第8話 学院対抗魔術競技会(2)


 基礎能力を競う学年別戦が終わった。

 その結果は、それぞれの学院が三勝ずつということで、勝負の行方は、判断力やチームワークを競う学院戦で決まることになった。


 これは、各学年の代表一名ずつを集めた六人でおこなうチーム戦だ。

 競技は前もって決まっている。『ウンディーナス』という名前だそうだ。


 この競技のルールは、水魔術で作った水玉を、相手ゴールの壁にぶつけるというシンプルなものだ。

 サッカーと少し似ている。


 水玉は、ホールダーという役が上空に浮かべ、相手コートに攻めこむ。

 相手コート内では、ホールダーと水玉とが一定距離まで離れると、攻撃権を失う。

 ホールダーと水玉との距離を計りやすくするため、競技場には一定間隔で横線が引かれている。

 横線の間隔が五メートルくらいだから、それが決められた距離なのだろう。


 ボクたちのチーム六人が、自陣ゴールである赤い壁の前に集まった。


「アレンとダウロがディフェンダー、私がホールダー、ルイとアトリーがサポーターだ。

 翔太は、キーパーを頼むぞ」


 チームキャプテンである、スヴェンさんが各選手のポジションを確認している。

 ディフェンダーは守備、サポーターは攻撃補助だね。


 ホールダーに対しては、水魔術と風魔術を使うことが許されているが、相手が直接傷つくような攻撃はできない。

 ただし、キーパーは相手のホールダーを攻撃できない。

 キーパーに対する攻撃も、全て禁止だ。


 この世界では一般的な競技のようで、みんなはよくルールが分かっていた。

 ボクがキーパーになったのは、ルールに詳しくなくてもできる役だからだろう。

 スヴェンさんは、個別の指示を出した後、円陣を組むように言った。


「女王陛下もご覧になっている。

 日頃の成果を出しつくそう!」


「「「おー!」」」


 小型魔法杖ワンドを手にしたプレイヤーが競技場に散らばる。

 競技開始時のポジションは、自陣内からのようだ。これも、サッカーと同じだね。


 競技場中央に出てきた審判の所にスヴェンと相手キャプテンが近よった。

 相手キャプテンは、やっぱり元皇太子エリュシアスだった。

 キャプテンは、競技用ローブの背中に学院の紋章が入っているから、一目で分かるんだ。


 先攻後攻は、コイントスで決めるみたい。

 相手チームが、先攻となった。


 ◇


 エリュシアスが作った水玉は、バレーボールに近い大きさがあった。

 額の前あたりに、それを浮かせたまま、彼はこちらのコートに走りこんできた。


 ボクのクラスでは、それほど大きな水玉を作る人を見たことないから、さすがといえばさすがだね。

 ただ、何だか分からないけど、彼の魔術には違和感があった。

 いったい、何がおかしいんだろう。

 そんなことを考えているうちに、相手チームのホールダーである元皇太子とサポーターが、ゴール近くまで攻めこんできた。


 こちら側のディフェンダー二人が、妨害用の水玉を一つずつ作る。

元皇太子は、その一つをやすやすとかわした。

そして、もう一つの水玉は、相手サポーターの風魔術で、エリュシアスの進路から外されてしまった。


 ボクとエリュシアス元皇太子は、一対一で向きあった。

 最初から笑っているような、片端がつり上がっている彼の唇がさらに歪む。

 彼には悪いけど、ボクは何かゾッとした。


「お前のようなチビが、キーパーとはな!

