第58話 決戦(4)


 一斉に襲いかかる敵軍に、俺は決断を迫られていた。点魔法で敵を消すかどうかの。

 その時、風に乗り空から翔太が降りてきた。


「翔太!

 エミリーの側に居ろと言ったろう!」


 こういう時なので、思わず俺の声が荒くなる。

 しかし、翔太は落ちついていた。


「おばば様から、こちらに力を貸すように言われて来ました」


「おばば様から?」


「ボーさんが困ってるからって」


 おばば様には、全てお見通しか。


「で、おばば様は、どうしろと言ったんだ?」


「まず、こんなところでどうでしょう」


 翔太はワンドを取りだすと、かなり長い呪文を唱えた。

 どこかで聞いたことがある呪文だ。

 彼がワンドを前に振ると、その先から光の玉が飛びだした。


 間違いない、あの魔術だ。


 光の玉は、放物線を描き上昇していく。

 玉は放物線の頂点で、巨大な火球となった。

 それを見て、こちらに押しよせ掛けていた敵軍の動きが停まった。


 複合魔術『メテオ』の火球は、敵とこちらの間にある草原、その敵寄りで地面に触れた。


 グウオオオオン


 体ごと飛ばされそうな爆風が吹きつける。

 味方の軍勢が乱れた。

 しかし、同盟軍はそれどころではなかった。

 

 多数の兵士が爆風に吹きとばされた。

 さすがに戦意を失った兵士が、多数逃げだした。


「あ、あんなの、どうしろってんだ!」

「ひ、ひい、助けてくれー!」

「死にたくないーっ!」


 逃走は逃走を呼び、敵兵の多くが雪崩をうって逃げはじめた。


 爆風で巻きおこった土煙つちけむりが落ちついた時、残った敵は当初の十分の一もいなかった。

 百万の兵が十万以下になったということだ。

 しかし、残ったからこそ、その十万は屈強の兵士が揃っていた。


「敵に背中を向ける臆病者は放っておけ!」

「帝国の誇りにかけて、背中は見せん!」

「皇国の誓いにかけて、敵を討つ!」


 彼らはかえって士気を高め、こちらに押しよせようとしていた。

 その出足がピタリと停まる。


 空が翳ったので見上げると、そこには多数の竜が舞っていた。

 こういう時でなければ、それは感動的な光景だったろう。

 

「ボーさん、あれは?」


 翔太が大きく見開いた目でそちらを眺めている。


「ああ、天竜だな」


 遥々ポータルを越え異世界まで駆けつけてくれた友人たちに、感謝の気持ちが込みあげてきた。 

 

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