第2話 プリンスとの再会
地球世界の喫茶店から消えた六人は、パンゲア世界アリスト国に現れた。
「異世界へようこそ!」
五人を異世界に連れてきた青年、シローが両手を広げる。
「えっ?
ここが?」
「「異世界?!」」
「不思議!」
「ここ、本当に異世界?」
白騎士、黄騎士と緑騎士、黒騎士、桃騎士、それぞれから戸惑いの声が上がる。
それもそのはず、彼らが現われたのは、森の中にある広場だった。そこが広場だと分かるのは、木々に囲まれた草地が綺麗な円形をなしており、その中央に噴水があるからだ。噴水からは、人の背丈ほどの水が噴きあがっていた。
噴水の横には白い丸テーブルがあり、その周囲にいくつか椅子が置いてあった。
五人の疑問にシロー青年が答える。
「ああ、ここって、アリスト城の中庭なんだ」
彼が指さす方に目をやると、確かに木々の上に尖塔がいくつか見える。
それでも半信半疑な五人は、次の瞬間、ここが異世界だと確信することになった。
木立から、身の丈三メートルはあろうかという、巨大なウサギが現れたからだ。
「ひいっ!」
「「な、何っ!?」」
「ウサ!?」
「きゃわいい?!」
騎士たちの声が上がる。
「ウサ子、久しぶり」
シローは巨大なウサギに近づくと、その毛並みを撫でている。
「シ、シローちゃん、これは?」
白騎士が、震える指で巨大ウサギを指さす。
「ああ、この世界で『マウンテンラビット』って呼ばれている魔獣だよ。
本当の名前は『神獣(しんじゅう)』って言うんだ。
ポータルズ世界群では、崇拝の対象となっている凄い魔獣なんだよ」
「へ、へえ~……」
説明を聞いても、白騎士は驚きの表情が消えなかった。
「ボー、ご苦労様」
木立の中から姿を現したのは、キラキラ光る黒いドレスを着た、長い黒髪の美しい娘だった。
後ろに白銀の鎧を着たブロンド髪の騎士を従えている。
「畑山さん?!」
「「あっ、女王様!」」
「久しぶり!」
「ゴージャスな女王様に魔法をピロ~ン♪」
すでに顔見知りである騎士たち五人が挨拶する。最後に魔法杖を振りながら発した、桃騎士の言葉を挨拶と言えるかどうか微妙だが。
実際、女王の後ろに控えた壮年の騎士が、ぎょっとした顔で凍りついていた。
「みなさん、パンゲア世界アリスト国へようこそ。
どうぞ、こちらに」
女王が、噴水横に置かれたテーブルを手で示す。
騎士たちと青年がテーブルに着く間、女王は巨大ウサギの毛並みを撫でながら、何か話しかけていた。
巨大ウサギが森の木立に姿を消すと、女王もテーブルに着いた。白銀の騎士は、彼女の後ろに立ったままだ。
「ボー、お願い」
女王がテーブルの上で手を振る。
まるで最初からそこにあったかのように、お茶とお菓子が現れた。
お茶のポットからは、湯気まで立っている。
メイドがいないからだろう、白騎士がさっと動いて七つのカップにお茶を注いだ。
「みなさんの異世界旅行が素晴らしいものになるように、乾杯!」
女王の声で皆がカップを目の高さまで上げる。
お茶は異世界の味がした。
「シローちゃん、そういえば地球にいる時は夕方だったのに、こっちは朝みたいね」
「そうなんだ。
その辺は自転周期も、星の大きさも違うだろうから。
詳しいことは、俺にもよく分かってないから、また点ちゃんに解析してもらうよ」
「ところで、女王様、プリンスはどこに?」
緑騎士が、はやる気を抑えて尋ねる。
「翔太は今頃魔術学院に着いた頃だと思う。
帰ってくるのは、夕方ね」
プリンスと呼ばれている少年は女王の弟だ。彼は女王が住む城から魔術学院に通っている。
「まあ、素敵っ!」
「「待ち遠しいなー!」」
「期待!」
「プリンスに会える~ン♡」
五人の顔がぱあっと明るくなる。
そういったことに慣れているのか、シロー青年も女王ものんびりとお茶を楽しんでいる。
二人と五人でかなり温度差が違うお茶会は、一時間余りで幕を閉じた。
◇
噴水広場でお茶を飲んだのち、本物の騎士に広い城内をあちこち案内された五人は、昼食の後、豪奢な内装の貴賓室に通されていた。
「おねえちゃん、みんなもう来てる?」
扉が開くと、女王が一人の少年を伴い入ってきた。二人の後に続いた、白銀の騎士が扉を閉める。
黒いローブを身にまとった少年は、年齢より大人びて見えた。
「「「「「プリンス!!」」」」」
地球世界から来た五人の騎士たちが、歓喜の声を上げる。
少年は、彼らがずっと会いたがっていた、まさにその人だった。
五人が、さっと少年をとり囲む。
「みんな、久しぶり!」
少年が騎士たちに声を掛ける。
「プ、プリンス~……」
「「おひさー!」」
「感激!」
「愛の再会魔法どーん!」
年齢不詳の桃騎士がレースで縁どられたスカートをひるがえし、くるりと一回転。ピンクのハートがついた、白い魔法杖をくるんと振る。
「さ、再会魔法?!
どーん?!」
ものに動じない女王陛下が、一歩引いている。
「プリンス、聞いてよ――」
白騎士が、情けない声を出す。
「「プリンス、白騎士がね――」」
緑騎士と黄騎士が声を合わせる。
「社長、ポンポコ商会の業務ですが――」
黒騎士は、少年が社長を務める会社の業務連絡を始める。
「愛の無限魔法、ドーン♪ ドーン♪ ドーン♪」
桃騎士は、少年に向け魔法の乱れ撃ちだ。
「な、なに、これ?!
カオス……」
異世界の戦場で百万の敵兵を前に冷静沈着を通した女王が、あまりのことに言葉を失う。
こうして貴賓室を混乱のるつぼと変えた騎士たちは、自分たちのプリンスから直接お叱りの言葉が出るまで、おしゃべりをやめなかった。
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