第12話 守るべきもの


 競技会が終わってお城に帰ると、エミリーがボクに飛びついてきた。

 彼女は、地球世界から来ている同い年の少女なんだ。

 ボクは驚いた。いつも静かな彼女がこんなに感情を露わにすることは珍しいんだ。


「ショータ! 

 すごくかっこよかったよ!

 特に最後、壁をドーンってやったの」


 エミリーは青い目をキラキラさせて、魔術競技会の話をした。シローさんに透明化の魔術をかけてもらって客席にいたらしい。ただ、最後の『花火』は見ずに、お城へ帰ったそうだ。

 いろんな場面でボクが他の人に負けられないのは、特別な事情があるからなんだけど、一番の理由がエミリーなんだ。


 彼女は、偉大な存在である聖樹様から、特別なお役目を頂いている。どんなお役目かは、ここでは言えないけどね。そして、ボクが彼女の『守り手』をおおせつかっているんだ。

 言葉通り、エミリーを危険から守るお役目なんだよ。ボクの魔力が人より大きいことも、きっとそれが関係していると思う。

 大きすぎる魔力をボクが暴走させないように、魔術の先生とシローさんが話しあった上で、ボクをアーケナン魔術学院に留学させることに決めたそうだよ。


「ショータ、お庭へ行こう!」


 エミリーがボクの手を引っぱる。

 城のお庭は森のようになっていて、そこにはウサギに似た大きな神獣様が住んでいる。ボクとエミリーは、神獣様と遊ぶのが日課になってるんだ。


 ◇


 次の日、学校に行くと、クラスのみんながボクの所に集まってきた。


「ショータ、お前、すげえな!」


 ヒゲのお兄さんが話しかけてくる。


「最後のドーンってやつ、も~しびれちゃった!」


 ボクの左腕を抱えたジーナが、ブロンドのポニーテールを揺らす。


「ショータ、私に水魔術教えてね」


 眼鏡のドロシーが、赤い顔でボクの右手を握った。


「うふん、ショータ~、私にもいろいろ教えて~」


 ララーナさんが、ボクの肩に手を置いて背中に体を押しつけてくる。


「あんたたち! 

 プリンスから離れなさいっ!」


 いつの間にか、教室の入り口にルイが立っていた。

 皆が、さっと散って席に着いた。


「今日の放課後、シローさんが、おうちの方へ来てほしいとのことでした」


 ルイはそう言うと、みんなを見まわしてから教室を出ていった。

 教室は、シーンとしている。

 少しすると、誰かがポツリと言った。


「プリンス」


 やばい。秘密にしていたのに、プリンスだとばれちゃったかも。


「プリンス……ショータ様にぴったりのお名前」


 ジーナが、うっとりした顔でこちらを見ている。それより、「様」ってどうかな。同級生なのに。


「プリンスよ」

「プリンスね」

「プリンスだな」


 皆が、口々にささやく。

 ああ、これはもうだめだね。みんなは、ボクが本当にプリンスだとまで思ってないみたいだけど、あだ名がついちゃった。

 地球の小学校でも、あだ名は「プリンス」だったんだよね。


 これで、ボクがプリンスって呼ばれないのは、シローさんのうちだけになっちゃった。今日は、学校帰りにあそこで癒されよう。


 シローさんの家に行くことを思うと、ボクの心は羽のように軽くなった。

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