第3話 林先生を守れ


「実は、学校でこういう問題が起きていてな……」


 先生が話してくれたのは、俺にも係わる事柄だった。


 前回、俺が地球を訪れた時、去り際に先生のスマートフォンに、俺、加藤、畑山さん、舞子の四人が映った『写真』をプリクラ風に加工し貼っておいた。


 ある日、先生は、そのスマートフォンを学校に置き忘れ帰宅した。

 誰かからの着信があったらしく、マナーモードで震えているそれを他の先生が手に取った。そして、俺たちが映った『プリクラ写真』を見つけてしまった。


 職員会議でそれが問題となったとき、林先生は、俺たちが「地球にいた」時に撮ったものだと主張してしまった。

 単に、「昔、撮った」と言えばよかったのだろうが、先生は俺たちの実情を知っているから、口が滑ってしまったのだろう。


 地球にいた→今は地球にいない→すでに死んでいる


 こういう誤解があったようだ。言葉とは恐ろしいものだ。

 先生は警察からも事情聴取を受け、例のスマートフォンは、証拠物件として押収されてしまったそうだ。

 こういう事情で、林先生はいつ教師をクビになってもおかしくない立場に置かれている。

 今日、受けもちの授業が無かったのも、それが原因らしい。


 俺たち四人は、顔を見合わせた。


「どうするべきかしら」


 畑山さんが、深刻な顔をしている。


「そのプリクラもどきには、ボーの点が付いてるんだろ。

 スマホごと消しちまえばいいじゃないか」


 俺もそれは考えたんだが……。


「だからあんたは馬鹿なのよ。

 そうなると、証拠を管理している警察官がクビになるでしょ」


 畑山さんは、さすがだ。


「誰も被害を受けないで、問題を解決しなくちゃいけないんですね」


 舞子が問題をまとめる。


「こういう面倒なこととなると、あんたの出番ね」


 畑山さんが俺の方を見る。 


「解決策が無くはないが、それにはみんなと家族の協力が必要だぞ」


「おう! 

 先生が辞めなくて済むなら、なんだってやるぞ」


 加藤が言っているほど単純にはいくまい。


「もしかして、その方法って……」


 畑山さんが目を大きく見開く。頭のいい彼女なら気づくだろうね。


「ああ、そうだよ、畑山さん。

 俺たちが異世界に行ったことを公開する」


 場がシーンとする。

 誰もしゃべらない時間が五分は続いた。

 皆、公開した場合に起こることを脳内シュミレートしていたのだろう。


「大変な騒ぎになるな」


 加藤は、呆然とした顔をしている。


「騒ぎになるだけなら、まだいいんだけどな」


 情報規制がかかったり、下手をしたら俺たちの存在そのものを消そうとする動きが出るかもしれない。

 

「とにかく、公開するなら、それぞれの家族全てが賛成してくれるのが条件だ。

 俺たちの結論が出るまで、先生は絶対に軽はずみな行動をしないでください。

 これは先生だけの問題ではありませんよ」


 俺が指を鳴らすと、テーブルの上に封筒が現れる。

 それには、黒々と『辞表』の二文字が……。


「お前、どうやってそれを!」


 林先生が、封筒に手を伸ばそうとする。


「先生! 

 やめないで」


 舞子が、その手にすがりつく。


「先生が辞めると、私、すごく傷つきます」


 畑山さんは、計算されつくした発言をする。


「やっぱり、先生が辞めるってのは間違ってるな」


 加藤が、勇者らしくきっぱり言いきる。


「お前らには、かなわないなあ。

 まあ、少しだけ様子を見てみるよ。

 俺は、もう辞めてもいいと思ってるんだがな」


 俺たちは最初から四人揃って各家族を回る予定だったが、それに重大な案件が加わったことになる。

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