宝石はこの辺でたくさん出るよ」


 手にした木の枝でタムが小山の斜面をサクサクつつくと、白砂の中から青い石が姿を現した。

 

「「「おーっ!」」」


 それを見たみんなが声を上げる。


「じゃあ、探してください!」


「「「はーい!」」」


 タムの号令で、みんなが砂山を手で探りはじめる。

 俺は点魔法を使い、潮干狩りで使う小型の熊手を作り、それをみんなに配った。


「これ、凄く便利ね!」


「うん、日本では、こうやって砂浜で貝を獲るんだよ」


「うわー、いつかやってみたいなあ」


 エミリーと翔太は、ほのぼの空間を作りだしている。

 その横で、ハーディ卿が羨ましそうに二人を見ている。


「いい?

 競争よ!」


「その勝負、受けましょう」


 一方、黒騎士とショーカは、なぜか競争モードに入っている。

 しょうがないねえ、この二人は。

 ほら、そこできゃっきゃと楽しそうに宝石を探しているナル、メル、タムの三人を見習いなさい。なぜか、リーヴァスさんも一緒に楽しんでるけどね。

  

「これなんか、どう?」


「へえ、模様がある石もあるのかー」


「粒を揃えておいて、後でネックレスにしましょう」


 ルル、コルナ、コリーダは、宝飾品としてタムライトを狙ってるのか。


「シローさん、ホントにこんなモノに価値があるんですか?」


「ええ、それは。

 この世界が他の世界からの援助を受けるにしても、それなりの見返りを約束する方が、気兼ねしなくてすみますからね」


 銀さんは、『枯れクズ』の事を知らないから、タムライトの価値は理解できないだろう。

 まあ、その事を彼女に話したからといって、まず理解はできないだろうけどね。


『( ̄▽ ̄) またご主人様が、ぼろ儲け狙ってる?』


 い、いや、そんなことはないよ。 


「みゅみゅ」(怪しい)


 あっ、ブランちゃんまで俺のこと疑ってるね?

 この品行方正なシローさんを疑ってはいけませんよ。


『( ̄▽ ̄) ……』

「……」


 どうしたのかな、二人とも。


 ◇


 陽が高くなり、そろそろ昼食の用意をというとき、叫び声が聞こえてきた。


「助けてー!」

「食べられるー!」


 あれ?

 あれってポルとミミの声じゃないかな?

 この場所の周辺を調査するよう言ってあったのに、合流が遅れたんだね。


 みんなも宝石探しを中断し、叫び声がした方を眺めている。

 木立から、葉っぱを体中につけたミミとポルが跳びだしてくる。

 

 二人とも、どうしたんだろう?

 その疑問には、彼らの後ろから現れたモノが答えてくれた。


 巨大な黒いカニだ。

 以前、俺がこの世界の海底洞窟で出会ったのと同じ種類のようだ。

岩蟹いわがに』と名づけたその巨大なカニは、アダマンタイトなど鉱物が含まれた、もの凄く硬い甲羅を持つ。

 いくらミミとポルが剣の腕を上げたとはいえ、歯が立つような相手ではない。


「「リーダー、助けてーっ!」」


 二人が俺の背後に回りこむ。

 まっ青な顔をしてブルブル震えているから、よっぽど怖かったのだろう。

 二人とも、三角耳が頭にぺちゃりと着いてるし、尻尾しっぽがこれ以上ないほど太くなってる。

  

 問題は、俺たち全員が「U」字型をした砂山の奥にいて、巨大なカニからの逃げ道がないことだ。

 どうするかな、これ。

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