第5話 ギルド訪問

 五人の騎士とシローは、歩いてギルドまでやって来た。

 普段シローだけなら十五分ほどで着くところ、一時間近く掛かった。途中、珍しいものを見つけるたび、騎士たちが足を停めていたからだ。

 彼らにとっては、初めての異世界だ。地を這う虫一匹、お店で売っている品物一つ、何をとっても、もの珍しいから、これは仕方のないことだろう。


 ギルドは、目抜き通りに面した、どっしりした木造三階建てだった。屋根の上に大きなドラゴンの風見鶏がついており、入り口の扉は開けはなたれていた。


「こんちはー!」


 シローが入り口を潜ると、いくつかの丸テーブルを囲んでいた冒険者が、ガタリと椅子から立ちあがった。 


「おっ、黒鉄くろがねシローだ!」

「おはよーっ!」

「おっす!」


 冒険者たちから元気な挨拶が返ってくる。

 

「ガハハハ、来たか来たか!」


 ギルドの奥から、熊のように大柄な、ベテラン冒険者マックが出てくる。

 

「お、おはようございます」

「「は、初めまして」」

「おはようです」


 冒険者たちの勢いに押されたのか、シローの後ろからギルドに入ってきた騎士たちは、いつもより若干テンションが低い。ただ、一人だけは違ったようだ。


「冒険者のあなたに、愛の魔法をプリプリどーん!」


 桃騎士から『愛の魔法攻撃』を受け、さすがの冒険者たちが一歩引く。


「ふふふ、楽しい方たちね」


 カウンターの向こうから女性の声がするが、姿が見えない。


「ギルマス、今日は世話になります」


 シローの声を受け、カウンターの横から小さな女性が顔を出す。身長が一メートルくらいしかない彼女は、緑の中折れ帽子と緑の上下を着ており、童話に描かれた妖精を思わせた。

 キャロという名の彼女は、こう見えてもギルドマスターを任されている。

    

「まあ、なんてカワイイの!」

「「So cute!」」

「可憐!」

「か~わゆいゆい♪」


 キャロを目にした騎士たちが、いつもの調子に戻る。

 そのキャロが、冒険者たちに声を掛けた。


「皆さん、今日は女王陛下からの依頼を受けています。

 ここにいるシローの友人たちに、ギルド体験をさせて欲しいということです。

 そこで初級ダンジョンに挑戦してもらおうと思います。

 今回は『いにしえの洞窟』に行きます。

 お手伝いしてくださる方?」


「「「「「はいっ!」」」」」


 居並ぶ冒険者の声が見事に揃った。


「……全員ですか。

 ありがとうございます。

 それでは、皆さん、ダンジョンに向けて装備を整えてください」


「「「「「はいっ!」」」」」


 小さなギルマスは、冒険者たちにとり、尊敬すべき存在らしい。

 彼らの一糸乱れぬ返事が、それを物語っていた。


「えっ! 

 いきなりダンジョンなの!?」

「「嘘っ!」」


 地球から来た騎士たちのそういった声は、冒険者たちの勢いにかき消された形だ。 

 

 準備のためだろう、冒険者たちが部屋から出ていき、後には騎士たちとシロー、マック、ギルマスのキャロだけが残った。

 いや、よく見ると、壁際でもじもじしている二人の少年と一人の少女が残っている。


「今日は、この『星の卵』というパーティも、皆さんとご一緒します」


 キャロが三人の背中を押し、騎士たちの前に連れてくる。

 

「は、初めまして。

 リーダーのスタンです」

「こ、こんにちは。

 私、スノーです」

「ボク、リンドです」


「ガハハハ、お前さんたちが昨日『カラス亭』で食べたハーフラビット、こいつらが森で獲ってきたんだぜ」


 熊のように大きなマックが、そのごつい手で少年少女三人の頭を撫でると、彼らの上半身がぐるんぐるんと揺れた。三人は、目を白黒させている。


「じゃ、騎士の方たちは五人ともギルドに登録しますから、パーティ名とパーティリーダーを決めてください」


 キャロの言葉で騎士たちが円陣を組んで話しあいを始めた。


「パーティ名はやっぱり……」


「「「「「プリンスの騎士!」」」」」


「リーダーなんて面倒臭いのは、白騎士で十分よね」


「「「「賛成ーっ!」」」」


 白騎士は少し涙目になっているが、あっという間にパーティ名とリーダーが決まった。

 この五人、妙なところで団結力がある。


「では、ギルド章をお渡ししますが、こちらの『冒険者入門』という本は読めないでしょうから、私が口頭で説明しますね」


 でき立てのパーティ『プリンスの騎士』は、キャロの周りに集まり、真面目な顔で冒険者としての注意事項を聞いている。

 三人の少年少女はシローの周りに集まり、指示を受けている。


「俺は参加しないから、三人ともマックさんの言う事をよく聞くんだよ。

 先輩たちの動きをよく観察することが、冒険者として上達するコツだからね」


「「「はいっ!」」」


 史郎の言葉を食いいるように聞く、冒険者になって間もない三人の目はキラキラ輝いていた。


 装備を整えた冒険者が次第に集まりだし、キャロがプリンスの騎士五人に諸注意を伝え終わる頃には、待合室が人で一杯になった。 


「では、みなさん、気をつけてダンジョンに行ってきてください。

 ダンジョン初挑戦のパーティ、『星の卵』と『プリンスの騎士』を守ってあげてくださいね」


「「「「「おおー!」」」」」


 キャロの言葉に冒険者たちが気勢を上げた。


「じゃ、いっちょダンジョンまで行ってくるか!」


 マックの掛け声で、みなギルドから外に出た。

 一行はギルド前でパーティごとに隊列を整えると、ダンジョンに向け出発した。 

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