第72話 待ち時間(下) 


 ギルドの個室に連れこまれ、大柄なギルマスからお説教を受けた後、俺はシュテインから持たされていた書類を彼に手渡した。


「おう?

 こりゃ、王家の紋章じゃねえか!」


 手紙を目にしたギルマスは驚きの声を上げた。


「おい、お前!

 シローと言ったか。

 お前、銀ランクの冒険者だったのか?」


「はい、そうです」


「どこのギルドに所属してる?」


「ええと、ベラコスです」


「なるほど、サウタージ姉さんか……。

 いつ銀ランクに昇格した?」


「つい最近ですが?」


「……うーん、国王直筆の推薦状があるなら仕方ねえか。

 まあ、サウタージ姉さんが銀ランクに認めたってなら、問題ねえだろう」


「なんの問題がないんです?」


「お前は今日から金ランクだ」


「えっ!?」


「金ランクになると、様々な優遇が受けられる。

 説明の冊子は、後で受付で渡してもらえ。

 ギルド章はすぐには用意できんから、三日ほどしたら取りにこい」


「……はい、分かりました。

 ところで、一つ聞いていいですか?」


「ああ、なんだ?」


「ギルドランクって最高が金なんですか?」


「そんな分かりきったこと聞いてどうする。

 まあいい、昔はミスリルってランクがあったらしいが、今は最高で金までだな」


「そうですか」


 なるほど、俺が向こうの世界で持っている黒鉄ランクは、こちらの世界群がポータルズ世界群と分かれた後で作られた制度らしい。


「ギルド章、見せてみろ」


 ブラントは俺が渡した銀ランクのギルド章を調べていたが、呆れたようにこう言った。


「まさか、メグミの記録が抜かれるとはな」


「記録?」


「ああ、今までは、メグミってが金ランク昇格の最短記録を持ってたんだ」


 おっ、例の『迷い人』だな、ドラゴンを連れてるっていう。


「だけど、この事は黙っておけよ」


「なぜです?」


「メグミは冒険者たちから、凄く好かれてる。

 もし、彼女の記録をお前みたいな、どこのオークの骨かも知れないようなヤツが塗りかえたと分かってみろ。

 冒険者たちから爪弾きにあうぞ」


「もちろん、黙っておきます。

 さっきの騒ぎで、みんながそのかたを大事にしてるって、十分以上に分かりましたから」


「そうしろ」


「じゃ、帰ってもいいですか?」


「ああ、そのちっこい魔獣は、もう従魔登録してるか?」


 グラントがキューとブランを指さす。


「はい、してあります」


「じゃ、もう何もいうことはねえな。

 せっかく金ランクになったんだ。

 塩漬け依頼(長期に未解決の依頼)を片づけて、ギルドに貢献してくれよ」


「で、できれば」


 ◇


 俺はさっきキューが問題を起こしたギルドの待合室まで戻った。

 なぜか一緒についてきたギルマスが、両手を打ちならす。

 冒険者たちが一斉にこちらを見た。 


「おい、ちょっと聞いてくれ!

 今日からお前らの仲間となったシローだ。

 こいつは、成りたてだが金ランクだぞ。

 困ったことがあれば、助けてもらえ」


「スゲー!

 金ランクかよ!」

「討伐、ご一緒してください!」

「お姉さんと一緒に食事しないかい?」


 グラントは俺をその場に残し、奥へ引っこんだ。

 やってくれるぜ、でっかいオヤジ。


 ついさっき、ごたごたのきっかけになった若い冒険者二人が、俺の腕をそれぞれ取り、彼らのテーブルまで強引に連れていく。


「兄さん、金ランクだったんだな!」

「疑って悪かったよ。

 冒険者としての心得を教えてもらえるかい?」


 せっかくなのでメグミという『迷い人』について尋ねておく。


「ええと、メグミさんってどこにいるんです?」


「ああ、今はスティーロって街にいるよ」


「彼女、困ってませんか?」


「ははは、俺たち、一の子分だって言っただろう?

 俺たちもついてるし、家族もいるし、すっごく幸せそうだよ」


「レフ、メグミさんは、いつでも幸せそうだろ」


「そりゃそうだ、あははは!」


 そうか……それなら、もし世界群が繋がっても、地球に帰る気はないかもしれないな。

 とにかく、一度会って話をしてみるか。

 いずれにしても、世界群を救ってからになるけどね。


 ライとレフ二人に高価なステーキをおごってもらった俺は、その旨さに感動した。

 サシは少なめだが、とにかく柔らかく、舌の上でとろけるのだ。

 肉と言うより、濃厚なチーズに近い味だ。

 アイアンホーンという魔獣の肉だそうだ。

 向こうに帰る前に、大量に仕入れておこう、って、何をするにもやっぱりこの世界群を救って、ポータルズ世界群に帰らないと始まらないのか。


『(・ω・)ノ ご主人様、珍しく気合いが入ってるね!』 


 ああ、絶対ナルとメルにこの肉を食べさせてやる!

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