第23話 宝の湯


 いつにない俺の奮闘で、宝物庫改め湯殿は着々と仕上がっていった。


 まず、宝の部屋にある宝物を全て点収納に入れ、ゆりかごの部屋に移した。

 そして、いよいよ部屋の改造にとりかかる。

 部屋の三分の二を浴槽、残りを洗い場とする。なぜかここの床には土魔術が利かなかったので、浴槽は点魔法で作った。

 浴槽の縁はかどを取ってある。


 温泉水が出るアーティファクトは百程もあったので、そのうち十個を使う。浴槽にお湯を入れるのに五個を使い、残りはシャワー用とした。

 シャワー用のアーティファクトは、壁のいろいろな高さに埋めこんであり、竜の成長に合わせて使えるようになっている。

 俺が『宝の湯』と名づけた湯殿は、ほんの三日ほどで完成した。


 大まかなところは、三時間ほどでできていたのだが、俺が細部にこだわったため完成が遅れたのだ。今日は、いよいよ竜王様へのお披露目だ。


『ふむ。

 お主がなぜこのようなものにこだわったか分からぬが、とりあえず入ってみるか』


 壁にはめこんだアーティファクトを使い、体の汚れを落とすよう竜王様に勧めた。

 竜王様は身体を魔術で守っているから汚れてなどいないのだが、将来生まれてくる子竜に入浴の仕方を教えることになるからね。

 浴室には、やや少な目に湯を張ったのだが、彼の巨体が入るとかなりの量があふれてしまった。


『おー、なんじゃこの感覚は! 

 いままで味おうたことがないぞ』


 どうやら、気に入ってもらえたようだ。


『体のこわばりが解けていくようじゃ。

 これは良いの~』


 どうやら、骨の身体にも温泉は効いたようだ。


『この香りはなんじゃ、よい香りじゃの』


「それは、竜人の国で採れるスラミという果物です」


 スラミはミカンに似た果物で、味と食感がイマイチなので食べるのには向かない。しかし、湯に浮かべると、その皮に含まれた油が素晴らしい芳香を放つのだ。


『(´з`) ご主人様は、こんなものばかり探してるんだよねー』


 点ちゃんはそう言うけど、これって有ると無いとじゃ大違いなんだよ。


『(・ω・)ノ 冒険者としての仕事にこそ、そのくらいこだわった方がいいんじゃないですか?』


 いや、そう言われると、返す言葉もございません。


 ◇


 竜王様が満足された後、せっかくだから俺たちも入浴することにした。

 さっきあふれたので湯の量がかなり減っていたが、浴槽は竜用に深く作ってある。お湯の深さは俺たちにちょうど良いくらいだ。浴槽の内と外には、人族用のステップもきちんと作っておいた。

 その日、たまたま真竜廟を訪れていた天竜の長も誘って入浴する。


 すでに水着を作っている俺、ルル、ナル、メル、コルナ、ミミ、ポルは、それを着て入浴する。水着が無い、リーヴァスさん、コリーダ、イオと天竜の長は、体に布を巻いてもらった。これはポンポコ商会で服を仕立てようと用意していた生地だ。


「うは~、なんか普通のお湯よりいいです」


 ポルがさっそく気持ちよさそうな声を出す。


「うミャ~」


 ミミが猫モードになっている。


「うーむ、こうなると酒が呑みたいですな」


 そうリーヴァスさんが言うので、『フェアリスの涙』をグラスに入れて出す。湯に浮かべた断熱性のお盆に載せ、水魔術で冷やしたコップに入れてある。


「なんと、これは至れり尽くせりですなあ」


 あまり見ないご満悦顔のリーヴァスさんだ。


 コップはもう一つ用意してあり、こちらは天竜の長用だ。


「なるほど、これを飲むんですな……。

 な、なんですか、この酒は!」


 さすが幻の銘酒だ、天竜すら感動させるとは。


 ナル、メルは、イオに泳ぎを教えている。泳ぎにくいからだろう、イオは布を脱いでしまっている。まあ、湯気で見えないからいいけど。


 ルルとコルナはコリーダを浴槽の隅に追いつめていた。


「な、何をするの?」


 コリーダが怯えたように言う。


「フフフ、その膨らみが本物かどうか確かめるのよ」


 コルナの悪い声が聞こえる。彼女は相変わらず、紺色のワンピースで胸の所に「こるな ちゃん」と書いた白い布を貼っている。

 この前、バカンス島で泳いだ時に注意すべきだったがもう遅い。


「これは、とても大切なことです」


 ルルのきっぱりした声が聞こえる。


「や、やめて。

 どうしてそんなことを……」


 どうやらコリーダは着やせするらしく、その大きな胸がコルナとルルの興味を引いたようだ。そのまま聞いていると、俺の身体が一部やばいことになりそうなので、風呂の反対側に行く。


「シロー殿、これほどのものを造られるとは、さすがじゃな」


 天竜の長が、褒めてくれる。

 点ちゃん、分かる人には分かるんだよ。


『(=ω=) やれやれ、どうしようもないご主人様だよねー』


 点ちゃんが話しかけているのは、二匹の猫だ。普通、猫は水が苦手なのだが、正体がスライムだからか、二匹はお腹を上に向け、お湯にぷかぷか浮かんでいる。とても気持ちよさそうだ。


 点ちゃんに俺以外の話し相手ができたのは嬉しいが、どうも点ちゃんは、俺に対する愚痴を二匹に話してることが多いみたいなんだ。

 早く何とかしないと、子猫から軽蔑されそうだ。そういえば、昨日コケットに横になったら、白猫が俺の顔の所に来て、肉球でぺしぺし頬を叩いていたっけ。

 もう、手遅れかもしれない。


 こうして、真竜廟では、忙しい中にもくつろぎのある毎日が過ぎていった。

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