第40話 大きなプレゼント(上)


 その日の夕方、俺たちは評議会のお招きで、迎賓館に泊まることになった。

 評議会は、ダークエルフの最高意思決定機関だ。

 この迎賓館、この日のためにわざわざ建てたそうだ。官庁が立ちならぶ一画に一際大きな粘土造りの平屋がある。

 オフホワイトの壁には、白い粘土で美しい模様が描かれていた。


 三頭の巨大なトカゲ、ドラクーンに分乗した俺たちが迎賓館の前に乗りつけると、警備の衛士が腰を抜かした。

 ドラクーンの固い鱗が彼にぶつかりそうな距離で、メルがそれを急停止させたからだ。

 おかげで、メルはルルから叱られちゃったけどね。


 迎賓館の前には、数人の貴族を後ろに従えた、評議会の議長ナーデがいた。

 初老のダークエルフは、以前俺が会ったときに比べ、ずっとエネルギーに満ちあふれていた。


「英雄殿!

 世界の壁を越え、はるばるご足労頂き感謝いたします」


 ぐはっ! 第一声がそれかよ……。


「ナーデ議長!

 シローさんは、そう言う呼び方がお好きではありません!」


 メリンダ、よくぞ言った!


「ナーデさん、俺とは以前のように話してください」


「しかし、世界群を救った英……救った方を適当に扱うなどできません」


「本当に世界を救ったのは、ここにいるエミリーです。

 頼むから、俺のことは、以前のように扱ってください」


『(*'▽') お頼みもうすー!』


 あー、点ちゃんが、また変な言いまわしを覚えてる。

 このセリフだと、きっと黒騎士さんから習ったな。

 翔太の話では、彼女、戦国武将好きらしいから。


 ◇


 評議会議員、貴族たちがエミリーに対し、世界群を救ったことに対して正式なお礼をするところから始まった儀式は、比較的短時間で終わった。


 その後、立食でおこなわれた夕食は、年少組に凄く受けた。

 以前、ドラゴニアで美味しい貝料理を食べてから、シーフードに目覚めたナルとメルは、魚介類を主体としたバイキングに夢中になっている。

 噂には聞いていたが、『南の島』が海の幸に恵まれているというのは本当だね。


 毛のような足が特徴の『ムリムエビ』の酒蒸しは、特に旨かった。

 香ばしい風味のタレに漬けて食べるのが最高だ。

 ルルは、ヒラメに似た『底魚そこうお』の姿揚げに夢中になっている。

 コルナは、肉っぽい食感の『海牛うみうし』(地球のウミウシとは違う)が気にいったようだ。

 コリーダは、食べるより、ダークエルフの貴族たちに囲まれている。


 ダークエルフにしては珍しいムキムキの巨漢が近づいてくる。

 どっかで見た事あるよね。

 

「シロー殿、ご壮健であったか?」


 近い近い! なんか熱くるしいぞ、このおじさん。


「リーヴァス殿はおられぬのか?」


 ああ、そうだ。この人、ダークエルフ侵攻の時、リーヴァスさんと決闘した人だね。


「プーダ将軍、もうシローさんはご存知でしたか。

 では、ご家族の方々を紹介します」


 俺の困った顔を見たメリンダが、将軍を連れていった。


「今は彼が軍を率いております」


 その声で後ろを振り向くと、ナーデ議長が立っていた。


「ナーデ議長、その後、経済の方はどうです?」


「学園都市世界との交易が再開したのもあって、少しずつですが上向いています。

 あなたが作った『ポンポコ商会』が、とても力になってくれていますよ」


「そうですか?

 それはよかった。

 ところで、『緑苔みどりごけ』の方はどうなっています」


「アドバイスを頂いたように、国で管理しています。

 ここのところ『ポンポコ商会』が大量に買ってくれていますが、まだまだ余裕があります」


「今の何倍まで出荷できますか?」


「そうですね。

 今は『緑山みどりやま』周辺に限って管理していますが、他の場所もとなると十倍、いや、二十倍の出荷が見込めます」


「それはいい!

 では、在庫を全部買いますから、よろしくお願いします」


「はははは、相変わらずですね、君は!」   


「ところで、今回は、いくつか許可をもらいたい案件がありまして」


「では、後ほど別室で。

 せっかくですから、今はお食事を楽しんでください」


「ありがとう、ナーデ議長」

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