第40話 地球世界の神樹7 ― 日本 ―


 アマゾンで神樹ショーロ様と別れた俺たちは、アルゼンチンでさらに二柱ふたはしらの神樹様を癒した後、日本に戻ってきた。


 何日かエミリーを休ませた後、日本にいるだろう神樹様を調査する予定だ。


 俺の留守中、『白神酒造』の職員が総出で家族をあちらこちらに連れていってくれたそうだ。

 ナルとメルは、その時の話を一杯してくれた。

 二人の希望で、前回とは別の動物園にも行ったそうだ。

 ただ、今回はルルから言いふくめられていたので、娘たちは大人しく動物を見るだけにした。

 その動物園は小動物に触れるコーナーがあったそうで、二人はウサギに対し平伏するお辞儀をして笑いを誘ったそうだ。

 神獣様の子供かと思ったのかもね。


 それと、ナルとメルは、俺の留守中、裏山に入り野生の動物に乗って下りてきたことが三度あったらしい。

 一度目は普通サイズの猪、二度目は大きな猪で、三度目は熊だったそうだ。

 熊の背中に二人が乗っているのを見たお百姓さんが、腰を抜かしたらしい。


 ルルの希望で、二人は日本の学校にも参加したそうだ。

 参観日の特別授業だったそうで、二人は真竜体操を人の姿のまま披露し、拍手喝さいを受けた。

 最後にコリーダがエルフの民謡を歌い、大人から子供まで涙を流したということだ。


 コルナ、ミミ、ポルの三人は、度々高校の異世界科授業に参加を求められたそうだ。

 特にコルナは、最初の訪問で見せたバスケットボールのシュートが強烈な印象を与えたらしく、もの凄い人気だそうだ。


 リーヴァスさんは、乞われて剣道部の練習に参加し、剣道六段の顧問を子ども扱いしたそうだ。

 ただし、彼は剣道の技が非常に理にかなっていると褒めていた。

 だから、ミミとポルを剣道部に入れたそうだ。

 二人は生徒には負けなかったが、さすがに顧問には敵わなかったということだ。

 彼らはそれがよほど悔しかったと見え、『地球の家』の中庭で、竹刀を使って打ちあう姿が見られた。


 俺はエミリーが休んでいる間を利用し、『異世界通信社』と『ポンポコ商会地球支店』からの報告を受け、それに対する対応を指示していた。


 エミリーがしっかり休養を取った頃を見計らい、俺は家族をリビングに集めた。



「みんなも、ここのところエミリーが何をしているか、大まかには分かっていると思う。

 この前、俺が留守にしていたのは、エミリーと翔太を連れて、アフリカ、ヨーロッパ、北米、南米の神樹様を治療していたからだ。

 今回、日本の神樹様を治療するにあたっては、みんなの力も借りようと思う」


 この件に関しては、すでにリーヴァスさんと打ちあわせてある。


「何か質問はないかな?」


「お兄ちゃん、エミリーのような事は私たちにはできないと思うけど」


 コルナの質問は当然だ。


「神樹様を巡ってみて、会話するという事が神樹様の力を引きだすきっかけになることもあると分かったんだ。

 コルナ、君は『神樹の巫女』だろう。

 特に期待しているよ」


「神樹様とおしゃべりすればいいのね。

 それなら私にもできそうね」


 コルナは納得したようだ。


「シロー、ナルとメルも連れていきたいんですが」


 ルルが娘たちのことに触れる。


「もちろんだよ。

 ナルとメルも、神樹様とおしゃべりしようね」


「おしゃべりするー!」

「するー!」


 二人はニコニコしている。リーヴァスさんが二人の頭を撫でた。


「シロー、私はどうすればいい?」


「コリーダ。

 君にも試してもらいたいことがあるんだ。

 ぜひ一緒に来てほしい」


「あなたの頼みなら、もちろん行くわよ」


 こうして俺の家族が参加し、日本での神樹様を癒す旅が始まった。


 ◇


 俺は日本列島を北から南に縦断することにした。

 まず、自分一人で北海道に飛び、そこにエミリー、翔太、家族を瞬間移動させた。

 広い草原の中に立つ俺の周りに皆が現れる。


「「うわーっ!」」


 ナルとメルが歓声を上げる。


 広々とした草原が見渡す限り広がっている。

 猪っ子コリンが、俺たちの周りをフヒフヒと走りまわっている。


「シロー、日本にもこんな場所があるんですね」


 気持ちよさそうに、ルルが深呼吸している。


「ほんとねえ、こんな場所があるなんて」


 コルナも、ここが気に入ったようだ。


「私、ここに住んでみたいかも」


 コリーダは、全身でこの場の何かを吸いこむような仕草をする。

