第39話 企画会議(下) 


「さて、奥様、次の商品ですが……」


「シ、シローさん、『オクサマ』とは?」


 軍師ショーカ、そこ気にすると、いくさに負けるから。


『(*'▽') なんでー?』


 さあ、ショーカと点ちゃんからの突っこみは無視して説明にはいるよ。

 俺はテーブルの上に載せた青い箱を指さした。

 

「なんとこの箱、中に雪を詰めるだけで、あ~ら不思議!

 生鮮品を冷たいまま長期間保つことができます。

 今なら、超お得な価格ニーキュッパです。

 そして、今日だけのサービス、二箱でなんとサンキュッパ!

 さあ、チャンスは今だけ!

 お電話は――」


「シ、シローさん、雪で長期間保冷できるっていうのは分かりましたが、『ニーキュッピ』って何です?」


「メリンダ奥さん、惜しい!

 ニーキュッパだよ、あたっ!」


 舞子が赤い顔で手を振りあげている。


「史郎君、ふざけ過ぎ!」


「ご、ごめん、調子に乗っちゃった」


「これは便利ですな。

 しかし、地球世界のクーラーボックスと、どう違うのですか?」


「ハーディ卿、よく訊いてくれました。

 これ、ほとんど熱を通さないんですよ」


「もしかして、点魔法で作ったの?」


「正解だよ、コリーダ。

 地球のクーラーボックスと較べても、段違いの保冷力だね」


「地球でも売れる!」


 おメメがキラキラの黒騎士さんは、そこに気づいたか。


「これはね、この本店だけで売りだすつもりなんだ」


「ふむ。

 豊かなエルフの国からこちらの大陸に富を流そうという作戦ですな」


 さすがハーディ卿。よく分かってる。


「むっ、これ、雪と一緒に何か入ってますね」


「見つけたね、コナン坊や、それはコケモモじゃ」


「シロー、口調が……」


 ルルの目が怖い。

 だけど、会議って、そのままやっちゃうと、つまんないんだもん。


『(*'▽') ご主人様、ぱねー!』 


 えっ、ここで?


「もうすぐ『東の島』では、アイスクリームがバカ売れする(はず)。

 この箱は、アイスクリームを扱う店舗、それからアイスクリーム好きには欠かすことができないアイテムになるでしょう」


 それをきっかけに、大型の冷蔵庫を売りだす予定。

 

「とにかく、この島なら無限にある雪を使った商品だからね」


 俺が指を鳴らすと、テーブルに人数分のマティーニグラスが現われる。

 底に氷を敷いたグラスには、薄桃色のアイスクリームが少量入れてある。 


「さあ、究極の味を!」


 そう言う俺に、ルル、舞子、コリーダが刺すような視線を送る。

 そんなに睨まなくても……。


「「「おいしっ!」」」


 ね、そうでしょ?

 コケモモのアイス、最高なんだよね。

 特に『南の島』の西部で採れるものは、味が濃く、甘みが強いからアイスクリームにぴったり。

 俺を睨んでいたルルたちも、無言でアイスを食べている。

 

 ◇


「リーダー、これで終わりですね?」


 コケモモのアイスを食べおわったメリンダが、満足そうな顔でそう言う。

 いや、ここで満足してもらっては困るんだよね。


「そろそろ準備ができてるだろうから、倉庫へ行こうか」


「えっ? 

 最後の商品は、大きなものですか?」


「まあ、見てからのお楽しみだね」


 俺たちは連れだって店の裏口を抜け、大きな倉庫へ入った。

 そこでは、従業員や子供たちがボードに乗り、倉庫の中を円形に滑っている。

 コルナ、ナル、メルが時々、アドバイスをしていた。

 エミリーと翔太は椅子に座って見学している。


 ボードを手にしたダークエルフの若者がこちらに駆けてくる。


「リーダー!

 こいつは凄いですよ!

 売りだしたら、すぐに売りきれ間違いなしです!」


 子供たちは、ボード練習に夢中で、こちらなど見てもいない。


「リ、リーダー、これも扱わせてもらえるんですか?」


 メリンダが、上目遣いに俺を見る。


「ああ、そのつもりだよ。

 三年の期限はつけるけどね」


「期限?」


「ああ、三年したらボードが消える」


「ええっ!?」


「そうしとかないと、半永久的に使えちゃうからね。

 万が一、ゴミになっても困るし」


「こんなもの、ゴミにはならないとおもいますけど、確かに腐らないとなったらそういう配慮が必要ですね」


「これ、『東の島』でも売るんだけど、向こうは一年の期限付き、こちらは三年だから少しくらい高くしても、輸出できると思うよ。

 本数は、『東の島』ほど売らないつもりだし」 

 

 俺はそう言った後、指を鳴らした。

 目の前に、広さが六畳ほどある巨大なボードが現われる。


「なっ!?」


「驚いた?

 俺たちが乗ってきた三頭のトカゲ、ドラクーンだっけ?

 あれ、三頭とも買っておいて。

 このボードは、ドラクーンが荷物を運ぶためのボード」

 

「凄いです。

 でも、ドラクーンってもの凄く高くて――」


 俺が再び指を鳴らすと、ガシャリと音を立て、ボードの上に大きな革袋が載った。


「これ遣うといいよ」


「シローさん、これってまさか……」


 メリンダが、少し震えている。


「開けてごらん」


「銀貨? 

 いえ、金貨? 

 ……じゃない、ほ、宝石!

 うーん。。。」


 袋の中を見たメリンダが倒れる。


「店長!」

 

 店員の若者が、慌ててメリンダの体を支える。


「ボードの上に寝かすといいよ」


 俺の指パッチンで、大きなボード上にマットが現われる。

 若者は、メリンダの体をそこへそっと横たえた。


「リーダーは凄いって店長から聞いていましたが、予想以上でした」


 恐らく俺と同い年くらいだろう、ダークエルフの若者が、キラキラした目で俺を見る。

 

「凄いのは、資源の乏しいこの島で、しっかり商売している君たちだよ」


 これは心からの言葉だ。

 さて、点ちゃん、例のモノはいつ渡すかな。

 

『(・ω・)ノ そうですね、用意してもらう場所もあるし、明日にしましょう』  


 そうしようか。

 あれ渡すの楽しみだね。 

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