第3話 縁は異なもの味なもの(2)

 マスケドニアでの挙式より二日前、俺たち家族と仲間の姿は、サザール湖の上にあった。

 ウロコ雲が浮かぶ青空の下、点ちゃん3号、つまり、白銀のクルーザーで湖を渡っている。

 鏡のような湖面を渡る朝の微風が、肌に心地よい。


「すごい!

 気持ちいいねー、お姉ちゃん!」


「そうね、エミリー」


 久しぶりに会った舞子とエミリーが髪をなびかせ、甲板の上で微笑みあっている。

 親友の舞子と並ぶコルナも、笑顔が絶えない。


「魚っ!

 いっぱい魚がいるっ!

 リーダー、釣竿出して!」

「ミミ!

 遊びじゃないんだよ、いつも言ってるけど!」


 ミミとポルの二人は、いつも通りだ。

 

「お姉ちゃん、加藤さんに会えるの楽しみでしょ?」

「ば、馬鹿言わないで!

 誰があんなヤツのことなんか……」


 女王畑山とプリンス翔太の姉弟も平常運転だ。

 明らかに肩身が狭いという顔をしている、二人の男性に声を掛けておく。 


「ピエロッティ先生、レダさん、船酔いは大丈夫ですか?」


 点ちゃん3号は水面から少し浮いて走っているから、船酔いなどしないはずだが、形式的に尋ねておく。


「だ、大丈夫です」

「へ、平気です」


「お二人とも、ちょっと緊張していますね」


「え、ええ」

「こ、これは仕方ないかと」


 それはそうだね。女王陛下、大聖女が揃いぶみだもんね。


「イリーナ、タニアさん、大丈夫ですか?」


 今回の旅には、舞子の屋敷に同居している彼女たちも参加している。


「大丈夫だよ、シローお兄ちゃん」

「そうですよ。

 船旅って、こんなに気持ちがいいものなんですね」


 二人は、肌を撫でる風に目を細めている。


『ルル、ナルとメルはどうしてる?』


 俺はルルに念話を飛ばす。


『うふふ、シロー、ちょっと来てみてください』


 点ちゃん3号の上空に浮かせた、かなり大きな白銀の箱へ瞬間移動する。

 立方体の箱内部は、手前に白いテーブルや椅子が置いてあり、奥には枯草が敷きつめてある。

 天井は開けてあるから、そこから朝の光が入ってきて、中はポカポカしている。 

 枯草の上には、ピンクのカバ、ポポが二匹、横になっている。

 ナルとメルは、それぞれのポポが投げだした足の間に座り、そのお腹に背を着け眠っていた。

 ルルとコリーダが、そんな二人に毛布を掛けているところだった。


「朝が早かったから、眠かったのね」


 コリーダがメルの銀髪を手ですきながら微笑んでいる。

  

「ここで寝ると、夜、寝られなくなるかも」


 ルルが、ナルの頭を優しく撫でている。


「二人ともご苦労さま。

 お茶にしようよ」


 ナルとメルの寝顔を堪能した後、ルルとコリーダが丸テーブルに着いたので、点収納から急須と茶碗を出す。

 急須は南部鉄瓶だ。

 お茶を注ぎ、コリーダの前に黒い茶碗、ルルの前に白い茶碗を置く。


「どうぞ」


 ルルとコリーダが、お茶に口をつける。


「まあっ!」

「んんっ!」


「驚いた?」


 お茶の味に目を丸くした二人に、俺が尋ねる。


「このお茶、何です?」


「ルル、このお茶はね、日本の緑茶ってお茶なんだよ」


 正確には玉露ぎょくろだが、細かいことは置いておく。


「リョクチャ、ニホンのお茶ですか……」


 一度訪れ、ますます日本の文化に興味を持ったルルが感動している。


「お湯の温度が低いのね?

 それにまったりしてる。

 独特の渋みと甘みが癖になりそう」

  

 コーヒーが好きなコリーダのことだから、これも気に入ると思ったんだよね。


「これ、金属でできているんですね」


 黒い南部鉄瓶に触れたルルが、意外そうな顔をする。

 この世界ではお湯を注ぐ道具は、そのほとんどが陶器製だからね。


「うん、黒いのはさびてるんじゃなくて、元々そういう風に作ってあるんだ」


「素敵ですね、この形。

 それに、このカップ、素晴らしいです!

 初めてです、こんなもの」


 ルルの茶碗は、重要文化財級の志野茶碗だ。


「ホントね!

 私のこの黒い茶碗も、素敵だわ。

 なんだろう、飾り気がないのに目が離せない」


 コリーダの茶碗はらく茶碗で、これも重要文化財級の一品だ。


「この前、お肉を買いに地球世界に戻ったとき、買ってきたんだよ。

 箱も用意してあるから、大事に使ってね」


「えっ!?

 これ……」

「私たちにくれるの?」


「ああ、俺からのプレゼント。

 コルナにもちゃんと買ってあるから」


「シロー、ありがとう!」

「こんな素敵なもの……ありがとう!」


 価値が分かる二人に使ってもらえるなら、茶碗も本望だろう。

 もう少し大きくなったら、ナルとメルにも、本物の茶碗を渡そう。

 

 こうして、それぞれが船旅を楽しんだ後、一行はマスケドニアの王宮に到着した。

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