第19話 白猫(改)


 次の日、マスケドニアの『英雄部屋』で、俺たちが次の世界へ旅立つための準備をしていると、ドアがノックされた。

 ドアを開けると侍従が立っており、その後ろに先日紹介された三人の国家元首が立っていた。

 彼らは、片手にお揃いの布袋を下げていた。

 ベッドがある部屋は散らかっているので、隣の部屋に移り、丸テーブルに座ってもらう。


「この度は、えい……あ、いやシロー殿のご尊顔が拝見できて幸いでした!」

「ええ、本当ね、英……いや、シロー殿とお目に掛かれ、他国に自慢できますわ!」

「全くです、英……あ、いや、シロー殿と会えたことは、末代までの自慢ですな!」


 男二人、女一人の国家元首が、口々に挨拶する。

 三人とも、「英……」って、ワザとやってないか?


「しかも、この度は、このようなお土産まで頂いて」


 一人の国王が、金糸銀糸で織られたきらびやかな手提げ袋から、これまた豪華な金色の箱を取りだす。

 箱の中から出てきたのは、小さな白猫のぬいぐるみだった。

 片目をウインクの形に閉じたぬいぐるみは、招き猫のポーズでこちらにピンクの肉球を見せている。


 がっちりした体格の立派なアゴ髭を生やした国王が、その肉球をプニプニ触る。


「ニャンニャン♪

 いや~、この白猫のモデルは、英……シロー殿の従魔というではありませんか。

 しかも、この感触、癖になりますなあ」


 彼は男らしい髭面を崩している。


「ニャンニャン♪

 それから、これは商業の神様でもあらせられるそうではありませんか!

 我が国は、『ポンポコ商会』からこれを大量に仕入れる予定です」


 もう一人の国王は、肉球を触ったとたん油断ならない目が潤み、とろけそうになる。

 これ、やばくない?

 なにか、危険なものを感じるぞ。


「ニャンニャン♪

 もう、たまらない。

 白猫ニャンニャン様に囲まれて暮らしたい!」


 おばさん、口の端からよだれが……。

 陪臣や国民には見せられない女王様の顔だね。

 

「白猫様によって、英……シロー殿と関係のできた我が国は、もう安泰じゃ」

 

 いや、おばさん、そんな下心、はっきり口にしちゃダメでしょ。

 

「ちょ、ちょっと、それ触らせてもらえますか?」


「「「おお、余の(われの)(わらわの)ニャンニャンをどうぞー!」」」


 三人が白猫を突きだすので、しかたなく三匹とも肉球をプニプニする。

 やっぱり!

 この感触、キューちゃんの毛が入ってる!

 どういうこと!?


 ◇


 黒騎士さん、ハーディ卿に割りあてられた続き部屋へ行く。

 ノックしてから部屋に入ると、二人とも共有スペースで旅立つ前の荷づくりに励んでいた。


「あ、リーダー!」


 黒騎士さんが手を止め、俺の方を見る。

 

「黒騎士さん、ハーディ卿、たった今、俺の部屋に国家元首の方々がいらっしゃったんだけど、三人とも特殊素材入りの招き猫持ってたんだよね。

 あれ、どうしたと思う?」


 答えたのは、ハーディ卿だ。


「昨日の会議でシローさんが寝ている間に、例のハート型クッションをばらして中の素材を確認したんです。

 その時、国家元首の方それぞれに、招き猫をプレゼンすることを思いつきまして」


「でも、あれ、ヒロコ王妃へのプレゼントだったんだけど」


「そうなんです。

 最初、シローさんに新しく『白猫ニャンニャン』を作ってもらう予定だったのですが、王妃様に話したところ、ハート型クッションの中身を素材として利用する許可が下りました」


 ヒロ姉、なにやってんの!


「あれならクッションと違い肉球部分だけで済みますから、素材の量を抑えられます」


 ハーディ卿はそう言うと、胸を張った。


「わ、分かりました。

 その方向で……」


 なんか、俺の存在っていらなくない、この商売?


『(; ・`д・´)つ 今頃気づくなっ!』


 ひい、点ちゃん……。


『(u ω u)ノ でも、ご主人様がいないと、キューちゃんの素材が手に入らないよ』


 おお! そこを分かってくれるの、点ちゃん!


『( ̄▽ ̄) ふっ、ちょろいご主人様。これが黒騎士さんが言ってた、下げて上げるか』


 ひ、ひどいっ! 最後にもう一度下げてるじゃん!

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