第9話 学院対抗魔術競技会(3)


 控室には、マチルダ先生がいた。

 彼女は、治療台の上に横たわるボクを調べている。


「おそらく火傷ね。

 ほら、もうここのところが大きく水ぶくれになってきてる」


 ドロシーが心配そうにボクの足を見ている。

 その言葉を聞いて、一人の生徒が小走りに部屋から出ていった。

 きっと、薬を取りに行ったのだろう。


「先生、これって反則じゃないんですか?」


 ドロシーは、かなり怒っているようだ。


「明らかに反則ね。

 でも、それを証明するのは難しいわね」


 眉間にしわを寄せたマチルダ先生が、低い声でそう言った。


「なぜですか?」


「すでにショータ君はここにいるでしょ。

 こちらの誰かが後で火傷させたと言われても反論できないわ」


「ひどい!」


 ドロシーは涙目になっている。


「せ、先生」


「ショータ君、大丈夫?」


「ボ、ボクの体を起こしてください」


「ダメよ、じっとしておかないと!

 もうすぐ薬が届くはずよ」


「お願いします! 

 早く!」


「……分かったわ、でも大きな動きをしないこと。

 いいわね?」


 そう言うと、先生はボクの上半身を起こした。

 ボクは、思いきってある行動を取ると決めた、


「これからすることは、みんなには黙っていてください。

 ドロシーも、いいね?」


「え、ええ、いいけど、何をするの?」


 先生の問いかけには答えず、火傷を負った左足に右手をかざした。

 ボクの手が、ぼんやり白く光りだす。

 それに合わせるように左足も光った。


「こ、これはっ!」


 マチルダ先生が、ものすごく驚いた顔をしている。


「ふう、なんとかなりました」


 ボクは足にかざしていた手を下ろした。

 すごく赤くなっていた左足は、何も無かったように治っていた。


「ショータ君、こ、これは、治癒魔術……」


 先生が絶句している。

 聖魔術に属する治癒魔術は、普通の属性魔術にくらべると難易度が高く、使える人がとても少ないんだ。

 治癒魔術が使えるようになるまで、ボクも本当に苦労したんだよ。


「すぐ競技に戻ります!」


「大丈夫なの?」


「ええ、すっかり治りました」


「そう、それならいいけど。

 このことは確かに秘密にした方がいいわね。

 ドロシー、あなたも分かったわね」


「は、はい。

 マチルダ先生」


 ◇


 競技場にボクが戻ると、相手チームの何人かが凄く驚いた顔をした。

 きっとボクに火傷させたと知ってる人たちだろう。


「ショータ! 

 大丈夫なのか?」


 スヴェンさんが、心配そうな顔で駆けよる。


「ええ、大丈夫です。

 それより、競技の方は?」


「5-9だ」


 四点も負けこしているのか。

 相手チームは、こちらにキーパーがいないのをいいことに、やりたい放題したのだろう。


「今回は、負けだな。

 もう時間がない」


「キャプテン、ボクをホールダーにしてもらえませんか?」


「えっ!? 

 そうだな、時間がないから、将来の事を考えて、君にホールダーを経験させておいてもいいかもな。

 元々、そのつもりだったし」


「いえ、逆転して勝ちます」


 ボクは静かな声でそう言った。


「しかし、時間があまりないぞ」


「ボクに考えがあります。

 やらせてください」


「……よし、ダメ元だ。

 君に任せた!」


 こうして、ボクはホールダーになった。

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