第2話 縁は異なもの味なもの(1)


 ナルとメルがポポに乗り、子供たちを引きつれ街をねり歩いた、その日の夕方、珍しく女王陛下から念話が入った。

 畑山さんは、俺に連絡を取るとき、お忍びで『くつろぎの家』に来ることが多い。そうすれば、事のついでに、屋上にある温泉ジャグジーに入れるからね。

 念話で話すとは、よほどの緊急事態に違いない。


『ボー、ちょっといいかな?』  


『ああ、いいよ』 


 俺が念話に応えたのは、ポポにエサをやり終えたタイミングだった。ちなみにポポのエサは、『ポポのおうち』(メル命名)の脇にある尖塔つきサイロに蓄えた干草だ。

 

『マスケドニアから連絡が入ったの』 

 

 かつて、アリスト=マスケドニア間で戦争になりかけた事件以降、アリスト女王とマスケドニア国王は、国家間に魔道具でホットラインを引いている。多分、それを通して連絡があったのだろう。


『加藤に何かあった?』


 俺は、マスケドニア国王が加藤とミツさんの婚礼を計画しているのを知っていたから、その話ではないかと思った。しかし、それにしては、畑山さんが落ちついているな。


『そうだとも言えるし、そうでないとも言えるわね』 


 女王畑山にしては、珍しく歯切れが悪い。


『何があったの?』


『すぐにあんたの所にも連絡があると思うけど、ヒロ姉の事なのよ』


『ヒロ姉?』


 勇者加藤の姉である彼女は、スレッジ世界でのゴタゴタがある前から、ずっとマスケドニアに滞在している。

 すでに正式に子爵に任ぜられており、マスケドニア王宮に部屋までもらい、国王や軍師ショーカと行動を共にすることが多い。彼女のアイデアを元に新しく始められた政策も多く、マスケドニアにとって無くてはならない存在となっていた。


『あのね、驚くと思うけど、結婚の話が持ちあがってるの』


『結婚?』


 どういうことだろう?


『マスケドニア国王とヒロ姉が結婚するんだって』


 えええっ!! 

 

『(@ω@) な、なんじゃそりゃー!』


 点ちゃんが驚くのも無理はない。

 本当に、ヒロ姉はいつも人を驚かせてばかりいる。今回のは、その極めつきだな。


 ◇


 マスケドニア国王から俺への連絡は、念話ではなく正式な使者が『くつろぎの家』を訪れる形であった。

 礼節を重んじる陛下らしいよね。


「しかし、わざわざショーカさんが使者として来るとはね。

 加藤から念話してもらってもよかったんですよ」


 客間のテーブルに着いた俺の前には、いつになく畏まった面持ちの軍師ショーカが座っている。


「今回は、正式なご招待ですから」


「そうですか。

 挙式はいつです?」


「その招待状にも書いてありますが、『神樹の月』初日です」


 ショーカはテーブルに置いた、虹色に輝く豪華な封書を指さす。

 そう言えば、この世界では、その月に結婚式を挙げることが多いと聞いたことがある。

 神樹からの加護を期待してのことらしい。


「そうですか。

 もう二十日もありませんね」


「ええ。

 来年にするよう進言したのですが、陛下が一刻も早くということでして」


 あれ? いつの間にそんなことになってるの?

 陛下、ヒロ姉にべた惚れってこと?


「つきましては、ご家族と白猫様においでいただければと」


「白猫様?」


「はあ、この前の一件で、陛下がブラン様に爵位をお渡しすることになっておりまして」


「ミーッ?!」(なにそれっ!?)

  

 俺の肩に乗るブランが驚いている。

 彼が言う「この前の一件」とは、ブランが騎士に力を貸し、マスケドニア城下の盗賊ギルドを壊滅させたことだろう。


「貴族だけでなく、民衆にも先の一件が漏れてしまいまして」


 ショーカが申し訳なさそうに頭を下げる。

 

「ショーカさん、気にしないでください。

 確かに驚きましたが、それはしょうがないでしょう」


「おおっ!

 さすがは、英雄殿!

 お懐が深い」


「ぐっ! 

 ショーカさん、頼みますから『英雄』だけはやめてください」


 俺のHP、今ので半分以上削れましたよ。


「あっ、そうでした……申し訳ない」


「とにかく、陛下にもその呼び方だけは避けるよう、くれぐれもお伝えください」


「わ、分かりました」


 珍しく俺が真剣な顔なので、軍師ショーカがちょっと引いている。


『へ(u ω u)へ やれやれ、どうしてそんなに「英雄」って呼ばれたくないんでしょ?』 


 そんなことになったら、くつろげないからだよ。

 人生、くつろぎ第一!


『へ(u ω u)へ ブランちゃん、どう思う?』 


 左肩に乗る白猫は、俺の左頬を両前足の肉球でプニプニ押してきた。


 ◇


 ショーカが訪れた日の夕方、家族会議を開いた。

 リビングの大テーブルに、家族全員が揃ったところで、俺がおもむろに口を開いた。


「えー、今日は大事な発表があります。

 この度、マスケドニア王とヒロ姉が結婚することになりました」


 家族は一瞬シーンとした後、歓声をあげ拍手した。


「それはめでたいですなあ!」


 リーヴァスさんが微笑んでいる。


「まあっ、おめでとうございます!」

「ヒロ姉、羨ましい!」

「めでたいわねえ!」


 ルル、コルナ、コリーダも笑顔で祝福している。


「ケッコンってなにー?」

「なにー?」


 ナルとメルは、首を傾げている。二人はずっと結婚しなくていいんだよ?


『(*'▽') 親バカー!』 


 親ばかと言われようと何と言われようと、ここは譲らないよ。


「で、招待されているのは、誰と誰ですかな?」


 リーヴァスさんの言葉で、ルル、コルナ、コリーダに緊張が走る。


「家族全員が招待されています」


 俺の言葉でルルたちが、大きく息をつく。

 なんでだろう?


 ナルとメルに向かい話しかける。


「ブラン、ノワール、コリン、それからポポラ、ポポロも招待されてるよ」


「「わーい!」」


 ナルとメルが、椅子から跳びあがる。 

 

「グレイルに行って、舞子たちも連れてくるつもりだよ」


「いいわね!」


 舞子の親友でもあるコルナが、顔を輝かせている。先ごろあった、『神樹戦役』のおり、彼女はドワーフ王城で舞子に会っているんだけど、聖女である舞子が治療に忙しかったから、二人は話らしい話もできなかったんだよね。


 こうして俺たち家族は、揃ってマスケドニアを訪れることになった。


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