第16話 国王とお后の寸劇


「ぶはっ!」


 息苦しさで目が覚める。


「きゃはははっ!」

「ぶはっ、ぶはっ!」


 メルが枕を俺の顔に当て、俺に馬乗りになっている。

 ナルは俺の側に座り、やはり枕を手にしていた。

 ああ、もう朝か。

 あれ、見慣れない天井だな……。


 横を見ると、ブロンドの髪、栗毛から突きでた三角耳、茶色の髪が並んでいる。

 あれ? ルル、コルナ、コリーダ……。


 自分がキングサイズより大きなベッドに横になっていると気づく。

 ここって……マスケドニア王宮の『英雄部屋』か!


 ノックの音がしたので、いつのまにやら着替えさせられていたバスローブっぽい衣装のまま、ドアを薄目に開く。

 そして、すぐにバンとドアを閉めた。


「おい、ボー!

 酷いじゃないか!

 俺の顔を見るなり、なんで閉めるんだよ!」


 勇者加藤の大声が、寝起きの耳に痛い。


「なにかと準備があるから、少し待ってくれ!」


 ルルたちを起こし、服を着替えさせる。

 三人とも、なぜか薄いネグリジェみたいなのを着てるんだよね。

 心臓に悪いよ。

 加藤なんかに、絶対見せられない格好だ。


『(・ω・)ノ 嫉妬ですね』


 いや、点ちゃん、それはそうなんですけど、今はそれどころじゃないよ。


 ◇


 長いこと待たされたと文句を言う加藤を放っておいて、続き部屋に移る。

 ここも『英雄の部屋』の一室で、大人数が座れる立派なテーブルがある。

 加藤が声を掛けたのか、メイドたちがわらわら入ってきて、朝食の用意を始めた。


「カトーさん、遊ぼー!」

「ぶはってしよー!」


「ナル、メル、まず朝ご飯を食べてからですよ」


「「はーい、マンマ!」」


 ルルに諭され、ナルとメルが大人しくテーブルに着く。


「お兄ちゃんの英雄恐怖症にも困ったものね。

 昨日、大変だったのよ!」


 コルナが意味あり気な視線を俺に送る。


「ふふふ、コルナ、とにかくまず食事にしましょう」


 コリーダは、なぜか含み笑いしている。


「「「いただきます!」」」


 加藤を交えた朝食が始まった。

 みんな笑顔で朝食に舌鼓を打っている。

 ここのシェフは、ホント凄腕だからね。


「ボー、地球世界はどうだった?」


「ああ、色々あったぞ。

 お好み焼き買ってきたから、昼に食べるといい。

 焼きたて熱々だぞ」


「おおっ!

 そりゃすげえ!

 ミツの分もあるか?」


「ああ、もちろんだ」


 今回、お好み焼きは、ナルとメルの分を五十枚確保し、残りの五十枚をお世話になった人たちに配る予定だ。


「加藤、そういえば、エミリーや黒騎士さんは?」


「ああ、みんなエミリーちゃんの部屋で楽しそうに朝食してたぞ」


「ならいいんだが」


「ただ、気になるのが、姉ちゃんが部屋に入ってきた途端、黒騎士さんがひどく怒りだしたんだ。

 お前、なぜだか分かるか?」 


 分かり過ぎるほど分かるよ。新入社員のくせに、死ぬほど忙しい『ポンポコ商会』を放っておいて、こっちの世界に来たんだからな。


「ああ、黒騎士さんにしっかり叱ってもらわないとな」


「どういうことだ?

 まあ、いいけど。

 このところ、姉ちゃん、新婚生活で浮かれすぎて、ちょっとウザかったからな」


 ヒロ姉、陛下とのアツアツをどんだけ弟に見せつけたんだよ!


「なんかな、廊下の向こうから四角く切った揚げパンを口にくわえて走ってきたと思ったら、陛下にぶつかって、『きゃ、遅刻しちゃう!』とか言ってたぞ」


 おいおい、なにやってる。


「陛下も、『あれ? 君はカトーさん』とか言ってんの。

 どうなってんのかね」


「加藤、もしかしてそのとき、二人は――」


「ああ、姉ちゃんはセーラー服っぽい格好してたし、陛下は学生服っぽいの来てたよ」


 ……なるほど。


「加藤、すまん!

 それ、俺のせいだわ」


「どういうことだ?」


「いや、『神樹戦役』で手を貸してもらったお礼に、禁書庫の地下にマンガ図書館を造ったんだ。

 きっとそれの影響だろう」


「おい、マンガ図書館って地球のマンガか!?」


「ああ、そうだ」


「おーっ!

 そりゃいいな!

 陛下に頼んで読ませてもらおう」


「うーん、そうだな、しばらくはやめておけ」


「なんでだ?」


「マンガ図書館が、二人の『愛の巣』になってる可能性がある」


「げっ!

 そりゃ、確かに……。

 しばらくは遠慮しとくか」


「ああ、そうしとけ」


 英雄の部屋では朝食が終わり、食後のお茶が出されると、みんながのんびり時間を過ごしていた。

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