第43話 新しいお酒



 瞬間移動で『南の島』にある『ポンポコ商会本店』から跳んだ俺たちが現れたのは、『西の島』西部にある、フェアリス族の集落だった。


 集落のまん中にある広場に現れた俺たちの姿を見て、身長一メートルほどのフェアリスがわらわらと、木々の間から出てくる。

 そして、ぬいぐるみサイズの子供たちが大人たちを追いこし、こちらに駆けてくる。


「「「ナルちゃん、メルちゃん!」」」


 ナルとメルは、あっという間にフェアリスの子供たちに囲まれる。

 前回ここを訪れた、エミリーと翔太にも、たくさんの子供が群がった。


 かつてここに来たことがある、ルル、コルナが懐かしそうに周囲を見渡している。

 広場の隅に俺が作った井戸には立派な屋根がついていたが、変わった所はそのくらいで、他は以前のままだ。

 俺が建てた『土の家』も、以前のまま建っていた。


「コルナ、頼むよ」


「分かってるわ」


 ここの子供たちは、ボードに乗せてもらうのが大好きだ。

 ナルとメルにボードを出してやると、さっそく長い列を作り、一人ずつ彼女たちのボードに乗せてもらい歓声を上げている。

 コルナはボードを手に、それを見守っている。


 俺は、白ヒゲのおさに話してみた。


「長、ここの子はボードが大好きですよね。

 なんなら、いくつか置いていきましょうか?」


「シロー殿、そう言ってもらえるのはありがたいのじゃが、やはりワシらの生活は今のままでよい。

 あなたが来てくれるとき、子供たちがあれに乗れたら、それで十分じゃ」


「そうですか」


 フェアリスの長は確固たる信念があるようだ。

 それは尊重されるべきものだろう。


「おお、そうじゃ!

 この前、あなたがここへ来てくださった時、蜂蜜水をいただいたじゃろう?」


「ああ、ありましたね」


 子供たちが凄く喜んでたよね。


「あの樽で使った樽に酒を寝かせたら、全く新しいモノができてな」

 

「そりゃ、すごい」


「ちょっと、飲んでみんか?」


「ええ、ぜひ、私は年齢が満たないので、友人に頼みます」


「ほほほ、相変わらず生真面目じゃのお」


 俺は小さな器に注がれた酒を、ハーディ卿に飲んでもらった。彼なら世界中の銘酒を大方試したことがあるからね。


「史郎さん、これは?」


「まあ、飲んでみてください」


「!」


「どうです?」


「……」


「あれ?

 美味しくありませんか?」


「……」


 あっ、ハーディ卿が涙を流してる。

 

「生まれてきて……」


「生まれてきて?」


「良かった……」


 えーっ、そんなに旨いの!?

 くーっ、二十歳になってからって決めてるから、まだ飲めないんだよねえ。

 これは羨ましい。


「長、凄い酒ができましたね」


「じゃろう、これは会心のできじゃった。

 また、蜂蜜水の樽を置いていってくださらんか?」


「いいですよ、十樽くらい置いていきましょう」


「おおっ!」


「この酒にはもう名前をつけてある。

 お主の名をいただいたがよいかな」


 えーっ、まさか「え」で始まる名前じゃないだろうね。


「えー、そ、その名前は?」


 恐る恐る聞いてみた。


「『フェアリスの友』

 どうじゃ、シロー殿にふさわしい名前じゃろう」


「ありがとうございます」


 俺は最高に嬉しかった。 

 フェアリスの広場は、夜遅くまでお祭り騒ぎだった。

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