第6話 魔術師として

 

 その日から、ボクの魔術学習は変わった。

 それまでも一通り教科書を読んでいたけれど、一字一句おろそかにせず、隅から隅まで理解して覚えることにした。

 驚いたことに、そうすると、それほど楽しいと思わなかった座学の授業が、すごく楽しくなった。

 そして、教科書には思った以上にいろんなことが書かれていることに気づいた。


「風魔術の力はマナを絞ると強まる」とは書いてなかったが、「風魔術は、詠唱したらすぐに魔術を使う事」という注意書きがあった。


 それぞれの魔術に、魔力を暴走させるような条件があることに気づいた。

 そして、マナが見えるボクは、それを回避できそうなアイデアがいくつも浮かんだ。

 だから実技の時間がとても意味あるものになった。

 授業で習っていることを終わらせた後は、自分の研究に当てた。


 ボクが他の人と違うことをしていても、先生たちは何も言わなかった。

 むしろ、気がついたアドバイスをくれたり、上手くいっているときは、めてくれたりした。


 そうしているうちに、魔術自体にも変化が出てきた。

 各魔術の発動が軽くなった。そして、少ないマナで大きな効果が出せるようになった。

 上達するから楽しくなって、楽しいからさらに上達する。


 ボクは魔術が無かった時の自分を忘れるほど、夢中で魔術の練習に取りくんだ。

 だって、魔術のことを考えたり、魔術の練習をしたりしてたら、あっという間に時間がたっちゃうんだもん。

 あまりに夢中になって食事の時間を忘れちゃうと、お姉ちゃんに叱られた。


「翔太、ご飯だけはきちんと食べるのよ。

 体を壊したら魔術の練習ができなくなるんだから」


 いつもはボクに甘いお姉ちゃんも、健康管理にだけは厳しかった。


 ◇


 あっという間に、月日が過ぎて、留学してから三か月がたとうとしていた。

 学院の中が何か浮ついていると思ったら、他校との対抗戦があるらしい。学年代表が三人ずつ出て、魔術競技を行うそうだ。

 対戦相手はキンベラっていう隣国なんだって。

 だけど、なんで対抗戦っていうだけで、こんなに騒いでるのかな。


「ねえ、ジーナ。

 なんでこんなにみんなが騒いでるの?」


「あ、ショータ様!

 それは、少し前にキンベラが、このアリスト王国に攻めこもうとしたことがあったからです」


「えっ!? 

 そんな国と仲良く魔術競技なんかしていいの?」


「なぜだか分かりませんが、今のキンベラ国王は、この国と仲良くしようと必死なんです」


「変な国だね。

 攻めようとしたり、仲良くしようとしたり」


「さっきの話ですけど、アリストを攻めようとした馬鹿皇太子が、今回、向こうの学校を率いているんですって」


「え? 

 皇太子が戦争を起こそうとしたの?」


「ああ、間違えました。

 元皇太子でした。彼は、一度国王になったのです。

 その時、そういう画策をしたみたいです」


「今はどうなったの?」


「なんでも、クーデターが起きて、彼は王の座を下ろされ、皇太子の地位も失ったようです」


 ふーん、そんな人なのか。でも、なんでそんな人を国外に出すのかな?


「それに、皆が騒いでいるのは、それだけの理由ではありませんよ。

 なんと、あの女王陛下が、競技会をご観覧になるらしいのです。

 お姿を間近で拝見できるなんて、なんて素敵なんでしょう」


 ジーナは、夢見るような表情になった。


 ふーん、お姉ちゃんが来るのか。

 ボクは、競技会の裏に何かありそうだと思ったけど、黙っておいた。


 ◇


 競技会の選抜メンバーは、六学年ある学院の各学年から三人ずつだから、合計十八人。

 日本の部活動みたいな補欠はいないんだって。怪我でもしたら、その選手は棄権となるみたい。


 まあ、よく考えたら、それが当たり前だよね。

 だって、補欠ってあまり嬉しい役割じゃないでしょ。

 まあ、「ボク補欠です」って胸を張って言える人は、立派だとは思うけど……。


 ボクは一回生の代表に選ばれた。ルイも二回生の代表だよ。

 あと、ボクのクラスでは、眼鏡のドロシーも選ばれた。


 一番上級生の代表は、大人と違わない大きな人が多かった。


「君が一年生のショータか。

 噂はかねがね聞いてるよ。

 私は六回生で、選手団代表のスヴェンだ」


 代表は、真面目そうな背が高い男の人だった。


「初めまして、翔太です」


「妹がいつもお世話になってるね」


「妹?」


「ああ、ルイは私の妹なんだ。

 お転婆だから、君に迷惑かけてなければいいんだけど」


「いえ、全然そんなことはありません。

 いつも助けてくれています」


「そうかい? 

 本当にそうならいいんだけどね。

 あとね……」


 彼は、何か言いかけると言葉を止めた。


「まあ、これは、そうなった時でいいか。

 じゃ、お互いに頑張ろう」


 スヴェンさんは、そう言うと、ちょうど呼びに来た女生徒と一緒にどこかに行った。

 そして、あっという間に学院対抗魔術競技会の日がやってきた。

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