第29話 祭りの後で


 真竜祭の後、俺たちは、竜舞台脇の建物内にある貴賓室へ通された。


 天竜たちとは別室だ。 

 そこで豪華なご馳走が振舞われた。

 俺と加藤が以前食べた、メードと言う貝も出てきた。貝殻から貝柱を切りとり、ナルとメルの皿に置いてやる。


「しこしこして、凄く美味しい」

「じゅわーって、お汁(つゆ)が出てくるね」


 二人は目を輝かせている。メードは、やはり焼きたての方が美味しいから、今度二人をあの店に連れていってやろう。

 料理は大量にあり、俺たちだけでは食べきれそうになかった。点収納に入れ、ネアさんたちへのお土産にする。

 もちろん、「付与 時間」を使い、点収納内の時間が遅く流れるようにしてある。


 食事の後、加藤、ナル、メル、イオは瞬間移動でイオの家まで送った。

 残った俺、ミミ、ポルは、大会議室に招かれている。

 部屋の中には、十人の天竜と竜人の重鎮が集められている。一段高くなった所に天竜が座り、なぜかその横に俺たちが座らされる。

 その前には、四種族別に五、六人ずつの竜人が座っている。


 黒竜族、青竜族の姿もあるが、全て俺が初めて見る顔だ。

 黒竜族は、このメンバーだけ俺の点魔法設定をオフにしてある。そうしておかないと彼らは、俺たちに近づくだけで、彼らにつけた点から電撃を受けちゃうからね。


 ジェラードが司会となって始まった会議では、まず、天竜国『光の森』の詳しい現状報告と大まかな役割分担がなされた。

 その後、各分担ごとに別室で細部を打ちあわせることになっている。

 天竜が十人もいるのは、『枯れクズ』の除去に詳しい者、その運搬に詳しい者、水晶灯作成に詳しい者、それぞれの専門家が来ているからだ。


 大会議室から各部屋に移る段になると、ミミとポルの所に各種族の竜人が殺到した。


「竜王様のご様子をお聞かせください」

「真竜様はどれほどにご成長なされたのか?」


 まあ、とにかくすごい勢いだ。しかも、みんな平伏しているから、ミミとポルは戸惑うばかりだ。

 しかし、なぜか俺の近くには誰も寄ってこない。

 むしろ、こちらに怯えているようにも見える。

 どうなってるんだこれは?

 ラズローがいたので、彼にその疑問をぶつけてみる。


「ああ、天竜様から加護をもらった方までは、彼らも理解できるのですが、竜王様と対等の友人となると、ただ畏怖の念があるだけなのでしょう」


 あー、これってまずいよね。くつろげない方向に事態が進んでるぞ。


『(/・ω・)/ だから~、そこまでして、くつろぐ必要はないのですよー』


 だけどねえ、点ちゃん……まあ、ここは何を言っても突っこまれそうなので黙っておきますがね。


 つくづく『会議』と名のつくものは、自分の天敵だと思うね。


 ◇


 次の日、俺はジェラードから渡された封書を持ち、青竜族の役所を訪れていた。


 封書の中身が何なのかは知らない。ポンポコ商会に関係あるものだから、とにかく持っていけということだった。


 以前もいた門番が、俺の姿を見るなり逃げだした。

 おいおい、それはないだろう。あなたは俺の『臭撃(しゅうげき)』に遭ってないじゃないか。


 役人が机を並べた大ホールに入っていくと、その場の空気が凍りついた。というより、皆の動きが本当にピタッと停まってしまった。

 水が滴るような音がしたのでそちらを見ると、椅子に座った青竜族の女性が泣きそうな顔をしている。

椅子の下には、広がりつつある液体が……。

 それってひどくない? 俺の姿を見ただけでお漏らしするってどうよ。


「ほう! 

 天竜祭はそのようであったか」


 声高に会話する青竜族の男性が二人、階段を降りてくる。その片方は、俺に臭(にお)い攻撃された、例のハゲおじさんだった。


「お前たち、一体どうしたのじゃ……」


 そこで俺の姿に気づいたらしい。ハゲおじさんは、まっ青になると階段の下に座りこんでしまった。頭を抱え、「助けてくれ、助けてくれ」とつぶやいている。

 このままでは埒(らち)があかないから、点で吊りあげ、俺の前まで来てもらう。


「ひ、ひーっ」


 おいおい、そこまで怖がらなくても。


『(・ω・)ノ ご主人様ー』


 何だい、点ちゃん。


『(・ω・)Q この人も、竜闘に来てたから、それでじゃないの?』


 ああ、『臭撃』だけで怖がってたんじゃないのか。しかし、点ちゃん、あれだけの観衆全てを分析してるなんて本当に凄いな。

 そのとき、入り口からバタバタと足音がした。振りむくと、昨日の会議で紹介された、新しい青竜族の長(おさ)だ。彼は俺の前にさっと平伏した。


「シロー殿、この者どもが大変な失礼をいたしました。

 ジェラード殿から、今日いらっしゃるとうかがっております。

 どうぞこちらへ」


 貴賓室に通すつもりなのだろう。その前に、俺はくつろぎを邪魔するものを撃破することにした。


「竜王様の名において命ずる」


 重々しい声でそう言い、すこしタメをいれる。もちろん、最大の効果が出るのを狙ってのことだ。


「以後、俺の前で平伏とお漏らしを禁ずる」


 できるだけ重々しく言っておいた。青竜の長が慌てて立ちあがる。俺はハゲおじさんを点から解放し、長の後をついていった。

 以前に通されたのとは別の貴賓室に案内される。ソファーに落ちついた俺に、長が話しかける。


「あの男をお許しください。

 彼はこの役所の長官で、シューダという男です。

 シロー殿が最初に訪れた後、なぜか彼だけ体から臭いが取れず、いつも鼻を摘まんでおりました。 

 そのため『鼻つまみ者』というあだ名までついてしまったのです」


 シューダという名前と『鼻つまみ者』というあだ名に、俺は笑いをこらえるのに必死だった。なぜか、肩に乗る白猫が、俺の頭をぺしぺし肉球で叩いている。


「ところで、ジェラード殿からは、書類をお持ちとうかがっておりますが」


「ああ、これですよ」


 俺が渡した封書を開け、それを読んだ長は一つ頷いた。


「承りました。

 すぐに取りかからせて頂きます」


 何に取りかかるのか聞くべきなのだろうが、役所に来てからのあれこれで、全てが面倒くさくなった俺は、そのままにしておいた。

 俺が長と二人で貴賓室から出てくると、机に着いていた人々が一斉に逃げだした。

 どういうこと?


「平伏できないとなると、彼らにはああするしかなかったのでしょう」


 ああ、これではくつろぎを取りもどせないではないか。


 遠ざかるくつろぎに、俺は暗澹(あんたん)たる気持ちになるのだった。

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