 みんなの意見を点ちゃんノートに記録しておいた。


 俺たち以外誰もいない草原に点ちゃん1号を出し、全員で乗りこむ。

 機体をゆっくり上昇させると、皆から歓声があがった。

 北海道の雄大な自然が眼下に広がっていく。


 エミリーの指示で機体を南へ向ける。

 津軽海峡を飛びこえ、東北地方の上空に来た。

 白山の上空で、機体を停める。

 エミリーはしばらく目を閉じ、何か考えているようだったが、最後には悲しい顔になり首を振った。


 点ちゃん1号は、日本列島に沿い、更に南へ下った。

 日本アルプス辺りでエミリーの合図がある。


 手元のスマートフォンでチェックすると、黒部ダムの近くらしい。

 地上に平らな地形が見つからなかったので、四人用ボードを三つ出し、それに乗りこむ。

 今回ついてきているブラン、ノワール、コリンも一緒に降下する。


 地上の地形が急峻きゅうしゅんなので、ボードを消さず、木々の上を移動する。


 エミリーが指定した場所は、山の急斜面にあった。

 俺は点魔術のシールドで、神樹様の周辺に臨時のテラスを作った。

 人が普通に歩けるような場所では無いからね。


 斜面から生える木々の内、特に太い幹をもつものが神樹様だった。

 その根元は、斜面から出たあたりで、ぐっと上に曲がっている。

 俺たちはテラスに立ち、神樹様と向きあった。

 目の前には、急斜面が壁としてそそり立っている。


 翔太が慎重に地面に穴を掘り、エミリーがそこに『光る木』の神樹様から採れた『枯れクズ』を入れる。

 エミリーの手が光り、その光が彼女の前に立つ神樹様を包んだ。

 点ちゃんが念話のネットワークを構築する。


『ほう、ここへ人が来るなど初めてじゃ』


 まあ、ここまで秘境となると、さすがに人は来れまい。


『私はエミリーと言います。

『聖樹の巫女』です』


『なんと! 

 初めて会うた人が、巫女様とはな』


『聖樹様に連絡してみてください』


『若いころには出来たが、もうずっと繋がらぬのです』


『今なら大丈夫、さあ』


『分かり申した』


 しばらくの沈黙があり、再び神樹様の念話が響いた。


『おおっ! 

 聖樹様と繋がれたぞ。

 まこと有難きこと』


『これからは、いつでもお話できますよ』


『巫女様、感謝いたします。

 ところで、そちらの方々は誰じゃろう』


『この翔太が私の『守り手』、そして、こちらがシローさんとそのご家族です』


『おお、その方らが、『守り手』とシローか。

 聖樹様から、うかがっておるよ』


『神樹様、初めまして。

 シローです』

『初めまして、翔太です』


『お役目ご苦労じゃな。

 巫女様をよろしく頼むぞ』

 

『はい』

『はいっ!』


 俺の家族、ミミ、ポルは目を丸くし、そのやり取りを聞いている。


『それから、そこのわらべたち、その方らは真竜じゃな』


 さすがは神樹様。お見通しだな。


『ええ、神樹様、ナルとメルは俺の娘であり、真竜です』


相応ふさわしいものは、相応ふさわしい場所へじゃな』


 皆が自己紹介した後、エミリーが再び念話する。


『あなたの名前はクロベーよ。

 覚えておいてね』


『おおっ! 

 巫女様からお名前を頂戴できるとは、長生きはするものじゃな。

 巫女様、ありがとうございます。

 では、南の仲間もお救いください』


『分かったわ。

 また来るわね』


『ははは、これからは、巫女様が仲間と触れあえば、我とも触れあうことになります。

 わざわざ、来ていただかなくてもよろしい』


『そうね。

 でも、やっぱりまた来るわ。

 直接あなたとお話ししたいの』


『ありがたきこと。

 その日をお待ちしております』


 聖樹クロベー様からの波動が、俺たちを満たしていく。祝福だ。


 俺たちからは、コリーダがお礼に歌を歌った。

 神樹様は、とても喜んでくれた。


『じゃ、クロベーまたね』


『またお目にかかりましょう』


『クロベーちゃん、バイバイ』

『バイバイ』


 ナルとメルが無邪気に念話する。


 みんなの挨拶が終わると、俺はボードを出し、テラスを消した。

 点ちゃん1号まで一気に上昇する。皆は、山々が幾重にも連なる景色に声を上げていた。


 こうして黒部の神樹様を癒した俺たち一行は、さらに南へ向かった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る