第10話 学院対抗魔術競技会(4)


 ボクは、コート中央に立っていた。

 審判からの合図を待っているんだ。


「おいおい、勝負を諦めたのか?

 こんなお子ちゃまにホールダーを任せるなんて」


「「へへへっ」」


 元皇太子エリュシアスの言葉に、相手チームのサポーター二人が、せせら笑っている。

 そんな言葉を聞いても、ボクの心は、風のない日の湖みたいに静かだった。


 審判が手で開始の合図をする。

 ボクは水玉を作った。直径一メートルくらいのやつを。


「な、なんだありゃ!?」


 敵のサポーターが驚いている。

 時間が無いので、ボクはすぐにそれを敵のゴールへ向け撃ちだした。


 ドドーンッ!


 凄く大きな音が競技場に響く。水玉がゴールにぶつかった音だ。

 競技場がシーンとした。 


「ショータ、すごーい!」

「やったー!」


 ナルちゃんと、メルちゃんの声だけが聞こえてきた。

 向こうの選手が審判に向かい抗議している。ボクと水玉の距離がルール違反だと言いたてているに違いない。でも、きちんとルールには書いてあるもんね。


コート内では、ホールダーと水玉とが一定距離離れると、攻撃権を失う』


 ボクは自分チームのコートから撃ってるから。


「な、なんと、アーケナンの選手が、開始線からゴールしました!

 6-9!」


 やっと始まった放送の声で、会場に歓声が戻ってきた。


「ふんっ! 

 どんなに悪あがきしても今さら手遅れだ、馬鹿めっ!」


 エリュシアスが吐きすてるように言うと、水玉を作った。だが、彼は一歩も動こうとしない。

 時間切れを狙っているんだね。


 バシャッ


 彼の頭上にあったが水玉が突然落下し、その頭にぶつかった。


「な、何だっ!?」


 濡れネズミになった、元皇太子がア然としている。

 ボクが風魔術で水玉を叩きおとしただけなんだけどね。


 再びこちらの攻撃。


 ドドーンッ!


 ボクの水玉が、相手ゴールを揺らす。


 こうしたことが繰りかえされ、あっという間に得点差が無くなった。

 9-9だ。


 相手は、最後に思いもかけない作戦に出た。

 全員が自陣ゴール前に集まり、水玉や風魔術でゴールを守ったんだ。


 開始線手前に立ったボクは、黙ってそれを見ていた。


 審判が合図する。

 ボクは再び水玉を作った。直径三メートルほどのやつを。

 ゴール付近に集まった、相手チームの人たちが凍りついたように動きを停めた。


 ボクは水玉を、今までで一番速いスピードで撃ちだした。

 大きな水玉は、あっという間に相手ゴールに迫る。


 いくつもの水玉や風が、ボクの水玉にぶつかる。

 しかし、巨大水玉は、それを簡単に弾きとばしてしまった。

 なぜなら、ボクが巨大水玉を勢いよく回転させておいたから。


 水玉は、相手選手全員を弾きとばしてゴールに激突した。


 ドガーン!


 丈夫な材質で作られたゴールが、水玉がぶつかった衝撃で粉々に砕けちった。

 タルス学院の選手六人が、散らばって倒れている。


 しばらく場内が静かになったあと、爆発するような歓声が上がった。

 それと同時に管楽器が鳴り、試合終了を告げた。


「10-9、今年度『ウンディーナス』の勝利は、アーケナン魔術学院がものにしました!」


 場内放送が流れる。

 チームメートが、こちらに走ってくる。

 歓声の中、ボクはみんなから胴上げされた。

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