第38話 企画会議(上) 


 コルナには、会議が終わるまでボードの簡易講習をするよう頼んである。

 そのため、彼女はメリンダの弟や従業員の子供たちに囲まれ、店の裏にある倉庫へ向かった。

 ナル、メル、エミリー、翔太の年少組は、講習にアシスタントとして参加している。 

 

 一方、残った俺たちは、比較的小さな会議室に通された。

 簡素な布を張った壁を見るだけで、これまで訪れた『ポンポコ商会』の中で内装に一番お金を掛けていないと分かる。

 木のテーブルなどはかなり古いもので、少しガタついている。


 俺たちが会議室に案内された後、お茶の用意にメリンダたち本店の職員が部屋を離れた時間があった。

 その時をとらえ、ハーディ卿がみんなの感じていることを口にした。


「シローさん、どうしてこの店を本店にしたのですかな?」


 そうだよね。最も収益が上がらない店を本店にするって、普通じゃないかもね。


「一つは最初にできたお店が、こことエルフ王国のもの、合わせて二店舗しかなかったってこと」


 誰一人、納得した顔はしてないな。


「もう一つは、商売をする上で、この店が最も厳しい環境にあるからかな」


「経営の常識からいうと、間違っていますな。

 だけど、シローさんのやることです。

 きっとなんとかなるでしょう」


 えーっ、軽い気持ちで言ったのに、ハーディ卿の期待が重い。重すぎる。


「お待たせしました」


 メリンダが自らお盆にお茶を乗せ入ってくる。

 いよいよ会議の始まりだ。


 ◇


「今回、幾つかあきないのアイデアを持ってきました」


 俺が最初にそう言うと、ルル、コリーダ、舞子だけでなく、黒騎士やショーカさん、果てはロスまで目を丸くしている。

 おい、みんな驚きすぎだろう!

 俺が会議で発言するってそんなに珍しいか?


『(*'▽') チョー珍しー!』  


 面白がってる点ちゃんは、おいといて……。


「では、ここでお見せできるものを並べてみますよ」


 テーブルの上に、俺のオススメ商品がずらりと並んだ。


 ◇

 

「「「おおっ!」」」


 全員から歓声が上がる。


「まずはこの商品から」


 最初は計算機だ。

 エルフ、ダークエルフ両種族共、比較的計算が苦手なのを知っているので、地球で大量に買いつけておいた。


「これは何ですか?」


 若いダークエルフの従業員が質問する。


「簡単に計算ができる機械だよ」


「「「おおっ!」」」


 ダークエルフから歓声が上がる。

 

「これ、魔力で動いてるんですか?」


 ダークエルフの女性が計算機のキーを叩きながら質問する。


「いや、これはお日様に当てさえすれば、ずっと使えるという優れものだ」


「凄い!

 学園都市製の魔道具にも、そんなもの無かったぞ!」


 お、従業員が食いついてるな。


「これは一万個ほど買ってきてるから、『東の島』へ輸出すればいいよ」


「売れそう!」


 メリンダの目がキラキラだね。


『(☆ω☆) こんな感じ』  


「ええと、金額だけど、金貨一枚(約百万円)でいこうか」


「「「ええっ!」」」


 そこまで驚かなくても。

 

 隣に座っている舞子が俺に囁く。


「史郎君、あれって百円ショップの値札が付いてるけど……」


「舞子、そこ、気にしたら負けだから」


「ま、負け!?」


『( ̄▽ ̄) 久々の大黒屋シローですね』

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