第5話 家庭訪問 渡辺家


 顔中にひっかき傷を負った加藤と一緒に朝食を食べ終えると、俺たちは加藤家を出発した。


 舞子の家には、加藤のおばさんから電話を入れてもらった。

 加藤家の時同様、上空に停めた点ちゃん1号からボードで渡辺家の庭に降りる。

 瞬間移動も使えないことはないが、みんなには「帰宅した」という実感を味わってもらいたいからね。


 舞子が、律義に実家のブザーを鳴らす。


「はーい」


 すぐに声がすると、玄関の引き戸が開いた。出てきたのは、舞子の母親だった。


 顔色がいい。めちゃくちゃ元気そうだ。

 俺が前に来た時は、舞子がいなくなり、床に伏せるぐらいふさぎこんでいたのに。

 舞子を抱きしめたおばさんは、涙を流しならがら微笑んでいた。


「舞子、お帰り!

 史郎君、信じてたわ。

 ありがとう!」


 おばさんが俺の手を両手で包みこむ。

 おばさんには、いつか舞子がいる世界に連れていくって約束してたからね。結局、舞子を連れてくることになったけど。

 おばさんが元気になっていて、俺は本当に嬉しかった。


「今日は、みんな泊ってくれるんでしょ?」


「ええ、話すことが沢山あるので、そうできればありがたいです」


「ウチは大歓迎よ。

 さあ、入って」


 舞子の家でも和室に通された。舞子の実家は神社だから当たり前なんだけどね。

 加藤は、畑山さんに手を取られている。昨日、夜中に何かがあったらしい。

 

 おばさんが、お茶を持ち入ってくる。なぜか、俺だけはジュースだ。


「史郎君は、これが好きだよね」


 今でも好きだからかまわないんだけど、子供の頃すごく好きだったんだよね。


「ええ、好きですよ」


 なぜか舞子が赤くなっている。おばさんは、俺と舞子の顔を見て微笑むと、部屋を出ていった。


「しかし、加藤の家族って、林先生の問題、なんでもないように扱ってたわね」


 畑山さんが、俺に話しかける。


「ああ、すごいよね。 

 おばさんから『自分に恥ずかしくないようにね』とか言われると、もう公開する以外ないだろう」


「ウチのお父さんも、同じようなこと言う気がするな」


 確かに、渡辺のおじさんならそう言いそうだ。

 俺たちが林先生の事を話しあっていると、玄関の引き戸がガラッと勢いよく開く音がして、舞子の父親が現れた。

 作務衣から湯気が立っている。


「遅くなって悪かった。 

 遠くのおやしろの手伝いに行っていてね」


「お父さん、ただいま帰りました」


「舞子、お帰り!

 やっぱり史郎君は、約束を守ってくれたな。

 ありがとう!」


「いえ、俺だけの力で出来たことではありませんから」


「おじさん、こいつ変わってないでしょ」


「ああ、加藤君もお帰り。

 君の言う通りだな」


「おじさん、お久しぶりです」


「麗子ちゃんか。

 ますます綺麗になってるね」


「もう、おじさんったら、お上手なんだから」


 なぜか畑山さんは、舞子のお父さんの前では人格が変わるんだよね。なんでだろう。


「おじさん、聞いてください。

 この馬鹿加藤ったらひどいんですよ」


「れ、麗子さん、その話はここでは……」


 あれ? 何だ、今の。

 俺の聞き間違いかな? 

 加藤が畑山さんの事、「麗子さん」って言った気がする。


『(・ω・)ノ 昨日、夜中にそう呼ぶように約束させられていましたよ』


 お、点ちゃん、知ってたのか。

 点を付けてる対象からの音と映像は、全て点ちゃんがチェックしてるからね。


「今回は時間があるんだろう。

 向こうでのことを聞かせてくれないか」


「分かりました。

 おばさんが来るまでは、舞子さん以外が話しますね」


「気を遣わせるね。

 じゃ、着替えてくるから、その後お願いするよ」


 おじさんは、セーターとチノパン姿で戻ってきた。

 俺たちは、それぞれが異世界でどう過ごしてきたか、大まかに話した。


「へーっ、麗子ちゃんは、女王様か。

 ぴったりだね」


「そんなことありませんよ~」


 なんか、キャラ崩壊してるな。しっかりしろ、女王陛下。


「加藤君は、勇者か。

 それも君らしいな」


「あー、自分では、勇者というタイプじゃないと思うんですが」


「いや、お前は勇者だな、やっぱり」


 ダメ押ししてやる。


「そんなこと言って、一番すげえのは、お前じゃないか」


 加藤は、エルファリアで俺が無数の魔獣と二万人のダークエルフと戦ったことを、我が事のように話しだした。

 恥ずかしくなり、俺が席を立とうとしたとき、おばさんが昼食を持ってきた。

 昼食は具沢山のうどんだった。


「「「うわーっ!」」」


 みんなの声が重なる。異世界にいると、みそ汁やうどんが無性に食べたくなることがあったんだよね。どうやら、それは俺だけじゃなかったみたいだ。


 食べたかったものが食べられ、幸せな気持ちになった俺たち四人は、それぞれの体験をしゃべりまくった。

 ご両親から、前回見せた映像をもう一度見せてくれと頼まれたので、獣人たちから歓迎を受け、その前で演説する舞子の動画を映した。

 それを初めて目にした畑山さんと加藤も、群衆の前で堂々と話す舞子に驚いていた。


 普通これだけ一方的に話すと相手が引いてしまうと思うのだが、おじさんとおばさんは、終始ほほ笑みながら俺たちの話を聞いてくれた。


 結局その勢いで夕食に突入し、しゃべり疲れた俺たち四人は、夕食が終わり入浴すると、すぐに寝てしまった。

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