第4話 友人との再会

 軒先にぶら下がっている黒い鳥の絵が描かれた看板の下を潜り、木の扉を開ける。

 プリンスを先頭に五人が店の中に入ると、四つほどある丸テーブルの内三つが人で埋まっていた。

 小柄な娘が立ちあがり、こちらにやって来る。

 目がくりっとした可憐な顔が、ブロンドの髪で縁取られており、それが彼女の美しさを引きたてていた。


「みなさん、アリストへようこそ」


 落ちついた声で娘が挨拶した。


「ルルさん、こんにちは!」


 プリンスが元気に挨拶を返す。


「ルルちゃん、久しぶりー!」

「「おひさー!」」

「再会感激」

「お元気ー?」


 ルルと顔見知りの騎士たちが、口々に挨拶する。


「ガハハハ、あんたが五人の騎士をまとめてるんだって?」


 熊のような大男が、白騎士の前に立つ。


「ワシゃ、マックってんだ。

 よろしく頼むぜ!」


 大男のマックに背中をバンバン叩かれ、白騎士が目を白黒している。

 トテトテ走ってきた銀髪の少女二人が、それぞれ黄騎士、緑騎士に抱きつく。


「「ナルちゃん、メルちゃん、こんにちはー!」」

「「こんにちはー!」」


 桃騎士の前に立ったのは、黒褐色の肌、褐色の髪を持つ、美しい娘だった。髪の間から長い耳が出ている。


「桃騎士さん、お久しぶり。

 収録では、お世話になりました」


 ハスキーな声でエルフの娘が挨拶する。


「コリーダちゃん、おひさー!

 あなたの曲、凄く売れているわよ」


 売れているどころではない。

 コリーダが地球を訪れたとき収録した彼女の歌は、地球世界のほとんどの国で、発売以来ヒットチャートの第一位を独占している。


 黒騎士の前に立ったのは、三角耳とふさふさ尻尾を持つ小柄な女性だ。


「黒騎士さん、こんにちは」


「コルナさん、お久しぶり。

 また、モフモフさせてください」


 動物好きの黒騎士は、コルナが地球に来た時、彼女に毛並みを触らせてもらい感動したのだ。

 シローが飼っている白猫が、さっと黒騎士の肩に乗る。


「ブランちゃ~ん、元気だった~?

 う~ん、いい子いい子~♡」


『ツンデレ』ならぬ『猫デレ』とでも言うべきか。

 白猫を撫でている黒騎士は、再会の喜びでキャラクター崩壊を起こしている。

 

「みんな、とにかく座ってよ。

 言ってあったように、朝食抜いてきたかな?

 ここの料理は絶品だから、思う存分楽しんでね!」


 シローの言葉で、プリンスと騎士たちが席に着き、食事が始まった。

 

 ◇


「うわっ、ナニコレっ!

 すんごく、美味しい!」


 白騎士が感動しているのは、ラザニアのような一品だ。

 何層にも重ねた生地の間には肉や野菜が入っており、複雑で濃厚な味となっている。

 

「ガハハハ、うめえだろ?

 こいつぁ、ハーフラビットって魔獣の肉が入ってる。

 新鮮なほどうまいから、今朝がた新米冒険者が獲ってきたんだぜ。

 ヤツら、シローのことを尊敬っていうか、崇拝してっから、そりゃもう張りきってな」


「「おいしーっ!」」

「最高!」

「愛が詰まった料理に、魔法をどーん!」


「パーパ、どーんってなに?」

「どーん、どーん、どーん!」


 銀髪の少女二人がシローに話しかけるが、彼は困り顔で黙っている。

 その時、入り口の扉が開き、銀髪の男性が入ってきた。

 

「「「「「リーヴァス様!」」」」」


 騎士たちの声が揃う。


「遅くなりましたな。

 申し訳ない。

 皆さん、久しいですな」


 初老だが若々しい男性は、長身をひるがえすと優雅な動作で空いた席に着いた。

 騎士たちは、その立ち居振る舞いの美しさと端正な顔にぽーっと見とれている。


「ギルドのやつら、今から張りきってますぜ、兄貴」


 マックがリーヴァスに話しかける。


「騎士のみなさん、明日はアリストギルドに案内しますぞ。

 歓迎のイベントも用意しております」


 リーヴァスの言葉に、騎士たちが盛りあがる。


「「ギルド、行ってみたい!」」

「楽しみ!」

「ホントねえ!」


 騎士たちの歓声に続き、白騎士がお伺いをたてる。


「リ、リーヴァス様、あたしも『兄貴』って呼んでいいいかしら?」


「「「「「ダメーっ!!」」」」」


 他の騎士だけでなく、シローの家族にまで拒絶され、涙を流した白騎士が、くわえたハンカチを両手で「きーっ」と引っぱる。 

 賑やかな食事は、夕方まで続いた。


 ◇


 カラス亭で食事を楽しんだ五人の騎士は、シローの家に泊まった。

 プリンス翔太は、シローが城に送った。

 

 朝になり、今は建物の一つにあるリビングで朝食をとっているところだ。


「シローちゃん、なんなのよ、このお家とお庭!

 めちゃくちゃ広いじゃない!」


 白騎士が驚くのも無理はない。リビングの窓からは、大木に囲まれた広い庭と向かいにある二階建ての離れが見えていた。

 

「「お風呂、凄かったー!」」


 黄騎士と緑騎士が言っているのは、大浴場の事だ。母屋と回廊で繋がった大浴場は、それだけのために一つ大型の家屋が設けてある。


「温泉最高!」


 黒騎士が感動しているように、この家の大浴場は温泉になっているのだ。ちなみに温泉のお湯は、シローがダンジョンで手に入れた秘宝アーティファクトで生成している。


「つるつるつるりん滑り台~♪」


 昨日、滑り台をナル、メルと一緒に、何度も滑った桃騎士らしい発言だ。

 この家には、三階の子供部屋から一階のリビングを繋ぐ、滑り台があるのだ。

 それをシローの家族以外で滑った大人は、桃騎士が初めてだ。


「シローちゃん、そういえば、昨日リーヴァス様がギルドを案内してくださるっておっしゃってたけど」


「そうだよ。

 食事が済んだら、すぐギルドに向かうからね。

 向こうでは、イベントも用意してくれてるみたいだから」


 こうして、プリンスの騎士五人はギルドへ向かうことになった。


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