第28話 天竜祭(下)
「みなさん、今回は特別な天竜祭となります」
白竜族ジェラードの手が竜舞台の上を指す。
「まずは、新しく四竜社の頭となられた赤竜族族長ラズロー殿!」
俺はラズローたちが入っている箱を消した。
竜舞台の上に突然現れた竜人に、会場が盛りあがる。
「たのんまっせー、ラズローの旦那ー!」
「赤竜族ばんざーい!」
能天気な観客の声がこだまする。
ラズローの後ろには、黒竜族のリニアとエンデが控えている。この舞台で、彼女たちの名誉は回復されるだろう。
会場が少し静かになったところで、ジェラードが次の矢を放つ。
「そして、黒竜族の不正を暴いた上、竜闘で勝利し、一躍時の人となった迷い人一行!」
舞台にミミ、ポル、加藤、ナル、メル、イオが姿を現す。
「きゃーっ!
カトーくーん!」
「ミミちゃーん、今日も可愛いよー!」
「ポルくーん、こっち向いてー」
さらに舞台が盛りあがる。
「しかし、あの子供は何だ」
「おいおい、あんな子供を竜舞台にあげていいのか」
中には、そういう声があるのも仕方あるまい。
「天竜様のご加護を受けられた方々です」
子供たちの方を手で示したジェラードの重々しい声で、疑問の声がピタッと止む。
彼の声が一際大きくなる。
「そして、みなさんお待ちかね、天竜様御一行です!」
十人の天竜が長を先頭に姿を現す。
さっきまで盛り上がっていた観客が、一瞬シーンとなるが、すぐに罵声が飛びかった。
「おい!
ただの人族じゃねえか!」
「四竜社は何やってんだ!」
「最初からやり直せ!」
今までの天竜祭では、天竜がそのまま竜の姿で参加していたから、その反応は理解できるけど、みんな、ちゃんと竜気を見ようよ。
長が舞台の中央まで歩き、そこで竜の姿になったとたん、罵声が止んだ。
竜は力強く空に舞いあがる。舞台上の天竜も次々と人化を解き、竜となって空を舞う。
勇壮な竜の羽ばたきが巻きおこす風が観客席に座る人々の髪をかき乱した。
竜人の観客は、十体もの天竜が空を舞う様を呆然と眺めている。やがて、長が竜舞台に舞いもどり人化すると、他の天竜も再び人の姿となった。
会場は声を失っている。さっき罵声を浴びせていた観客が、まっ青になって震えている。
「今回は特別に、天竜様の
我らにお伝えになりたいことがあるそうです」
長が両手を上げ、観客席をぐるりと見渡しアピールした。
「竜人たちよ、よく聞いておけ。
今回は、天竜国で大きな出来事があったのでそれを知らせにきた」
彼は俺たちのパーティに向け両手を広げた。
「ここにおられるシロー殿とそのご一行が、真竜廟ダンジョンを踏破された」
観客たちは口をポカーンと開け、それを聞いている。
それはそうだろう、彼らは真竜廟ダンジョンの存在すら初めて知ったのだから。
「真竜廟ダンジョンには、竜王様がご存命であった。
竜王様はシロー殿に頼みごとをなされた」
場内は針が落ちる音さえ聞こえそうだ。
「なんと、真竜廟の奥には多くの真竜様がご健在じゃった。
卵のお姿でいらっしゃったゆえ、今、我ら天竜とシロー殿の仲間がお世話しておる。
すでにお生まれになった真竜様もいらっしゃる」
観客が静かなのは相変わらずだが、彼らの表情を見ると、くすぶるような熱が感じられた。
「これが真竜様のお姿じゃ」
長が俺に合図する。俺はナルとメルに念話で竜の姿になるよう伝える。
二人は舞台の上で、竜の姿に戻った。
一呼吸の間、静寂が続いた後、もの凄い歓声が上がった。地鳴りのような歓声だ。これまで体の中にためていた熱をすべて吐きだすように、観客は熱狂した。
「真竜様が、お戻りになられた!」
「ああっ!
真竜様」
「我らが神!」
俺の合図で人の姿にもどったナルが、静かな口調で言う。
「天竜の言葉に耳を傾けなさい」
その瞬間に、恐ろしいほどの喧騒がピタッと消えた。
天竜の長は、ナルとメルに向かい深く一礼すると、言葉を続けた。
「天竜の国では、真竜様誕生という喜ばしいことと同時に、困った問題が持ちあがっておる」
長は会場をゆっくりと見まわす。
「そこで、お主らの力を借りたいのじゃ」
それを聞いた会場が、再び盛りあがった。
「喜んでお手伝いさせていただきます!」
「ぜひ、青竜族にお手伝いさせてください!」
「いや、赤竜族が身命を賭してもお手伝いいたします!」
今度はメルがパンと手を打った。それだけで、再び竜舞台は静寂が支配した。
「詳しいことは、シロー殿と相談して決めてくれ。
くれぐれも手伝いの事よろしく頼むぞ」
天竜の長は、それで仲間の所へ戻った。
ジェラードが説明にかかる。
「天竜様が住まわれる世界で、大切な森に問題が起きています
枯れ木が新しい木の生育を妨げているのです。
我々のお手伝いは、この枯れ木の除去です。
四竜社で各種族への連絡を行います。
役職があるものは、この後、四竜社まで来てほしい」
ここまでは打ちあわせ通りだ。
ところが、ジェラードのやつ、最後に信じられないような爆弾を仕掛けてくれた。
「では、最後に、パーティ・ポンポコリンのリーダーであり、竜王様が対等の友人としてお認めになられたシロー殿から一言いただこう」
えっ! ここで俺に振るの? それってあんまりじゃないか。
しかも、この世界にまでポンポコリンの名が広まっちゃうぞ。
場内が水を打ったように静かになった。
俺は仕方なく竜舞台の中央に出た。
「シローさん、がんばって」
「ボー、とちるなよ」
ポルと加藤が小声で応援してくれるが、気休めにもならない。観客からの真剣な視線が痛すぎる。落ちつくために、肩の白猫を撫でる。
さあ、このアドリブ、どうやって乗りきるか。
「えー、それでは竜王様のお言葉を伝えさせてもらいます。
『皆のもの、よろしく頼む』だそうです」
竜王様はそんなことは言っていないが、ここは許されるだろう。
俺が話しおえても、場内がシーンとしたままなので、しょうがないからみんなの目を覚ますため、特大の魔術花火を何発か打ちあげてやった。
この花火打ちあげで、俺はあることに気づくのだが、その話はまた後で。
さすがにこれで、再び場内が音を取りもどした。
ジェラードが竜舞台の中央で宣言する。
「それでは、今回の特別な天竜祭、『真竜祭』を終わりとする」
その宣言で、観客は再び盛りあがりを見せた。
歓声を背に、俺たちはジェラードの案内で入場口から建物内に入った。
慌てて駆けつけた竜人数名が、各グループの先導をする。
俺はジェラードの横に並ぶと、嫌味を言ってやった。
「打ちあわせにない大役、どうもありがとさん」
「ふふふ、そのぐらいの目には遭ってもらわねば、私の気が収まらない。
ところで、コリーダ様は一緒じゃないのか?」
嫉妬心って、つくづく恐ろしいな。
俺は彼女が真竜の母親役として天竜国に残っていることを伝えた。
「真竜様の母親役……。
なるほど、私など到底手の届かぬお方だったのだな」
いや、その考え方は何かおかしいぞと思ったが、面倒だから放っておいた。
『(>_<) はー、この人は……』
点ちゃんが呆れているけどね。すでに「ご主人様」から「この人」に降格してるし。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます