第53話 新商品お披露目
ドラゴニアの『ポンポコ商会』が、新商品をお披露目する日となった。
場所は、建てたばかりの『希望の家』、二階の会議室だ。
あいにく小雨模様の天気となったが、お客の入りは上々だ。
広い会議室が、人で一杯だった。
参加者は、青竜族、赤竜族、白竜族、黒竜族の貴族たち、支店の常連さんたち、そして、地方にある村からのやってきた人たちだ。
幾つか置かれたテーブルの上には商品サンプルが置いてある。
お客さんは、それぞれ興味ある商品が展示されたテーブルに集まっている。
特に混雑しているテーブルに近づくと、そこにいた青竜族の老人が俺に話しかけてきた。
「シロー殿!
お久しぶりじゃな!」
最初は誰か分からなかったが、横に立つがっちりした中年の竜人を見て思いだした。
「
かつて思わぬ転移に巻きこまれドラゴニア世界にやって来た時、最初に出会ったのが彼らだ。
遠くの村から、はるばるここまで来てくれたんだね。
「治癒の薬が手に入るかもしれないと聞いてな。
居ても立っても居られなかったのじゃ」
この世界では、他の世界に比べ、病気やケガに対し十分な対策がとられていない。
「今回展示している
そうしないと、薬師の仕事を奪ってしまうことになるからね。
「ケガや病が治るなら、大歓迎じゃよ。
薬師は来ておらぬが、村に帰ったらすぐここへ送ろう」
「そうするといいですね」
二人の後ろから、青竜族の若者が顔を出す。
「あ、あのー、歌姫、いや、コリーダ様はいらっしゃらないので?」
「ああ、彼女なら『天竜国』だよ」
「て、『天竜国』!?
ということは、天竜様のところですか?」
「うーん、正確には真竜様の所だね」
「「「ええーっ!?」」」
三人が凄く驚いている。
彼らは以前この都で開かれた『天竜祭』に参加してないから、その辺の事情を知らないのだろう。
「シローさん、あの白いものはなんです?」
ルンドが筋肉ムキムキの青い腕を近くのテーブルへ伸ばす。
そのテーブルには、一片五十センチほどの白い立方体が置いてある。
「ああ、あれは塩ですよ」
「「「……」」」
よろよろと倒れかかった村長をルンドと若者が支える。
塩が希少なこの世界では、その塩の塊は同じ大きさの純金より価値がある。
「おい、シロー!
ポーションの販売、なんとかなりそうだ。
治癒魔術師と薬師の両方に根回ししなきゃならないから、本当に大変だったんだぞ」
ジェラートが、疲れた顔で俺に話しかけてくる。
「シロー殿、こちらのお方は?」
「村長、こいつは白竜族の族長ですよ」
「「「ぞ、族長……」」」
三人とも、田舎の村から来てるから、なんにでも驚けていいよね。
『( ̄▽ ̄) まったく、この人は……』
なぜか点ちゃんに呆れられた。
◇
地下一階の貯蔵庫では、積まれた塩の山を見て、少なくない人数が気を失った。
地下三階のモデルハウス展示場では、カプセルから現れた『土の家』を見て、やはり気を失う人が多数出た。
そういった人たちは、一階のリビングに寝かせてある。
竜人女性たちが、凄く羨ましそうにキッチンを眺めているのが印象的だった。
次はキッチンシステムを売るのもいいね。
そう考えていたら、なぜか肩に乗ったブランに頭をぺしぺしされた。
「ミーミ、ミィ!」(少し自重しなさい!)
え!? なんで?
◇
商品のお披露目の後、簡単な食事会をしたが、異世界の味にみんな驚きの声を上げていた。
特にアイスクリームは人気があった。
会場を後にする人たちは、一様に興奮を隠しきれない様子だった。
お土産で渡した、塩と蜂蜜クッキーが入った袋を、大事そうに抱え帰っていく。
三階のカフェラウンジに、五人の竜人が集まった。
四人はそれぞれ、竜人四種族の長で、あと一人は赤竜族の重鎮マルローさんだ。
彼らが座ったテーブルには、ルビー色の液体が入ったワイングラスが置いてある。
「みなさん、今日はご参加ありがとうございました。
各筋への根回し、大変だったと思います。
それに、立派なギルドを建ててくださったとのこと、本当にありがとうございます。
どうかお礼の品を受けとってください」
「シロー、お礼って、これか?」
ジェラードが目の前のグラスを指さす。
「ああ、俺の故郷、『地球世界』から持ってきたワインって酒だ。
みなさん、どうぞ」
ワインを一口飲んだ五人が、目を大きく開く。
「こ、これは……このような酒は初めて飲みましたよ。
なんとも言えない香りと味ですな!」
赤竜族の族長ラズローが、感嘆の声を上げる。
「一樽ずつ用意してますから、荷馬車で取りにきてもらってください」
「シロー殿、あなたには世界を救ってもらったうえ、スレッジ世界に囚われていた多くの同朋を解放してもらった。
お礼をせねばならぬのはこちらの方です」
赤竜族の老人マルローさんが、眼帯をしていない方の目を閉じ頭を下げた。
他の竜人たちも、俺に頭を下げる。
「みなさん、感謝なら聖女エミリー様に。
彼女は『天竜国』に滞在中ですが、ここを訪れるのはまた別の機会になります」
「「「おおっ!」」」
「その時が待ちどおしいですな」
黒竜族の族長が、真剣な顔でそう言った。
「ところで、今回はみなさんにお願いがありまして」
「なんでしょう?
ぜひ赤竜族にお任せを!」
「いや、我ら青竜族に!」
「黒竜族に名誉挽回の機会を下さい!」
お願いの内容を聞かないうちに、族長たちが口々にそれを引きうけようとする。
「ええと、森の中に友人ができまして。
彼女を保護してほしいのです」
「おいおい、また新しい女性か?」
ジェラード、お前、何か勘違いしてるぞ。
「友人は、蜂でして」
「「「蜂?」」」
族長たちがぽかーんとした顔になる。
「ええ、蜂です。
彼女がいる森を保護してもらいたいのですが」
「そ、それは構いませんが……」
マルローは、どこか納得できないという顔だ。
「場所は後ほどイオから聞いてください。
よろしくお願いしますよ。
それと……」
テーブルの上に、親指ほどの小瓶を出す。
中には濃い琥珀色をした液体が入っている。
「これは何ですか?」
青竜族の族長がけげんな目でこちらを見る。
「特別な蜂蜜ですよ」
「シロー、もしかして、さっき言ってた蜂の友人にもらったのか?」
「そのとおりだ、ジェラード。
あり得ないほど素晴らしい蜂蜜だよ。
今回、これを四つ、天竜に献上しようと思ってる」
「「「おおおっ!」」」
さあ、盛りあがってきましたよ!
「シロー殿、その献上蜂蜜には、以前のように我らが名を書いていただけるのか?」
黒竜族の族長が祈るように両手を合わせる。
「ええ、もちろんですよ。
買ってくれた場合、そうなります」
「い、いくらですか?」
「そうですね、この世に二つとない品ですから……竜金貨二百枚ですね」
二つとないとか言いながら、実は大びんに三本あるんだけどね。
ちなみに、竜金貨二百枚というと、地球世界では一億円になる。
「それは安いですな!」
「うむ、そんな値段でよいのだろうか?」
「ぜひ売ってほしい!」
しくじった?
竜金貨五百枚にしとけばよかったかな?
だけど、これ親指サイズの瓶だからね。
『( ̄▽ ̄) 黒いご主人様が出たー!』
点ちゃん、虫みたいな言い方やめてくれる?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます