第41話 地球世界の神樹8 ― 日本 ―


 俺たちの神樹様を巡る旅は、北海道、東北、中部が終わり、近畿、中国地方へ移った。


 四国には神樹様がいらっしゃらないようだ。

 次にエミリーが点ちゃん1号を止めたのは、なんと『地球の家』の上空だった。


 彼女はしばらく目をつぶっていたが、ニッコリ微笑むと俺に合図をした。

 俺はその意味が分かったので、点ちゃん1号を降下させず、針路を西に向けた。


 九州上空まで飛ぶと、そこから南に下り、海の上に出る。

 エミリーが指ししめす方角にあるのは、屋久島だった。


 再び四人用ボードを三枚出すと、それに皆を乗せる。

 ボードと全員に透明化の魔術を掛ける。


 降下中に、山道を歩く人々の姿が見えた。

 目的地は有名な『縄文杉』の近くらしい。

 俺が透明化の魔術を使ったのは、そういう理由からだ。


 現地に到着すると、ちょうど遊歩道から陰になっている場所だったので、透明化を解いておく。

 目の前には、巨大な杉の木が立っている。


 翔太が根を傷つけないよう慎重に土を掘る。

 エミリーが、特別な『枯れクズ』を埋めた。

 光を帯びた彼女の手が太い幹に近づく。


 点ちゃんが構築した念話のネットワークを通じ、神樹様の念話が聞こえた。


『おやおや、あんたたちは誰だね?』


『こんにちは、花子さん。

 私はエミリー、『聖樹の巫女』よ』


『なんと、巫女様かい?! 

 長生きは、するもんだねえ』


『聖樹様とお話はしてる?』


『ほほほ、このばあさまにそんな力があったのは、もうずうっと昔じゃよ』


『今ならできるから、やってみて』


『できるわけないが、巫女様の頼みじゃからな。

 ちょいとやってみようかい』


 神樹様との念話が途切れる。


『は、話せた! 

 聖樹様と話せたよ!』


『これからは、いつでもお話しできますよ』


『さすがは巫女様じゃ、ありがたきことよ』


『こちらは、翔太とシロー、そして、その家族よ。

 聖樹様からうかがっていない?』


『おお、聖樹様が話しておったのは、その方らか。

 巫女様がお世話になっとるな。

 ありがとうよ』


『いいえ、彼女は俺たちの家族のようなものですから』


『お主、シローじゃな。

 我らのために働いてくれて感謝感謝じゃ』


『とんでもないです。

 俺が好きでやってることです。

 それに神樹様、聖樹様に何かあると大変ですから』


『それはそうじゃがな。

 色々とすまぬのう。

 そういえば、少し前に北の方の仲間が消えた気配があったが、何じゃったかの』


『きっと、白山の神樹様のことですね。

 恐らく自動車道の建設で……』


『山の中に道を通して何の益がある。

 愚かな事じゃな』


『おっしゃる通りです』


『近くの木にも多くの人間が訪れよる。

 我らはそっとしておいて欲しいのにじゃ』


『花子おばあちゃん、ごめんね。

 人間の勝手で苦労かけるわね』


『……このばばは、巫女様に会えただけで、もう満足じゃよ』


 それから皆が一人ずつ挨拶した。


『おや、お前も巫女ではないか。

 仲間が世話になっとるの』


 神樹花子様から声を掛けられたのは、コルナだ。


『畏れ多いことです』


 コルナが平伏して言う。


『ワシが若いころは、よくあの爺様と話をしたものよ。

 なつかしいのお』


 花子様が「あの爺様」とおっしゃっているのは、かつてコルナが仕えていた、獣人世界狐人領の神樹様のことだろう。


『花子さん、もうすぐまたお話できるはずですよ』


 エミリーが声を掛ける。


『おお、巫女様がおっしゃるなら、そうなのじゃろう。

 楽しみじゃな』


『待っててね』


 神樹花子様が、ぼんやり光る。

 俺たちに祝福を下さっているのだろう。


 俺たちからは、コリーダの歌でお返しをした。

 花子様は、すごく喜んでくれた。


 こうして、日本における神樹様を癒す旅は終わりを告げた。

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