第21話 竜の未来


 翌日、俺は人化した天竜の長と数体の天竜を連れ、真竜廟に戻ってきた。


 今回はルル、ポルに加え、ナル、メル、コリーダ、イオも参加している。ダンジョンの通路は竜には狭いので、天竜たちは皆が人化している。


 真竜廟の第一層、第二層は、ただの通路に変わっていた。部屋も無く、モンスターもいない。これは、昨日真竜廟から出る時、すでに確認してあった。

 第三層の平原と森は、元のままだった。

 ただ、ジャイアント・スネークは、遠くにその気配を感じることはあっても、俺たちの方には向かってこなかった。

 やはり、二匹のスライムの存在が関係しているようだ。


 あっさり『竜王の部屋』までたどり着いた俺たちは、入り口で挨拶の言葉を掛けてから、部屋の中に入った。

 竜王様は、部屋の隅にある『ゆりかご』の所で何かしているところだった。


「竜王様、ただいま戻りました」


『おお、シロー、戻ったか』


「こちらが、真竜廟の外でお子様のお世話をする天竜たちです」


『うむ、世話になるの。

 子竜をよろしく頼むぞ』


 すでに平伏していた長が、それに答える。


「もったいないお言葉です。

 我ら天竜一同、この身を粉にしてお世話をする所存です」


『お主らの負担にならぬよう、少しずつ卵からかえそうと思う。

 決して無理をしてはならぬぞ』


「ははーっ、ありがたきお言葉」


 それから、天竜は一人ずつ竜王様に名前を言い、挨拶をする。

 その後天竜たちは竜王様に連れられ、部屋の奥にある『ゆりかご』まで案内された。


「おおっ! 

 これは!」


『これが我が子供たちじゃ。

 この『ゆりかご』の中で、生まれるべき時をずっと待っておった』


「ありがたきこと。

 まさに我ら竜の未来そのものですじゃ」


 天竜の長が涙を流し、『ゆりかご』を覗きこんでいる。


「パーパ、このおじちゃんだれ?」


 ナルが竜王様を見上げ、不思議そうな顔をしている。

 あー、ナルとメルも紹介しないとね。


「竜王様、こちらがナル、こちらがメルです。

 縁あって今は私とルルの娘です」


『おおっ! 

 お主らはっ』


 俺がナルとメルに耳打ちすると、二人は竜の姿になった。


『なんと、その姿をこうして見られるとは……』


 骨の翼で優しくナルとメルを撫でる竜王様の目から、涙が零れたような気がした。


『シローよ。

 この子らは、間違いなく我が直系じゃ』


 えっ!? どういうこと?


『我の娘がこの子らの母親じゃろう』


 ……もしかすると、そういうことか。


 点ちゃん、白猫とおしゃべりしてくれる?


『(・ω・)ノ いいですよー』


 少し待つと、俺の肩にのった白猫が俺の額に前足の肉球をぺたりと押しつけてきた。そして、俺の肩から降りた白猫は、器用に竜王様の尻尾しっぽ、背中と駆けのぼり、その頭の上に乗った。頭蓋骨のひたいあたりに肉球を当てている。

 恐らく、ナルとメルのお母さん竜に関する俺の記憶を転送しているのだろう。


 ウオオオーッ


 竜王様が咆える。

 それは心が締めつけられるような慟哭どうこくだった。 

 初めてそれを聞いた天竜たちは、腰を抜かしている。一人など、人化が解けて竜の姿に戻っていた。


『哀れなじゃ』


 竜王様は、しばらく動かずにいた。


『シローよ。

 あれの思いを受けとめてもらい、誠にかたじけないの。

 ワシからも礼を言わせてくれ。

 ありがとう』


 それを聞いて、俺は胸がいっぱいになった。


「竜王様、俺は自分がそうしたくてナルとメルを引きとったのです。

 お礼など不要ですよ」


『そうか。

 お主をわが友として遇しよう』


 竜王様が、大きな顔を近づけてくる。俺は大きな鼻の骨にそっと触れた。俺の身体が青く光る。


『ささやかな礼じゃ。

 かさばるものでもないからの』


 竜王様が何かくれたらしい。

 ああ、そういえば、ナルから質問されてるんだった。

 俺は、ふたたび人化したナルとメルに話しかけた。


「ナル、メル。

 この方は、二人のおじい様だよ」


「えっ? 

 おじい様?」


「そう。

 リーヴァスさんの他にも、『じーじ』がいたんだ」


「「わーい!」」


 俺がナルとメルに再び竜化するように言うと、二人は再び竜の姿となり、竜王様にじゃれついていく。


「ナルちゃん、メルちゃん、よかったね」


 良く事情が呑みこめないまま、しかし、その光景から何かを感じたイオが微笑んでいる。いつの間にか、宝物庫から出てきたリーヴァスさん、コルナも笑顔でそれを眺めている。


 俺は流れる涙をそのままに、奇跡的に出会えた竜王と孫娘たちの交流を見守った。

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