第13話 魔法少女の理由


 明日には地球世界を出発するという日、俺の家族はカフェ『ホワイトローズ』に集まった。

 ここの地下には地球世界のギルド支部もあるから、リーヴァスさんは、昨日から泊まりこみ、白騎士にギルドマスターの心得を指導していた。


 俺はリーヴァスさん以外の家族を連れ、入り口に臨時休業の札を下げたカフェの前に瞬間移動で現れた。

 待ちきれないナルとメルが、自分たちでドアを開けカフェに駆けこむ。

 

「「マサー!」」

「ナルちゃん、メルちゃん!」


 見た目の年齢が近いナルとメルが、桃騎士の息子、雅文まさふみに抱きついている。

 彼らが会うのは三度目だが、子供たちって、すぐに仲良くなれるんだよね。

 でも、雅文。ナルとメルは君にやらないよ!


『(*'▽') 親ばかー!』


 カフェでは、『ポンポコ商会』を支える五人の騎士たちと『異世界通信社』の柳井さん、後藤さん、遠藤が待っていた。


「そろったわね。

 じゃあ、送迎会を始めましょう」


 白薔薇を左手に持った白騎士が、右手を胸に当て優雅に一礼する。


「ちょっと待ってね」


 俺が指を鳴らすと、がっちりした体格の白人男性が姿を現す。


「「「ハーディ卿!」」」


 騎士たち、柳井さんたちの声が揃う。


「みなさん、お久しぶりです。

 今回は、私も異世界旅行に同行することになりました」


「「いいな~!」」


 女子高生の双子、緑騎士と黄騎士が、羨ましそうにハーディ卿を見た後、チラチラ俺の方を見る。

 君たちは、学校があるでしょ。


「今回残るみなさんも、その内、異世界に招待しますから」


 とりあえず、地球残留組をなぐさめておく。 


「「やったー!」」


 女子高生騎士二人が跳びあがって喜ぶ。


「シ、シローさん、私たちも異世界に行けるんですか!?」


 長身で細身のイケメン、後藤さんが話に食いつく。


「ええ、希望するなら、いつか連れていくつもりですよ」


「「「やったー!」」」


『異世界通信社』の柳井さん、後藤さん、遠藤が跳びあがる。

 君たち、大の大人が女子高生と同じ反応ってどうよ。


「ハーディさん、やっとエミリーさんに会えますね!」


 柳井さんが、笑顔でハーディ卿に話しかける。


「ええ、柳井さんには、エミリーの事で寂しいとき、いつも慰めてもらいましたね。

 ありがとう!」


 ウチの社員、ホント凄いな、世界的な大富豪の相談相手しちゃってるよ。


『(*'▽') ぱねー!』


 ね、点ちゃん。


 ナルとメルが雅文から離れハーディ卿の方へ行ったので、俺は前から気になっていたことを尋ねてみた。


「雅文君、お母さんはどうして魔法……少女なの?」


「あ、ナルちゃんとメルちゃんのパパ!

『魔法少女マジョリカーナ』って知ってる?」


「どこかで聞いたことがあるような気がするよ」


「ボクが小さな頃、ママと一緒にテレビでその番組を見てたんだって。

 そのアニメを見ると、なぜかボクがご機嫌になったんだって。

 ボクがパパの所に行くことになった時、困ったことがあったら、ママが魔法少女に変身してボクの所へ飛んでくるって言ってた。

 それから、ときどき会うと、あんな格好をしてたの」


 さすが伝説のハッカーが育てた息子だ。まだ小学生にもならないのに、きちんとお話しできている。

 しかし、桃騎士が魔法少女の格好をしていたのは、そんな理由だったのか。あの格好をしている時、彼女は息子雅文を近くに感じていたのだろう。

 へんてこな呪文や魔法少女の格好は、母親の愛情が形を変えたものだったのか。


 俺は目頭が熱くなった。

 

 ◇


 送迎会が終わり、家族がまだカフェでくつろいでいる時、俺と騎士たちは業務関係の最終確認に地下の『ポンポコ商会』にやってきている。

 

 広い会議室に集まり、事務についていくつかの点を確認しおえたので、隣に座っている桃騎士に話かけた。


「桃騎士さんがいつ魔法少女になったか、雅文君に教えてもらいましたよ」


「え?

 雅文、なんでそんなこと知ってたのかな?」


「え? 

 どういうことです?」


「私が魔法少女になったのは、高校卒業するくらいの時だったのね」


 えっ!?

 どういうこと?

 魔法少女の格好は、純粋に趣味だったの!?


「高校生の頃、『魔法少女マジョリカーナ』てアニメがあってね、それに影響されたのよ」


 あっ! 雅文と見ていたのは、その番組の再放送か!


「それから、私はずっと魔法少女のまま。

 永遠の魔法少女、ぴろぴろり~ん♪」


 俺の感動を返せーっ!


『(*'▽') え~い、返せー!』


 点ちゃん、ちょっと面白がってない?

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