第14話 久しぶり


 俺と家族は、セルフポータルを渡り、パンゲア世界アリスト王国へ帰ってきた。

『くつろぎの家』で二泊したら、再び異世界旅行に出る予定だ。


 ナルとメルはポポの世話、ルル、コルナ、コリーダは地球から持って帰ったお土産の整理とみんな忙しくしている。

 リーヴァスさんは黒騎士を連れ、ギルドへ報告に行った。


 俺? 俺は『くつろぎの家』の離れである『やすらぎの家』で、ここアリストの『ポンポコ商会』を任せているボスやキツネたちと、業務の確認をしている。商売に関するハーディ卿からの的確なアドバイスは、彼らにとってまさに目からウロコだったようで、途中から卿に向けられる尊敬の視線が凄かった。

 世界群を巡る旅行の最後には、それぞれの世界にある『ポンポコ商会』の支店長を集め、会議を予定しているから、それの準備もしておく。


 ナルとメルは、ポポの世話が終わると、三階の子供部屋に上がりすぐに寝てしまった。時差もあるし、舞踏公演なんかに参加したから疲れたのだろう。

 

 ◇


 私、『黒騎士』は、リーヴァス様に連れられ、アリストのギルドを訪れた。

 開けはなたれた扉を潜ると、丸テーブルに座っている冒険者たちが、一斉にこちらを見た。


「リーヴァス様!」

「雷神の旦那!」

「お帰り!」


 さすがリーヴァス様、ここでも凄い人気だ。先日、ニューヨークで開かれた舞踏公演でも、ほんの短い間、舞台に姿を現しただけだったのに、『異世界通信社』へ彼についての問いあわせが殺到したそうだ。ハリウッドからも、映画出演の話が数件来ていた。


「兄貴、お帰んなさい!

 おっ、黒騎士じゃねえか。

 久しぶりだな!」


 熊のような巨体を揺らしながら近づいてくるのは、以前ここを訪れた時、ダンジョン体験で私たち『プリンスの騎士』を率いたマックさんだ。


「お久しぶり」


「元気そうだな、ガハハハ!」


 マックさん連れられ、リーヴァスさんがギルド奥へ入っていくと、とり残された私の周りに冒険者たちが集まってきた。


「元気だった?」

「この前は、ホント世話になったな!」

「シローからお土産預かってないの?」


 冒険者たちが、口々に別の事を話しかけるから、もともと口下手な私は、口ごもるだけで答えることができない。


「黒騎士さん、お久しぶり」


 カワイイ声がした方を振りかえると、緑の服を着た、妖精のように小さな女性が立っていた。


「みなさん、一度に尋ねても答えられませんよ」


「キャロちゃん!

 それもそうだわ。

 質問は一人一つ、いいわね」


 顔に斜めに走る傷がある、中年女性がそう言うと、冒険者たちが頷いた。


「じゃ、あんたから質問しな」


 女性は丸テーブル横の椅子に私を座らせると、向かいに腰を下ろした男性冒険者を指さす。

 恐らく二十台後半だろう、がっしりした彼が身を乗りだし尋ねる。


「シローの故郷ってどんな世界なんだい?」


「ええと……機械が多いです」


「キカイって何だ?」


「金属の道具です」


「へえ、魔道具みたいなもんかい?」


「はい」


「じゃ、次はあんただよ」


 女性冒険者は次に、まだ少年にしか見えない冒険者を指さした。


「え、ええと、ボク、いや、俺リンドです」 


 この少年、あまり話すのが得意ではないみたいね。好感が持てるわ。


「シローさんって、その世界にいたときから凄かったんですか?」


「昔の彼はよく知らないの」


 少年の横に立っている少女が質問する。


「シローさんの世界には魔術がないって本当ですか?」


「本当よ」


「「「ええー!?」」」


 冒険者たちが驚きの声を上げる。

 なんで、ここでそういう反応なのか、よく分からない。

 この世界では、魔術が当たり前ってことなのかな?


 ◇


 リーヴァスさんをギルドに残し、数人の冒険者につき添われた私が、シロー君の家に帰ると、耳が長い若者にリビングに行くよう言われた。  

 コリーダさんと違って肌の色は白いけれど、きっとあの人もエルフね。


 窓の外に緑の庭が広がるリビングには、大きなテーブルがあり、シローさんの家族とハーディ卿が席に着いていた。


「黒騎士さん、お帰りなさい。

 ギルドはどうでしたか?」


 シロー君がさっと立ちあがり、私の椅子を引いてくれる。

 彼がモテるのも分かるわ。


「大歓迎!」


「黒騎士さんってギルドで人気あるんですよ」


 ルルさんが、私に微笑む。

 どういうことだろう。ギルドの人たちとは、以前、冒険者体験で会っただけだけど。


「ああ、黒騎士さんみたいな、クールなタイプって、アリストギルドにはいないから」


 私がクール?

 ちょっとシロー君の言葉が理解できない。


「さて、みんな揃ったことだし、そろそろ呼んでいいですね?」


「お兄ちゃん、ハーディさんを焦らさないの!」


「分かったよ、コルナ」


 再び席を立ったシロー君が右手の指を鳴らす。

 いきなり、私の背後に人の気配が現われた。

 振りかえると……。


「プ、プリンス!」


 そこには、愛しの翔太様が!

 その横には、顔見知りの少女が立っている。

 ガタリと椅子を鳴らし、立ちあがったハーディ卿が彼女に抱きつく。


「エ、エミリー!」

「パパ!」


 小柄な少女は大きな父親の体に埋もれている。

 二人は黙って抱きあっていた。


「黒騎士さん、久しぶり!

 騎士のみんなは元気?」


「翔太様、みんな元気です!

 あ、桃騎士が違った」


「えっ、桃騎士さん、何かあったの?」


「リーダーのおかげで元気になった」

 

「シローさん、何があったの?」


「ははは、翔太、桃騎士さんは大丈夫だよ。  

 息子さんと離れ離れになっていたんだけど、また一緒に暮らせるようになったんだ」


「えっ、そうだったの?

 桃騎士さんって、子供いたんだ」


「「マサ!」」


「え? 

 ナルちゃんとメルちゃんは、桃騎士さんの息子さん知ってるの?」


 翔太様が驚いている。


「「友達ー!」」


「へえ、いいなあ」


「「ショータも友達ー!」」


「……へへ、ありがとう!」


 ナルちゃんとメルちゃんに友達認定された翔太様が、赤くなってる。

 このお姿、未来永劫、心の写真に焼きつけておこう。

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