 ワンドも持たず手ぶらとはな!」


 エリュシアスがそう言いおわらないうちに、かなりの勢いで水玉が撃ちだされた。

 それは、ボクたちのゴールの左上隅を狙っていたようだ。

 だが、ボクが用意しておいた見えない風の玉が、それを下から押しあげた。


 水玉はゴールから外れ、地面にびちゃりと落ちた。


「な、なんだ!?」


 エリュシアスは、すごく驚いた顔をしている。

 ボクは他の人と違って魔術の詠唱をしないから、いつ魔術を用意したか分からなかったのだろう。


 スヴェンさんが、すぐに水玉を作り、相手コートに走りこむ。

 彼の進路をふさごうとした、相手ディフェンダーの足元に水玉が現れる。

 敵はそれに足をとられて、なす術もなく競技場に倒れた。

 ルイの水魔術だ。


 もう一人のディフェンダーが、スヴェンさんの前に水玉を作ったけど、うちのもう一人のサポーターが、それに水玉をぶつけて進路を空ける。

 スヴェンさんがワンドを振ると、水玉が相手チームのゴールへ飛んでいく。


 相手チームのキーパーが、壁際に水玉を作ったものの、スヴェンさんの水玉は、その横をすりぬけ、ゴールの青い壁にぶつかった。


 ドンッ


 得点板から、腹に響く太鼓のような音が聞こえると、観客席から歓声が上がる。


「アーケナン魔術学院、1点を先取しました!」


 実況役の生徒が、拡声用魔道具で知らせる。

 緊張が解けてきたのか、ボクは実況が行われていることに初めて気づいた。


 スヴェンさんと、二人のサポーターが、こちらのコートに帰ってくる。

 相手チームは、またエリュシアスが水玉を作り攻撃を始めた。

 こちら側の選手が水玉をぶつけようとするが、彼は身軽な動きで、するするそれをかわしている。


 また、さっきのように、エリュシアスがボクと向かいあう位置まで来た。

 二人の間は五メートルくらいだろうか、かなり近い。


「どんな手を使ったか知らぬが、さっきのようにはいかんぞ!」


 彼の後ろには、サポーターが二人走りこんでいた。


 水玉が、さっきよりかなり速いスピードで撃ちだされた。

 なるほど、サポーターが、風魔術で水玉を後ろから押しているんだね。

 ゴールの左隅を狙い、勢いよく飛んできた水玉が、ボクが作った透明な風の壁に触れ横に逸れる。

 そして、びちゃっと地面に散った。


「な、なぜだ!?」


 エリュシアスは、さっきより驚いた顔をしている。


「おしい! 

 タルス学園の攻撃は、わずかにゴールを外れました」


 実況の声が場内に響く。

 試合は一方的な展開で、4-0まで進んだ。

 そこで、相手方がタイムを取った。


 ◇


 相手チームは集まって、何か話しあっている。

 こちらも、円陣を組んだ。


「ショータ、すごいぞ!」

「ええ、あれなら点が入らないわね!」

「頼もしぞ、キーパー!」


 上級生が褒めてくれる。


「相手は何をしてくるか分からない不気味さがある。

 ショータ、十分気をつけるんだよ!」


「はい、ありがとうございます!」


 スヴェンさんも、元皇太子の魔術について違和感があるのかもしれない。


 タイムが終わり、競技が再会された。

 ホールダーであるエリュシアスは、今までより慎重にこちらのコートに攻めてきた。


 ボクはタイムの間に相手側サポーターの一人が、ディフェンダーと交代しているのに気づいた。

 スヴェンさんが言うように、何か仕掛けてくるつもりかもしれない。


 エリュシアスが水玉を撃ちだすと同時に、交代したばかりの敵サポーターが水玉をこちらへ撃ってきた。

 それがボクに当たると相手は反則となるはずだが、その玉はボクの足元に落ちた。


 ビシャッ


 落ちた水玉が弾け、それがボクの足に掛かった。

 足に焼けつくような痛みを感じて、思わずしゃがみ込んでしまう。

 元皇太子の玉がボクの頭上を越え、後ろのゴール板にドーンと当たった。


「ゴール! 

 タルス学院、1点を返しました!」


 実況の声が遠くに聞こえる。耐えきれないほどの痛みが襲ってくる。

 立てなくなったボクの所に、スヴェンさんが走りよる。

 ボクが抱えている左足のズボンをめくる。


「すごく赤くなってるぞ!

 一体どうしたんだ?」


 ボクは、痛くて口を利くこともできない。

 審判がやって来て叫ぶ。


「担架!」


 ボクは、担架に乗せられ控室まで運ばれた。

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