第22話 宝物の使い道


 リーヴァスさん、コルナ、ミミが悪戦苦闘していた宝物の目録作りも、新たにコリーダが加わることにより、順調に進みだした。


 王女として育てられただけあり、コリーダの鑑定眼は並ではない。彼女は孤独な幼少期、宝物庫に入りびたり、そこを管理していた文官や騎士を質問攻めにしていたそうだ。

 何か分からなかった宝石やアーティファクトの多くは、彼女により鑑定がなされた。


 いくらか残った不明な宝物ほうもつは、竜王様から教えてもらった。中には彼すらも用途不明のアーティファクトや種類不明の金属、宝石があった。


 コルナが彼女のパレットに宝物の名前と用途を整理している。大まかなに整理された時点で、俺のパレットに転送されてきた宝物の目録は、以下のようなものだった。



 宝石類 ルビー、ダイヤモンド、太陽の雫、月の雫、レッドパール、ブルーパールなど、約千個 


 金属類 アダマンタイト、黒鉄、ミスリル、パールタイトなど、インゴット約三千本


 武具類 各種剣五本、各種槍五本、各種盾五枚、各種鎧五着、各種ワンド五本


 魔道具類 指輪類百二十二個、ブレスレット百二十個、ペンダント百二十二個、王冠やサークレット六十六個、王笏二十三本


 アーティファクト

   温泉水のアーティファクト 百二十二個

   水のアーティファクト   三百五十五個

   火のアーティファクト   三十三個

   風のアーティファクト   七十八個

   土のアーティファクト   五十六個

   氷のアーティファクト   十五個

   雷のアーティファクト   十四個

   時間のアーティファクト   五個


 明らかに竜が使うサイズの武具、アーティファクト、魔道具は除外してある。また、不明な金属、アーティファクトも目録から外しておいた。

 武具が少ないのは、人化したときにだけ使うものだからだろう。しかし、なぜか、同じ人族用のものでも、アーティファクト、魔道具類は豊富にあった。


 宝物のあらましが分かったところで、パーティ全員を集め、リーヴァスさんから訓示があった。

 冒険者が最も警戒すべきは、魔獣でもモンスターでもなく己の欲望だ。ダンジョンの報酬を巡りパーティメンバー同士が殺しあいをすることも珍しくない。彼が所属した伝説のパーティ『セイレン』でさえ、報酬を争い解散の危機に陥った事がある。


 そういう話だった。言われてみれば、確かに頷ける話だ。

 最も危険なものは自分の中にいるんだね。


『つ(*'▽') ご主人様ー、私は危険じゃありませんよー』


 分かってるよ、点ちゃん。


 一人一人がリーヴァスさんの訓示を胸に刻んだ。


 ◇


 それから二週間、俺は竜王詣りゅうおうおもうでのサポートで、他のことを考えられないほど忙しかった。


 ナル、メル、イオは竜王様の大広間で遊んでいることが多かった。

 ルルがそこにいるのも理由だろうが、竜王様と念話でいろいろ話しているようだ。三人は時々、魔術を使う練習をしていることもある。

 お昼ご飯を食べると、コケットで三人並んで昼寝している。そんなときは、竜王様が三人の寝顔を覗きこんでいることもあった。三人とも気持ちよさそうに寝るからね。


「シロー、せっかくなので防具を新調しませぬか?」


 リーヴァスさんはすでに伝説級の装備があるようだが、それ以外のパーティメンバーは十分な装備だとは言いがたい。


 ミミとポルは、エルファリア王からもらった防具があるにはあるのだが、ミミものは、それ以外の防具との差が大きくてバランスを欠いているし、ポルに至っては、体に合わない総ミスリルの鎧だからすぐには使えそうにない。

 コルナは、さすがに品質が良いローブや靴を持ってはいるが、戦闘用となると心もとない。

 ルルも、革鎧だけはエルファリアでいいものを手に入れたが、それ以外はそれほど高品質のものではない。

 コリーダに至っては、戦闘用防具は何一つ持っていない。


 さすがに、これではまずいだろう。これからもダンジョンに挑戦するようなことがあるなら、早めに考えておいた方がいい。


「リーヴァスさん、宝物庫のもので何か防具を作れそうですか?」


「ええ、それは心配ありません。

 あれだけの金属があれば、大方の防具は作れるでしょう」


「古代竜の子供たちに必要なものは残せそうですか?」


「そうですな。

 量は心配ないでしょう。

 あそこにあるのは、高純度の金属ばかりのようですから、それを通常の金属と混ぜて使えば、延べ棒一本で、かなりの合金が作れます」


 なるほど、そのまま使うんじゃないのか。勉強になるね。


「幸い知り合いに腕のいい鍛冶屋がいますから、防具製作は問題ないでしょう」


「ナルとメルに装備は必要でしょうか?」


「家族全員で行動する機会を増やすなら無駄にはならないでしょう。

 この際ですから、作っておきましょう」


「分かりました。

 装備についてはいろいろ教えてください」


「ははは、あなたに何か教えられるのは嬉しいですな」


 リーバスさんはそう言うと、ルル、ミミ、ポル、コリーダがいるところに向かった。この四人は、毎日、驚くほど熱心にリーヴァスさんから剣を習っている。

 特にミミとポルはこのダンジョンを攻略した体験から、その必要性を痛感したようだ。

 俺から見ると、二人とも、もうかなりの腕前なんだけどね。


『へ(u ω u)へ ご主人様って自分が練習してないの、なんで気づかないのかな』


 ◇


「竜王様、卵がかえったときに、とりあえず必要なものはありますか?」


 宝物ほうもつ以外に遣うものがないか確認するため、竜王様に尋ねてみた。


『そうだの、食器類、爪を研ぐ道具、体を綺麗に保つ道具などかの?』


「体を綺麗に保つといえば、入浴などする必要はありませんか?」


『入浴とは何じゃ?』


「お湯の中に体をひたすことです」


『何のためにそのようなことをする?』


「体の汚れを落とし、疲れを取ることができます」


『ほう、それは興味深いの。

 しかし、ここには湯が無いから試すことは出来ぬの』


「宝物庫にお湯が出るアーティファクトが沢山ありますから、よろしければ私が作りますが」


『おお、そうか。

 では頼めるか』


「宝物庫の中の物を、『ゆりかご』があった部屋に移してもいいですか?」


『それはよいが、人族のそちらには、かなり大変な仕事ではないか?』


「私の魔法を使えば、大丈夫です」


『では、宝物庫を使うてくれ』


「分かりました」


 こうして、俺の巨大浴槽造りが始まった。

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