第25話 ナルとメルの秘密作戦(下)



 上空から四竜社に舞いおりた二体の竜は、再び人化した。


「ナルちゃん、メルちゃん、すごいね。

 竜に変身できるだけじゃなくて、空を飛ぶこともできるんだね」


 ナルとメルが竜に姿を変えられる人族だと思っているから、イオはそういう感想になる。


「それより、ここからどうするの?

 私、どこにポータルがあるか知らないよ」


 イオの言葉を聞き、ナルがニコッと笑った。


「それは大丈夫、これがあるもん!」


 彼女がポーチから取りだしたのは、白い布だった。


「それは何?」


「ミルクを飲む時、パーパがこれでナルとメルのお口を拭いてくれるんだよ」


「それで何かできる?」


「うんっ!」


 ナルは、それをメルの鼻に当てた。


「パーパの匂いは覚えてるから、これがなくても大丈夫」


 メルが、布をナルに押しかえす。

 彼女は目を閉じ少し考える格好をしていたが、すぐに動きだした。


「さあ、『ちいドラ隊』

 行くわよ!」


「「「おーっ!」」」


 ◇


 ラズローからの連絡を受け、娘たちが来たら保護しようと準備していた四竜社の竜人たちだったが、それは何の役にも立たなかった。

 廊下をちょこちょこ進む、六人の子供を誰も止められることができなかったのだ。

 何人かは子供たちを拘束しようと試みたが、軽く押されただけで廊下の奥まで飛ばされてしまった。

 

 子供たちは、先頭にメル、後ろにナルという隊列で、どんどん建物の奥に入っていった。


「こっちから、パーパの匂いがする!」


 十日ほど前にわずかの時間いただけの父親が残した匂いを察知するのは、覚醒真竜となって初めて可能な事だ。

 ナルとメルは、五感の感度を自在に上げ下げできるようなっていた。

 ここでは嗅覚を上げ、シローの匂いを追っていた。


 やがて六人の子供たちは、大きな扉がある部屋まで来た。扉は開いているが、中は灯りがなく、まっ暗だ。

 イオが呪文を唱え、光の玉を作りだす。これは彼女が竜王様から習った魔術の一つだ。


 照らしだされた部屋には、左右の壁にそれぞれ四角い木枠があり、片方は板で塞いであった。

 

「こっちが『スレッジ』、こっちが『グレイル』って書いてあるね」


 木枠の下に打ちつけられた文字を、ナルが声に出して読んだ。


「お役所の部屋に置いてあった紙には、パーパが『スレッジ』っていう所に行ったかもって書いてあったね」


 メルが、頭の中に記録された情報を思いうかべる。


「でも、匂いは……こっちね」


 ナルが右の『グレイル』と書かれた木枠を指さした。木枠に囲まれているのは、黒いもやが渦巻くポータルだった。


「よーし、じゃー、こっちー」


 メルが、無造作に右のポータルを潜る。

 ナルが二人の子供、イオが残る一人の子供と手をつなぎ、その後を追った。


 ◇


 ルルから報告を受けた天竜のおさは、すぐに竜人国へ行く用意を始めた。

 元々あと何日かで竜人の作業員を竜人国に送る予定だったから、ある程度準備はできていた。


 長は人化を解き竜の姿に戻ると、ルルを背に乗せ、真竜廟へ急いだ。念話ができる天竜モースも連れてきている。


 モースは真竜廟の外で待機し、人化した長とルルだけが中に入った。

 すでに旅の用意を終えていたコルナ、コリーダ、リーヴァスを連れ、ルルが出てくると、彼らはモースの背に乗り、竜人国へと向かった。


 ◇


「ネアさん、子供たちは?」


 彼女たちが来るなら、ここしかないと確信し、『ポンポコ商会』を訪れたルルは、挨拶抜きでネアに尋ねた?

  

「ルルさん!

 先ほどラズロー様から連絡がありました。

 ナルちゃん、メルちゃん、それとウチのイオは、四竜社地下にある獣人世界へのポータルを潜ったようです」


「三人だけでしたか?」


「それが、三、四才くらいの小さな子供も三人いました」


「なんてこと!」


「ど、どうしたのです?」


「その三人は真竜です」


「えっ!?」


「ナルとメルが、真竜に人化を教えたの」


「そ、そんな……」


 ネアが言葉を失う。


 ナル、メル、無茶しないで。

 ルルは目を閉じ、そう祈るしかなかった。

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