第44話 家族でバカンス(上)


 フェアリスの里から点ちゃん1号に乗り、空路『南の島』に戻った。

 今回は街には寄らず、ポータルがある『緑山みどりやま』へ着陸する。

 寒冷地にある『緑山』は、コケットの材料である『緑苔みどりごけ』の産地でもある。

 みんなを1号の中に残し、俺一人が外へ出る。

 雪景色の中、三十分ほどで議長に話しておいた量の苔が集まる。

 全て取ると、苔の群生が元に戻るのに時間がかかるので、格子模様ができるように採集した。 

 みんなに点を付与し、体温の調節をおこなうと外へ出た。   

 

「「わーっ!」」


 ナルとメルがさっそく雪に突っこんでいく。

 まあ、これは仕方ないだろう。


 点ちゃん1号を収納し、山道を少しだけ歩く。

 山の斜面にぽっかり開いた穴を潜り、洞窟の奥へと入る。

 すこし広くなった空間に、鏡台のような石造りの建造物があり、その中央にポータルが黒い渦を巻いていた。

 

 俺が指を鳴らすと、『東の島』からリーヴァスさん、『聖樹の島』からミミとポルが現われる。


「楽しかったですかな」


「「うん!」」


 リーヴァスさんに頭を撫でられ、ナルとメルが笑顔で答えている。


「依頼いっぱいこなしましたー!」

「主に私のお陰でね」


 ポルとミミはいつもの調子だ。


「えー、ポータルを渡るのが初めての方もいますが、なんということないので、安心してください。

 ハーディ卿、黒騎士さん、大丈夫ですか?」


「わ、私は……大丈夫です」


 エミリーに手を取られたハーディ卿は、首を縦に振っている。

 ちょっと緊張してるね。


「黒騎士さん?」


 黒い渦を前にした黒騎士が、怯えた顔をしている。


「彼女は私が……」


 自身もポータルにそれほど慣れていないショーカが、黒騎士の手を取る。


「このポータルの向こうには、楽しいことが待っています!

 では、順番に潜ってください」


 みんなが手を取り合い、あるいは魔獣を抱いて黒い渦に入っていく。

 最後に残った俺が、点ちゃんとブランに声を掛ける。


「点ちゃん、ブラン、では行こうか!」


『(≧▽≦) わーい!』

「ミミー!」(わーい!) 


 ブランを抱き、俺もポータルに入った。

 さあ、楽しいバカンスだ! 

  

 ◇


 ポータルを渡り、俺たちが着いたのは、学園都市東北に浮く群島の一つだった。

 そう、ここは『学園都市世界』だ。

 この辺りは熱帯なので、みんなさっそく上着を脱いでいる。


 クルーザー型、点ちゃん3号を海に浮かべる。

 全員が乗りこむと出航。

 目的地は、これまで何度か訪れた常夏の島、『バカンス島』だ。

 小雨が降る中、3号は海上を時速二百キロで疾走した。

  

 目的地の島が近づいてくる。

 船層の壁を透明化し、外の様子を見る。

 雲が去り、晴れ間がのぞいていた。

 陽の光に照らされ、雨上がりの砂浜がキラキラ輝く。


「「わーっ!」」


 まっ先に甲板に上がったナルとメルの歓声が聞こえてくる。

 

「二人とも、水着を着てからよ!」


 ルルの声が聞こえてくる。

 ナルとメルが、いきなり海に飛びこもうとしたな。 

   

 俺も甲板に上がる。

 美しい島は以前見たままだった。

 ただ、ビーチの中央辺りに、なにか看板のようなモノが立っている。

 なんだありゃ?


 まっ白な砂浜の中央に船を着け、点魔法で伸ばしたタラップを渡り、砂浜に降りる。

 竜王様にもらった加護『竜眼』により強化された俺の眼に、看板に書かれた大きな文字が飛びこんできた。

 

『英雄島』

  

 膝の力が抜け、砂浜に両手両膝を着いてしまった。


「キレイね!

 素敵っ!

 リーダー、感動してる?」


 頭の上から黒騎士の声が降ってくる。

 いや、ショックを受けてるだけだから。


「シロー、水着をお願いしたいのですが、後にしましょうか?」


 ルルは看板を見て、俺がなぜガックリきてるか気づいたんだね。


『(*'▽') ご主人様、へたれー!』


 あーっ! 点ちゃんが言ってはならんことを!

 でも、言いかえす気力が……。


「パーパ、どうしたの?」

「いい子いい子する?」


 心配そうなナルとメルの声に、俺はヨロヨロと立ちあがった。

 二人が腰の辺りに抱きついてくる。

 指を鳴らし、点魔法でボードの文字を上書きする。


『バカンス島』


 よし、これでいいだろう。


「ナル、メル、ちょっと待ってね」


 砂浜と森との境界線辺りに、土魔術でシャワー付き更衣室を作る。

 この建物には休息所と宿泊施設も併設したので、かなり大きな建造物となった。   


「ほう、これはこれは。

 話には聞いていましたが素晴らしい島ですなあ」


 海を眺めているリーヴァスさんは、いつになくくつろいだ表情をしている。

 初めての人もいるから、シャワーの使い方を教えてから、仕事を分担する。

 ボードの用意、宿泊所の整備、バーベキューコンロの設置、泉での水くみが俺の仕事。

 リーヴァスさんは、本人が希望したので、バーベキューに使う肉の確保。   

 この島には、とても美味しい野生の猪がいるからね。


 ショーカ、黒騎士は魚介類の確保。

 この時のため、日本製の釣り竿も用意してある。

 俺が知る限り、釣り道具は日本のものがポータルズ世界群最高なんだよね。 


 砂浜の中央に椅子を置き、そこにでーんと控えてもらってるのがハーディ卿。

 彼の横に並んだ二つの椅子は、エミリーと翔太の席だ。

 もっとも、その二人は水打ち際で、キャッキャ言いながら水を掛けあっているから、そこには座っていないのだが。

 なぜか悔しそうなハーディ卿の顔が、少しおかしかった。


 割りあてがない者は、みんな海で遊んでいる。

 ルルは彼女らしい、白いワンピース水着。

 コルナは以前のスクール水着とは一転、大人っぽい紫色のビキニを身に着けている。

 コリーダはボディスーツ型の黒い水着だが、それが返って彼女の豊満な肉体を強調していた。

 舞子は、コルナからお許しが出たので、スカート付き水玉のワンピースだ。

 俺も、エルフ国で着ていた競泳水着から、膝まであるヤシの実模様の水着にしている。


 ナルとメルは、それぞれエメラルド色とピンク色のワンピースを着て、点ちゃんボードで波乗りしている。


『バカンス島』の初日は、こうして始まった。

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