第6部 『竜の巫女』の冒険

第26話 真竜の母たち

「さて、どうしますかな」


 リーヴァスは、あごひげを撫でながら思案している。

 ルル、コルナ、コリーダが浮足だっているから、落ちついたリーヴァスは頼もしい。

 彼女たちは、実はリーヴァスが内心では大いに焦っていると知らない。


「おじい様、私は戦闘力もありませんし、彼女たちの後が追えるとは思えません。

 予定通りエルファリアに向かい、これからに備えようと思います」


「おお!

 コリーダ、よく決めたね」


 リーヴァスは、コリーダの決断に感心している。


「リーヴァス様、コリーダが例のものを取ってくるなら、私も神樹様、猫賢者様に会うべきかと思います」


「それはそうだが……コルナ、頼めるかな?」


「はい、お任せください」


 コルナとコリーダはお互い目を合わせ、頷きあった。


「ルルさん、ナル、メル、子竜たちを頼むわよ」

「ええ、二人と子竜をお願いするわ」


 二人はルルの方を向くと、そう口にした。

 リーヴァスは三人の強固な絆に胸を打たれたが、それを口にはしなかった。


「ええ、二人とも頼むわよ。

 ナル、メルたちはもちろん、子竜たちも、さらわれた竜人も、きっとあなた方の助けが必要だから」


 ルル、コルナ、コリーダの三人は、しっかりと頷いた。


「では、我々はすぐにでもここを発ちましょう。

 三人とも、用意なさい」


「「「はい、おじい様」」」


 こうして、リーヴァス率いるシローの家族が、目的にむけ行動を起こした。


 ◇


 リーヴァスたちは、まず青竜族の役所にあるギルドへ出向き、マルロー、ラズローと打ちあわせをおこなった。

 それに途中から参加したジェラードが、コリーダとの同行を希望したが、マルローに却下された。


 ラズローは、四竜各部族から精鋭を選び、ルルたちを護衛するよう申しでたが、一刻も早くという彼女たちの希望があったので、後を追う形で彼らを派遣することにした。


 四竜社の地下にあるポータルから、リーヴァス、ルル、コルナ、コリーダが出発するまで、それほど時間は掛からなかった。


 ◇


 竜人国から獣人世界に渡ったリーヴァス一行は、崖の中腹にあるポータル部屋から出ると、苦労して岩肌をよじのぼり、崖の上に出た。


 そこにはギルドから派遣された荷馬車が待っており、乗りこんだ一行を最寄りの村に連れていった。


 村では、犬人のアンデと猫賢者が待っていた。


「アンデさん、今回もギルドには、お世話になりますな」


 リーヴァスが、旧知の仲であるアンデに握手を求める。


「いえ、とんでもない。

 我々は、シローに返しきれぬほどの恩がありますからね」 

 

 アンデは、そう言いながらリーヴァスの手を強く握った。


「コルナ様、こちらの準備は出来ている。ニャ」

 

 コルナに話しかけたのは、猫賢者だ。


「賢者様、この度は、ご足労ありがとうございます」


「なんの、ワシはまだ耄碌しておおらぬ。ニャ」


 猫賢者は、比較的この村から近い街に滞在していたから、ここまで来るのに、さほど苦労はなかった。

 

「近くによい洞窟があったので、そこを修行場にした。ニャ」


「では、さっそくお願いします」


「コルナ殿、かなり厳しい修行になると思うが、大丈夫か。ニャ」


「ええ、覚悟はできています」


 こちらでは、アンデがルルに話しかけている。


「シローが使ったポータルは、すでに冒険者たちが、おおよその位置を調べてあります」


「ありがとう、アンデさん。

 冒険者の方にも、お礼を言ってください」


「シローに関する依頼だと分かると、みんな喜んで手伝ってくれましたよ」


「すぐに、そこへ出発できますか?

 恐らく、娘たちと子竜は、何らかの方法でシローの後を追っていると思います」


「ええ、もう出発する準備は出来ています」


「おじい様、コルナ、コリーダ。

 ではここで。

 私は娘たちを追います」


「ルルや、気をつけるんじゃよ」


「はい、おじい様」


 こうして、ルルはアンデと共に、シローと娘たちを追い西へ、リーヴァスとコリーダはエルファリアへのポータルがある狐人領に向け北東へ、コルナと猫賢者は近くの洞窟へ、それぞれが向かうことになった。


 ◇


 その頃、天竜国にある真竜廟では、再び事件が持ちあがっていた。

 竜王が知らないうちに、ルル、コルナ、コリーダに育てられた六体の子竜が姿を消したのだ。


「ぬう、完全に油断しておったわ!」


 しかし、結界が張ってあったのだから、どうやってそれを子竜たちが潜りぬけたかが分からない。

 

 彼は、ゆりかごの世話をしている天竜にそのことを念話で伝えると、ボーンドラゴンになってから初めての、深いため息をついた。

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