第59話 決戦(5)



 空を舞う天竜の一体が、俺のすぐ側に降りたつ。


『シロー殿、久しぶりだな』

 

 それはテレパシーが使える、天竜モースだった。

 驚いたことに、その背中から白竜族の青年が降りてきた。


「ジェラード!」


「シロー、戦況はどうだ?」


「お前たちのお陰で、なんとか総力戦まで持ちこまずに終わりそうだよ」


「ならいいが。

 ところで、コリーダさんはどこだ?」


 こいつ、この期に及んでそれかよ。


「後で会わせてやるから、とにかく戦闘を終わらせるぞ」


「ああ、分かった」


 ◇


「武器を捨て降伏せよ!」


 戦場にマスケドニア王の威厳ある声が響く。

 彼の声には、俺などがまねできない説得力があった。

 敵兵のほとんどが、武器を捨てた。


 残ったのは、一万にも満たない敵兵だけだ。

 ついに、敵味方の数が拮抗したことになる。

 近衛兵中心のその隊は、中心にソラル女王、ガーベル王の二人を守り、円陣を組んだ。


「残りはしょうがないか。

 点ちゃん、あれやるよ」


『(((o(*゜▽゜*)o))) わーい、待ってました』

 

 点ちゃん、ノリノリだな。

 

 山岳の西に広がる草原から、土煙が近づいてくる。

 それは、ナル、メル、イオを『巨人の里』まで連れてきたピンクのカバ、ポポの群れだった。

 先頭のポポは、ずっと俺たちと一緒に行動してきた一頭だ。俺はその背中にまたがった。


 さて、点ちゃん。最後の仕上げ、いってみよう。


『(^▽^)/ おー!』


 ◇


 ガーベルとソラルは、相談の上、敵に最後の突撃をすることに決めた。

 敵の数は、ドラゴンを除き、およそ一万。乱戦になれば、ドラゴンも手を出せないだろうという計算だ。

 一番怖いのはドラゴンが吐くブレスだから、素早く動き、敵陣に切りこむ必要がある。

    

「いいか、動きだしたら停まるな!

 敵の大将目掛けて攻めこめ!」


 大将格の兵士たちの前で、ガーベル王が命令を下す。


「た、大変です!」


 そこへ一人の近衛兵が駆けよる。


「ポポの群れが、こちらに向かってきます!」


「ええい、鬱陶うっとおしい!

 そいつらを蹴散らし、先ほど伝えたようにせよ!」


 一万の精鋭からなる円陣は、ポポの群れを迎えうつ準備を整えた。


 ◇


 ポポに乗り、後ろを振りむいた俺は声を失った。いつの間にか、すぐ後ろのポポに勇者加藤が乗っているのだ。その横のポポには、白竜族のジェラードが乗っている。

 

「こんな面白そうな事、一人でするなよ!」


 騎乗したポポを俺のポポに並べると、加藤が爽やかな笑顔を見せる。


「コリーダ様に、私の雄姿を見ていただかなくては!」


 その向こうでは、ジェラードが下心みえみえのにやにや笑いを見せた。

 君はぶれないねえ。


「しょうがない。

 しっかり掴まってろよ!

 落ちても知らないからね」


 二人には点をつけてあるから、何かあれば瞬間移動させればいいのだが、とりあえずそう言っておく。

 俺たち三人が乗るポポを先頭に、ピンクの群れが敵軍へ突進する。


 じゃ、点ちゃん、突撃ーっ!


『p(≧◇≦)q ゴー!』


 ◇


 ポポの群れが近づいてきたとき、女王ソラルが叫んだ。


「あの者だ!

 先頭のポポに乗る者を討ちとれ!」


 ポポの体は比較的柔らかい。

 剣でも槍でも、十分貫けるだろう。

 兵士たちは、そう考えていた。


 ポポの群れが一万の兵と激突した。

 

 ◇


「き、効かない!

 なぜだ!?」


 魔術が得意な兵士が氷の矢でポポを貫こうとしたが、それはピンクの皮膚に弾かれてしまった。

 呪文を唱えなおそうとした魔術師は、もの凄い勢いでぶつかってきたポポに跳ねとばされ、意識を失った。


 こちらは、槍でポポに突きかかった兵士。

 槍が弾かれたとおもったら、やはり空高く弾きとばされていた。

 背中から地面に落ちた彼は、その衝撃で意識を失った。


 ◇


「ヒャーッハーッ!

 これ最高!」


 加藤はノリノリだ。


「コリーダ様ー!

 この戦いをあなたに捧げますー!」


 いや、ジェラード、それはいいんだけど、君が乗ってるのピンク色したカバだから。

 どう見ても格好よくないから。


 点ちゃんシールドで体表を覆われたポポたちが、同盟軍の兵士を蹂躙していく。

 それほど時間は掛からず、立っている兵士がほとんどいなくなった。

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