第23話 新装開店(上)
きちんとした店舗すらなかった『ポンポコ商会ケーナイ支店』は、街一番の大きな建物として生まれかわった。
開店前から、店の前に長蛇の列ができた。
ミミとポルが行列の整理係だ。
「この人の数なに!
ドラゴニア支店より凄い!」
ポルはドラゴニアで、何度も行列整理した経験があるからね。
「はーい、これどうぞ」
子供連れのお客さんには、ミミが色とりどりの風船を配っている。これは俺が地球世界で大量に仕入れてきたものだ。
見たこともないものをもらって、子供たちは最初驚き、次に喜んでいる。
店舗部分は教室を三つ合わせたほどあるのだが、すでに人で一杯だ。
今日だけの限定品も多く、ルエランから仕入れた高級ポーションのコーナーと、地球から仕入れたお菓子を並べたコーナーは特に盛況だ。
「な、なんなんだい、この水薬(ポーション)は!」
店員にスポイトで手の甲に垂らしてもらったポーションを舐めた途端、赤いローブを羽織った高齢の猫人女性がそう叫んだ。
「師匠、どうしたんですか?」
隣にいる小柄な猫人の若者が尋ねる。
「こりゃ、高級ポーションだよ!
しかも、この値段!
どうなってんだい、この店は!」
「そんなに凄いんですか?」
「ああ!
この薬を作れるなら、あたしゃ、死んでもいいよ!」
「ええと、ちょっといいですか?」
「あんた、誰だい?」
俺は猫人の二人を店の奥へ案内した。
「こ、ここは!?」
透明なビンや天秤計りなど、製薬関係の機材がずらりと並んだ大きな研究室に、二人は驚いている。
「紹介がおくれましたが、俺がこの店のオーナー、シローです」
「あ、ああ、わたしゃ、薬師のペーロンってんだ」
「師匠、シローって、あの英雄じゃないですか!?」
ぐはっ!
この世界からは、俺をそう呼ぶ黒歴史を消したはずだったのに!
「えっ!?
あんた、本当にあの『黒鉄シロー』かい!?」
そうそう、そう呼んでくれるなら問題は無いんですよ。
「ええ、ペーロンさん。
製薬に興味があるなら、ここで働いてみませんか?」
「ど、どういういことだい?」
「住む場所は、こちらで用意します。
給料はきちんとお支払いしますし、ポーションのレシピも教えられますよ。
ただ、そのレシピで薬を作るのは、この建物の中に限らせてください」
ペーロンが床に垂らしていた、猫人特有のにょろにょろ尻尾(しっぽ)がピーンと立つ。
「おやおや、そんな条件でいいのかい?
あんたにゃ、何の得もないだろう?」
「病気の方が、一人でも薬で助かればそれでいい。
あなたもそう考えていませんか?」
「……ふむ、アイツから傑物だとは聞いていたが、これほどとはね。
いいだろう、その話に乗った!」
「し、師匠!
『猫町(ねこまち)』の店はどうするんです!?」
若い猫人は、ペーロンさんの決断に反対のようだ。
「あそこは、あんたがおやり」
「ええーっ!?」
「そのうち、ポーション品質向上のヒントを教えるよ。
その程度なら許されるんだろう、シローさん」
「ええ、もちろん。
ところで、俺のことをどなたから?」
「猫賢者って言われてる男だよ。
小さい頃からの腐れ縁でね」
猫賢者の知りあいだったか!
社員に勧誘するのは、白猫と点ちゃんのコンビで内面をチェックし合格した者だけなのだが、細かい情報は俺に伝えないように頼んであるからね。
「じゃ、さっそくポーションのレシピについて教えてもらえるかい?」
「ペーロンさん、今日は開店日だから忙しいんですよ。
そうですね、俺がこの世界にいられるのも短いから、三日後ってことでどうでしょう?」
「ああ、それでいいよ。
お前は、さっそくこの店を手伝いな!」
ペーロンが、厳しい口調で弟子に命じる。
「えー、そんな殺生な!」
降ってわいた仕事に、猫人の若者が悲鳴を上げる。
「店を任せただろう?
そんなことでどうする!
なんでも貪欲に吸収しな。
これも修行だよ!」
「は、はい」
猫人の若者は三角耳がぺたりと垂れてしまった。
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