第2部 プリンスの騎士たち

第9話 秘密公開作戦


 俺たち『初めの四人』の秘密公開作戦が始まった。


 まずどうやって公開するか、その案を各自で出しあうことにした。

 小人数に向けて公開したくらいでは、おそらく妄想として片づけられるだけだろう。

 できるだけ多くの人に、しかも十分なインパクトをもって知らせなければならない。


 かつて、俺は似たような状況に陥った経験がある。

 学園都市アルカデミアにおいてだ。その時使った方法も使えなくはないが、できるなら、既存のメディアで済ませたい。

 アルカデミア方式は、最後の手段に取っておくことにする。


 約束の刻限に三人から念話が入る。念話ミーティングだ。


『公開のいい手段が見つかったかしら』


 打ちあわせしなくても、司会役は畑山さんに決まっている。


『私は、あまりいい方法が見つからなかったんだけど……』


 最初は舞子の意見だ。


『父の知人がラジオの生放送をやっているから、それに申しこんではどうかってことになったの』


『だけど舞子、ラジオの生放送だと、話したことがそのまま流れるのはいいけど、リスナーから放送事故だって苦情がこないか?』


『史郎君の言うとおりなんだよね。

 この方法は、何をどう話すかが難しそうなの』


『舞子、気にすることないわよ。

 まだ意見を出しあう段階だから』


『ありがとう』


『次は、私の意見ね』


『で、畑山さんの意見は?』


『朝のニュース番組で、天気予報のお姉さんが、屋外でアナウンスするコーナーがあってね』


『あっ、俺、その番組、今朝見たよ。

 えーと、「教えて、ドキドキお天気さん」でしょ』


『おしいわね、加藤。 

「教えてあげる、ドキドキお天気さん」よ』


 どうなってるのかね、その番組は。

 俺よりネーミングセンス無いんじゃないか?


『その番組のスタッフに伝手つてがあってね』


『伝手って?』


『若い衆の弟がADやってるんだって。

 だから、その撮影場所が分かるらしいわ』


『それが分かったとして、次はどうするの?』


『その映像に映るように、ボーが魔法で作った飛行機でも飛ばすのはどうかってこと』


『でも、あのコーナー、すごく時間短いよ。 

 タイミングよく映れるかな?』


『そういうあんたはどうなのよ、加藤』


『まあ、俺のも麗子さんのと大差ないんだけど……』


『もったいぶらないで、早く教えなさいよ』


『〇〇放送って、関西限定の放送局があるんだけど』


『そんな放送局、聞いたことないわね』

 

『まあ、全国放送ではないからね。

 とにかく、そこの番組に、「挑戦!となりの太郎君」ってのがあってね』


 おいおい、その番組もネーミングセンスおかしくないか?


『どんな番組なの?』


『よくぞ聞いてくれました、麗子さん。

 何かね、視聴者の依頼を実現する番組なんだって。

 それに依頼を出そうかと思うんだ』


『依頼ったって、そんなにすぐにすぐ採用される訳じゃないだろう』


『ふふふ、驚くなよ、ボー。 

 ヒロ姉の先輩が番組の関係者なんだ』


『だけど、それで依頼が採用されるかな』


『聞いて驚け! 

 なんと先輩はプロデューサーなんだぜ』


 えっ? 昔からやたらと顔が広い人だったが、ヒロ姉の人脈って凄いな。


『オッケー。

 じゃ、仮に依頼が採用されるとして、どんな依頼にするのよ』


『今、考えてるのは、「二メートルジャンプしたい」ってやつ』


『二メートルなんて小学生でも飛べるでしょ』


『ああ、言いまちがえた。

 二メートル垂直飛びだ』


『そんなの無理に決まってるじゃない』


『だから、周りの人が、手で上に押しあげて依頼を達成するんだよ』


『それってインチキじゃん』


『いや、依頼はとにかく「二メートルジャンプしたい」だから、それでいいの』


『なんか納得できないけど、それでどうするの』


『そのとき十メートルほど飛ぼうかなと――』


『あんた、なに馬鹿な事言ってんの。 

 そんなの出来るわけないじゃん』


 あー、畑山さん、勇者がどれだけジャンプできるか知らないのか。


『俺は加藤が、五階建ての学校の屋上にジャンプするの見たよ』


『えっ!? 

 あんた、そんなことできるの?』


『おう。

 なぜか普通にできるぜ』


『ふん、「できるぜ」じゃないわよ、全く。

 カッコつけて』


『す、すみません』


 やたらと弱気な勇者ってどうよ。


『じゃ、最後はボーね。

 あんたの意見は?』


『うーん、とりあえず、あるにはあるんだが……』


『もったいぶらないで、早く言ってよ』


『加藤、俺がアルカデミアで、ビルに動画を映した話、二人にしてないか?』


『話すも何も、あれってどうやったんだ』


 ああ、加藤にも話してなかったか。


『詳しい方法はまた今度にするが、例えば、東京中心部のビル全ての壁に、動画を流すことができる』


『『『……』』』


『あれ? 

 どうしたの?』


『あんた一体、学園都市世界で何やったのよ』


 学園都市全てのビル壁面に獣人の姿を映したことを話した。


『……もう、呆れるしかないわね。

 だけど、そんなことしたら、こっちの世界の人々に与える衝撃が大きくなり過ぎない?』


『そうなんだよ。

 だから、まずは普通のメディアを試したいんだ』


『なるほどねえ。

 じゃ、とりあえず加藤の意見を採用する方向で考えましょうか』


『私はそれでいいと思う』


 舞子も賛成のようだ。


『俺もそれでいい』


 こうして、俺たちは、「挑戦!となりの太郎君」に依頼を出すことになった。

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