第39話 大きなるものの国(2)



 現れたのは五人の巨人で、そのうち三人は手に巨大な槍を持っていた。

 一人、白髪で髭を生やしている。

 あれが里長さとおさだろう。


「テガっ!」


 武器を持っていないごつい顔の巨人が、どどどっと走ってくると、チビをがしっと抱きしめた。


「い、痛い!」


「テガっ、どこに行ってたんだっ!」


 男は、チビを抱えあげ頬ずりしている。

 大きなチビも、さらに大きな巨人に抱かれると小さく見える。

 男は涙を流しながらチビを抱きしめていたが、やっとこちらを向いた。


「お前が、テガを連れてきてくれたのか?」


「ええ、ちょっとしたことで知りあいになりまして」


「ご主人様、これ誰?」


 チビが当惑したような顔で尋ねる。


「ああ、その人が、きっとお前のお父さんだ」


「お父さんなの?」


 チビが尋ねたが、彼の父親は息子の発言が気になったようだ。 


「テガ、お前、『ご主人様』ってどういうことだ?」

 

「この人は、ボクの『ご主人様』なの」


 チビが俺を指さす。


「おい、お前!

 テガを奴隷にしてたなっ!」


 チビの父親が、まなじりを上げ近づいてくる。

 槍を持った三人も、こちらに近づいてきた。

 やれやれ、面倒くさいことになりそうだぞ。


 ◇


 チビの父親らしき男と、槍を持った三人、合わせて四人の巨人が俺を取りかこんだ。

 彼らの表情は、情け容赦ないものだ。

 どうやら、これは話しても分かってもらえまい。

 だが、とりあえず……。


「俺は、この子を奴隷商人から助けたんだが」

 

 言うだけ言ってみる。


「助けたのに、息子はお前をなぜ『ご主人様』などと呼んでる?

 いい加減な事を言うな!

 覚悟しろ!」


 四人の巨人が四方から迫ってくるさまは、気が弱い人なら身動きもとれなかっただろう。

 巨大な槍が、俺の前でシールドに弾かれる。

 巨人が四人とも宙に浮きはじめた。


「な、なんだ!?」

「あわわわ!」

「うわっ!」


 口々に叫びが上がる。

 ここは目を覚ましてもらわないといけないから、容赦しない。

 点で上空に持ちあげた四人を、自由落下させる。

 彼らは、ビルの五階くらいの高さから、悲鳴を上げならが落ちてくる。

 地面にぶつかるすれすれで停めてやる。


 重力付与を切ると、腰を抜かしたのか、四人とも地面にドスンとお尻を着け動かなくなった。


「もう一度言いますが、俺は奴隷商人から彼を解放しました。

 俺の言ってることが分かりますか?

 なんなら、もう一回……」


「ま、ま、待ってくれ!」

「も、もうやめてくれっ!」

「分かったから、やめてくれっ!」

 

 槍を手にしていた三人は、俺の言葉を理解したようだ。

 チビの父親だろう巨人だけが、納得がいかない顔をしている。


「お前は、なぜ――」


 面倒くさいから、みなまで聞かず、彼の身体を再び空に上げる。

 今度は、十階建てのビルくらいの高さから自由落下させた。


「。。。」


 ああ、ちょっとやり過ぎたか。

 白目をむいてるな。

 

『へ(u ω u)へ やれやれ、ご主人様は、相変わらずですねえ』


 ほら、聞きわけないおじさん巨人、おじ巨人(?)のせいで点ちゃんに呆れられちゃったじゃないか。


『(*ω*)つ なんでやねん!』 

 

 点ちゃん、ここで突っこみですか。よく分からないけど。


 その時、白髪白髭の巨人が、こちらに近づいてきた。

 落ちついた表情からすると、攻撃する気はないのだろう。


「あなた様は、もしかしてシロー殿では?」


 あれ? 

 俺、もう名乗ってたっけ?

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