第37話 ポンポコ商会本店 


 リーヴァスさんだけを城に残し、俺と家族は、点ちゃん1号で空路南の島へ向かった。

 この旅には、王都の支店長ロスさんも同行しているが、彼が一番緊張していた。

 かつて、『東の島』大陸に住むエルフと『南の島』に住むダークエルフは、戦争になりかけたほど仲が悪かった。

 ダークエルフの大規模な侵攻を俺たちがくいとめた後、形式的には和睦ということで落ちついたが、一朝一夕に両種族が仲直りするのはどだい無理な話だ。

 エルフにはダークエルフに対しての、ダークエルフにはエルフに対してのわだかまりがあるのだ。

 こうした中、エルフのロスさんが『南の島』を訪れるのは、かなり思いきったことなのだ。


 ◇

 

「うわー、全然違う!」

「違うー!」


 初めて『南の島』を訪れたナルとメルは、その街の姿があまりにエルフ王都と異なるので驚いている。

 その厳しい環境から大きな木がほとんど育たない『南の島』は、荒野の中に小さな都市が散らばっており、家々は粘土で作られている。

 平屋が多く、街には活気がない。

 服装を見ても、地味なものを着ている人が多く、生活にゆとりがないのは一目瞭然だった。

 ただ、それでも以前ここを訪れた時に比べると、人々の表情は、はるかに明るかった。

 

「うわーっ! 

 あれ、なーに?」


 メルが指さしているのは、トカゲに似た大きな生き物で、それに鞍と手綱を着け、人が背中に乗っている。

 こんなこともあろうかと、用意はしてきていた。


「ナル、メル、あそこを見てごらん」


 俺が指さした先には、倉庫のような建物があり、その前には数匹のトカゲが体を休めていた。


「あの店で、魔獣を貸してくれるんだって」


「「わーい!」」


 二人はトカゲがいる方へ、さっと駆けだした。


「史郎君、ナルちゃんとメルちゃんって、あんなのに乗れるの?

 大人が乗る魔獣じゃないのかな?」


 舞子が二人のことを心配してくれる。


「ふふふ、マイコ、二人の雄姿を見たらきっと驚くわよ」


 コルナが笑いながら舞子の手を引き、トカゲの方へ歩いていく。


「おい、あんたら、人族だな。

 人族なんかがここに何の用だ?

 あっ、お前はエルフか!

 なんでこんなところにいる!」


 トカゲ貸出業を営んでるらしい、背が低いダークエルフのおじさんは、エルフであるロスさんの姿を見るなり、喧嘩腰になってしまった。


「ドラクーンを三匹借りたいんですが。

 ナーデ議長から連絡が来ているはずだけど」


 有能なナーデ議長が、その辺をおろそかにしているはずはない。


「えっ、あ、そういや、茶色の布を巻いた頭……あんた英雄シローか?」


 ぐはっ! 不意打ちですね、これは。

 

 よろめいた俺を支えると、ルルが代りに話してくれた。


「ええ、シローです。

 魔獣を借りてもよろしいね?」


「あ、ああ、ぜひ借りてってくれ!

 南の島を救った英雄のためなら、なんでも協力させてもらうぜ!」


 ぐうっ! また攻撃が来た。


『(・ω・)ノ ちょっと英雄って言われただけでしょ。神経質過ぎますよ!』


 いや、点ちゃん、そうはいってもね、これマジきつい。


 おじさんは、俺と点ちゃんの会話が聞こえないから、そのまま話しつづけた。


「ただなあ、ドラクーンは気性が荒いから、英雄のあんたでも、初めてで上手く手綱が取れるか分からんぞ」


 おじさんは、自分の頭に乗せたベレー帽に似た青い帽子をぽんぽん叩きながら、そう言った。


「「パーパ!」」


 振りかえったおじさんの目には、ナルとメルがそれぞれ一際大きなトカゲに乗り、近づいてくるのが映ったはずだ。


「嘘だろ!

 めったに懐かない、メトスとリガンがなんで?!」


「じゃあ、この二頭とあそこの一頭を借りますよ」


 俺たちは三組に分かれ、それぞれトカゲの背に乗った。

   

 ◇


 俺が操る巨大トカゲを先頭に、俺たちは街路のまん中を進んだ。

 ちなみにブランは、トカゲの頭に香箱座りしている。

 まるで、白いとさかだね。


 時々馬車が停まって俺たちに道を空ける。この国では馬よりトカゲの通行が優先される法があるのだ。

 ダークエルフの住民は、三匹の巨大トカゲが並んで走る姿を驚いた顔で眺めていた。


 二十分ほど走り、ポンポコ商会に到着した。

 店の前には、若い女性と三人の男性が並んでいた。

 もちろん、全員ダークエルフだ。


「シローさん!

 お久しぶりです!

 ミミさんとポルナレフさんは?」


 一歩前に出たダークエルフの女性が挨拶する。

 俺はトカゲから跳びおりると、それに答えた。


「ホント、久しぶりだね。

 ミミとポルは『聖樹の島』にあるギルド本部で働いてるよ」


「そうですか。

 みなさん、初めまして。

 私が『南の島』の『ポンポコ商会』を任されているメリンダです」


 俺の家族と仲間もトカゲから降り、メリンダと挨拶を交わす。

 やっぱり、ロスさんを見て驚いてるな。

 だけど、嫌がっているようには見えない。

 この店で働いているダークエルフは、エルフへの偏見がないのかもしれない。

 メリンダに店を任せて正解だったな。


「おや、一軒だけど聞いていましたが……」


 三軒続きの店舗を見て、俺より先にハーディ卿が質問した。


「それが、コケットの売上が順調で、両隣の店舗が空いたとき、思いきって買取ったんです」


「凄い!」


 それを聞いた、地球支店の黒騎士が驚いている。 


「いえ、ウチは『本店』ということになっていますが、他の支店と較べると売上はまだまだです」


 産業があまりない『南の島』でがんばっているのだから、それでも大したものだ。


「今回は、あきないの起爆剤になるものを幾つか持ってきたよ」


「ありがとうございます!」


 俺の言葉で、メリンダの顔がぱっと明るくなった。

 

「会議の準備はできてる?」 


「はいっ!」


 俺には珍しく、この会議ではヤル気を見せるつもりだ。


『(*'▽') それ、普通だから』

「点ちゃんの言うとおりですよ、シロー。

 ここでは寝ないでくださいね」


 グサッ、ルルと点ちゃんから同時に突っこまれちゃった。

 今回は違うのだが、今までの俺を見てきた二人には言い訳が通用しそうにないね。


「大丈夫、今回は本気だから見ててよ」


『(u ω u) はいはい』

「はいはい」


 ……まあ、そうなるよね。

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