第8部 巨人の国

第38話 大きなるものの国(1) 



 俺たちは、二つの大陸を結ぶ地峡から、ドワーフ王国側の海岸線を北に向かっていた。

 もちろん、移動には点ちゃん1号を使っている。


 その1号の前部で、シリルが道案内をしていた。  


「ほれ、あの山々が、『守護山脈』じゃ。

 お主が行きたいと言うておった、『大きなるものの国』は、あの山の中にある」


 点ちゃん1号は、三十分ほどかけ山脈を横切ったが、それらしい場所は見つかれなかった。

 シリルの話では、その場所は盆地のようになっており、大木がたくさんあるらしい。

 もう一度、航路を変え、山々の上を飛んだが、やはり木々が生えた場所は見つからなかった。


『(・ω・)ノ ご主人様ー、あれじゃない?』

 

 点ちゃんも、俺と同じことを考えているらしい。

 俺は、山脈の上空から、点をばらまくことにした。


 シリルは、お役御免になったので、くつろぎ空間を満喫している。


「な、なんじゃ、このふわふわは!」


 さっそくコケットが気に入ったようだ。

 横になるなり、寝てしまった。

 ローリィが、その頭をやさしく撫でている。


『(Pω・)ノ ご主人様ー、思った通りだった』 


 ばらまいた点からの情報を、点ちゃんが解析したようだ。


 じゃ、点ちゃん、『大きなるものの国』へ行ってみようか。


『p(≧▽≦)q わーい、ワクワクするー!』 


 俺も、かなりワクワクしてる。


 ◇


 透明にしてある、点ちゃん1号の前部から見ていると、空中に青い円が現れた。

 これは、巨人の国が張っている物理結界を抜けるため、点ちゃんが作ったトンネルだ。


 俺は機体が結界に触れないよう、慎重に1号を前進させる。

 物理結界を抜けても、まだ里は見えてこなかった。

 目標地点に向け、点ちゃん1号の高度を下げる。

 

 それは、突然眼下に広がった。

 広大な緑の森だ。そのモコモコした様子から、おそらくは原生林だろう。  

 ◇ 


 さらに高度を下げた時、巨大な木の杭が、森の中からこちらに打ちあげられた。

 目標は、俺たちが乗る点ちゃん1号だ。


 ガキっ


 張っていたシールドにぶつかった杭は、そんな音を上げた。

 

 ガキっ

 ガキっ


 杭は、次々に飛んでくる。

 点魔法を使う準備が終わったので、杭を投げた何かをシールド何枚かで拘束する。


 杭の音で怯えているシリルに声を掛けてから、俺は点ちゃん1号から宙へ飛びだす。重力付与を使い、フワフワと地上へ降りていく。


「な、なんだこりゃ?」

「どうなってんだ?」

「動けないぞ!」


 どちらかというと、のんびりした声が聞こえてくる。

 木々の枝をかすめ、地上に降下した俺が目にしたのは、森の中に立つ、三人の巨人だった。

 三人は、チビよりさらに大きな体をしていた。皆、獣の皮で作ったスカートのようなものを腰の周りに巻き、上半身は裸だ。三人とも男性で、筋肉がよく発達していた。


「人族か?」

「どうしてここが分かったんだ?」

「空から降ってきたぞ」


 さっきより、いく分、緊張した声が聞こえる。

 

「こんにちわ」


 俺がいつもの、のんびりした口調で話しかける。


「小さき人、お前、何をしに来た?」

約定やくじょうで、ここは聖地と決まっているはずだぞ」

「悪いヤツか?」

 

 男たちは、口々に、はやしたてた。

 

「始めまして。

 俺は、シローと言います。

 大事なお話があって、ここに来ました。

 一番偉い方と、お話できますか?」


「大事な話か?」

「なんだろう?」

里長さとおさは、小さき人などと話はせぬぞ」


 俺は、手持ちのカードを一枚切ることにした。


「迷子になっていた、あなた方の仲間を連れてきました」


 そう声を掛けておき、俺の横にチビを瞬間移動させた。


「あれ?

 ここ、どこ?」


 空中に浮かせていた、チビ用の部屋から急に森の中に移動したから、彼は戸惑っている。


「おい、その『大きなる者』は、誰だ?」

「見たことないヤツだな」

「いや、何となく見覚えがある気がするぞ」


 三人の巨人から、そんな声が上がる。


「チビ、ここは恐らく、君の故郷ふるさとだよ。

 君のお父さんやお母さんに、会えるかもしれない」


「えっ?

 ボクの故郷?」


「ああ、そうだよ」


「ボクに、お父さんやお母さんがいるの?」


「たぶん、そうだと思うよ」


「ご主人様!

 ボク、会ってみたい!」


「ああ、もしいるなら、必ず会わせてあげるからね」 

 

「わーい!」


 三人の一人が、呆れたような声で話しかけてくる。


「小さき人よ。

 お前は、私たちが怖くはないのか?」


「怖くはないですね」


「小さき人は、私たちを見ると恐れる、と聞いていたのだが」    

 

「まあ、大きな生き物は、見慣れてますから」


「変わったヤツだ」


「よく言われます。

 それより、彼はここ出身だと思うのですが、両親が誰か分かりませんか?」


「……そういえば、ずい分前に、ディガさんところの息子が、いなくなったことがあった」


「そうですか。

 そのディガさんという方に、会えませんか?」


「そうだな。

 お前は、悪いヤツじゃなさそうだ。

 里長に話してみる」


「分かりました。

 では、動けるようにしますよ」


「お!?

 動けるぞ」

「さっきのは、お前がやってたのか?」

「どうやったんだ?」


「それより、この子を親に会わせてやりたいんですが」


「お、それもそうだな。

 じゃ、私が、ちょっと里に知らせてこよう」


 最初に俺と話した巨人が、ドスドス 足音を立てて去っていく。

 巨木に囲まれた森の中は、清浄な空気に満ち、息をするだけで気持ちよかった。

 俺はエルファリアにある、聖樹様がいらっしゃる森を思いだしていた。


「ここは、落ちつくな~」


 チビも、森の雰囲気が気に入ったようだ。


「おい、お前、外の世界がどうなってるか知ってるか?」

「水が一杯ある場所があるって本当か?」


 俺は、好奇心いっぱいの目をした巨人二人に、様々な質問を浴びせられた。

 どうやら、彼らは、自身が『里』と呼んでいるこの辺りから、外へ出たことがないらしい。

 

 やがて、ドドドドという地鳴りのような音がして、木々の間から数人の巨人が姿を現した。

 

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