第10話 挑戦! となりの太郎君

 

 『初めの四人』は、『挑戦! となりの太郎君』への依頼作成に取りかかった。


 俺は点ちゃん1号の中、他の三人は、それぞれの実家で文面を考えたが、たまたま畑山さんが書いているのを見た翔太君が、自分も依頼を出すと言いだした。


 翔太君の話だと、彼が依頼を出せば、まず間違いなく採用されるそうだ。

 なぜだか尋ねたが、翔太君は教えてくれなかった。


 翔太君が依頼を出して三日後、早くも番組スタッフから連絡があった。

 いったい、どうなってるんだろう。


 翔太君と加藤が放送局に呼びだされたので、俺、畑山さん、舞子も関係者としてついていくことにした。

 放送局は、ローカル局らしく、古びたビルだった。

 それでも十階くらいはありそうだ。


 俺たちは、二階にある会議室に通された。

 パイプ椅子と事務机が置かれた殺風景な部屋だ。

 窓の外にはは、緑が多い地方都市が広がっていた。

 人は出払っているのか、誰もいなかった。


 それから五分ほど待たされた頃、ノックの音がする。

 加藤がドアを開けると、三十歳くらいでシャープな顔立ちの、すらりとした女性が入ってきた。

 高級そうな灰色のスーツとスラックスを身に着けた彼女からは、上品な香水の香りが漂ってきた。


「こんにちは。

 番組プロデューサーの柳井です」


「「「初めまして」」」


「今回は豪華ゲストを迎えられて、ウチも気合が入ってます」


 豪華ゲスト?


「君が翔太君ね。

 思ったより小さいのね。 

 いつも見てるから、もう少し身長が高いかと思ってたわ」


 いつも見てる? どういうこと?


「で、君が加藤君かな? 

 どことなくヒロの面影があるね」


 ヒロって、ヒロ姉のことだろうな。


「君がジャンプに挑戦するわけね?」


「はい、がんばります!」


 おいおい、気合が入りすぎてないか、加藤。


「じゃ、さっそく現場に行くわよ」


「えっ!? 

 もうですか?」


「翔太君が来るって言ったら、局長にせっつかれてね。

 来週の放送に間に合わせるようにって言われてるの」


 なぜに、翔太君?


「ついて来て」


 そう言うと、柳井プロデューサーは、足早に歩きはじめた。


 俺たちが連れていかれた場所は、ビルに隣接するL字型の中庭で、そこでは何人かの若者が、黒白のポールや巻きメジャーを用意していているところだった。

 高跳びで使うような、スポンジが入った分厚い大きなマットが置いてある。


 メイクや衣装の係が、五人ほど翔太君の周りに集まる。

 それに対し、実際にジャンプする加藤の方には一人しかついていない。

 なんじゃ、この格差は?


 ビルからレモン色のスーツを着た、感じのいい丸顔のお姉さんが出てきた。


「きゃーっ! 

 翔太君だー」


 お姉さんは、叫び声を上げ翔太君のところに駆けていくと、頭を撫でたり、肩に手を置いたり、とにかく触りまくっている。

 どうなってるのこれ?


 それから間もなく、本番が近いということで、俺、畑山さん、舞子の三人はビルの中に入るよう言われる。

 幸い、ビルの一階にある喫茶店から、ガラス越しに撮影現場が見える。

 レモン色のスーツをきたお姉さんが、本番中も翔太君の肩に手を置き、カメラに向かって話している。


 翔太君は、質問されると、ハキハキ答えているようだ。

 上下紺のジャージを来た加藤が計測棒の横に現れる。


 おい、それは学校の体操着だろう。

 もう少しましな服は無かったのか。

 心の中で突っこんではみたが、もう手遅れだ。


 二人のADが、加藤の腰に、太いベルトのようなものを取りつけている。

 加藤が膝を曲げると、四人のADが加藤を取りかこみ、ベルトに手をかけた。

 点ちゃん頼むよ。


『(^▽^)/ はーい』


 加藤が膝を伸ばすと同時に、点ちゃんがAD四人の手をベルトから外す、外されたADは、あれっという顔をしたが、その顔がすぐに驚愕の表情にとってかわった。

 なぜなら、加藤の姿が消えてしまったからだ。


 俺たち三人が慌ててビルから飛びだすと、上向きになったカメラが示す方向に加藤がいた。


 加藤は、ビルの屋上から手を振っていた。


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