第6話 ダンジョンと冒険者(1)
今回、ギルドが冒険者体験に選んだ場所は、アリストで最も古くから知られているダンジョンだ。
名前を『古(いにしえ)の洞窟』という。
ダンジョンの名前は普通、『〇〇ダンジョン』と、最後に『ダンジョン』とつくのが普通だが、『古の洞窟』は、ギルドが設立された二百年前より、はるか昔から知られているものだ。
そのため、以前から使われている名前が、今でも通り名として使われている。
すでに攻略法も確立されており、ダンジョンとしてのランクも鉄ランク、つまり最も攻略が容易なものとなっている。
トラップの類もなく、出現するモンスターは比較的弱いものばかりで、一階層しかない。アリストで知られている最も小さなダンジョンだ。
アリストギルドでは、新人にダンジョン攻略を指導するため、ここが使われることが多い。
攻略が容易であるということは、それだけ報酬も少ない事を意味する。普通の冒険者が攻略するには『うま味』がないのだ。
今回はこのダンジョンの途中までしか攻略しないから、そこに向け歩いている冒険者たちも、みんな鼻歌交じりだ。
ただ、初めてダンジョンに挑む者には、やはり特別な思いがあるようだ。
「くう~、やっとダンジョン初挑戦かー!」
リンド少年が、顔を紅潮させ声を上げる。
「おいおい、リンド!
今から気合を入れすぎて、ダンジョンでへばらないようにしてくれよ」
しっかり者のパーティリーダー、スタン少年がすかさず突っこむ。
「そうよ。
あのシローさんだって、ダンジョンに挑んだのは、冒険者になって一年以上たってからだって言ってたでしょ」
魔術士である少女スノーが、さらさらのブロンドを頭の後ろで束ねながらそう言った。
「だって、冒険者になってから、ずうーっと行ってみたかったんだよ!」
「ガハハハ!
リンド、気持ちは分かるぜ!
ワシも最初は、そうだったからなあ」
マックは、リンドの頭をごつごつした大きな手で撫でながら声を掛けた。
「あ、兄貴、わ、私たちは、どうしたら――」
リーヴァスを「兄貴」と呼ぶことをみんなから拒絶された白騎士は、マックをそう呼ぶことにしたらしい。
「安心しな!
これだけのメンバーが揃ってんだぜ。
たとえお前たちが寝てても大丈夫だ」
マックは、前を歩く冒険者たちの背中を指さした。
どうやら、サポート役で参加した冒険者は、比較的ランクが高い者が多いらしい。
「「リーヴァス様に来てほしかったなー!」」
黄騎士と緑騎士の声が揃う。
今回、リーヴァスはお城に用事があるとかで参加していない。それはシローも一緒で、同行するよう白騎士からずい分言われたらしい。
彼の事だから、茫洋とした顔で、のらりくらりそれをあしらった。シローがいないのも白騎士が不安に感じている理由の一つだ。
「プリンスも!」
黒騎士がぼそりと言う。彼女はプリンスの参加を望んでいたのだろう。ただ、名前だけでなく、すでにアリスト国の正式なプリンスとなったショータがダンジョン攻略に参加するのは、たとえ鉄ランクダンジョンとはいえ、どだい無理な話だ。
「くるくるくるくる、プリンスがきっと来る~♪」
桃騎士は呪文とも言えないものを口にしながら、プラスチックの魔法杖をくるくる回している。
「桃騎士がそんなことすると、本当に実現しそうなのが怖いわよねえ」
白騎士が言葉では呆れながら、なぜか感心したような顔をする。
「なに言ってるの!
実現しそうな、じゃなく、実現するのよっ!」
「無理!」
桃騎士の無謀な発言は、やはり黒騎士から突っこまれた。
「プリンスには、大事な仕事があるからなあ」
なぜかマックが、彼に似合わぬ神妙な顔でそう言った。
「もうすぐだぞー!」
前を行くベテラン冒険者から声が掛かる。
「さあ、みんな、こうなったらとにかく気合いよ、気合い!」
ちょっと投げやりになっているところもあるが、白騎士は、とにかくパーティリーダーらしい発言をした。
前方に森が見えてくる。
「あれは『霧の森』の南端ですね。
森に入ってすぐのところに『古の洞窟』があるはずです」
一見たよりなさそうに見えるスタン少年は、きちんと下調べしてきたらしい。まだ若いのに、さすがパーティリーダーと言えた。
「ウチのリーダーと交換したいわね」
黄騎士の言葉が白騎士の胸をえぐる。
「スタン、良い」
黒騎士の言葉で白騎士は膝をついた。
「白騎士ー、落ちこまないの。
私はあんたに期待してるんだから」
珍しくまじめな桃騎士の言葉に、白騎士が立ちあがりかける。
「壁っ、壁っ、壁っ、白壁~っ♪」
魔法杖を四角く振りながら放った桃騎士の言葉は、やはり、白騎士にクリティカルヒットした。
彼は両手両膝を地面に着き、涙を流している。
「おい、そんなことしてる間はねえぞ!
ダンジョンはすぐそこだ!」
マックに襟首をつかまれ宙吊りにされた白騎士は、なぜだか子猫っぽかった。
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