第41話 戦いの真実


 俺は、ゆっくりと竜舞台に上がった。


 主審の前まで歩いていき、停まる。


「審判。

 リーヴァスさんがした、規定外の攻撃とは?」


「そ、それは……」


 元々青みがかった青竜族主審の顔が、さらに青くなる。


「なぜ、嘘をついたのですか?」


「そ、それは?」


「判定を元に戻す気はないのですね?」


「……」


 この場合、沈黙が何を意味するか明らかだ。

 俺は首を左右に振ると、点魔法を発動した。


 竜舞台のバックスクリーンともいえる、巨大な竜のレリーフの壁。

 それが、一面まっ白になった。


「な、なんだ、あれは!」

竜壁りゅうへきが白くなったぞ」


 観客が叫びを上げる。

 壁一面に、映像が映しだされた。


 ◇


 映像は、第二戦後、ポルが戦った試合の判定を巡り、審判団が集まった場面だった。

 彼らは、ポルが場外に出たかどうかを話しあっていた。



「一番近くにいましたが、出ていませんでした」


 赤竜族の線審が、ポルの場外を否定する。


「私からも、出ているようには見えませんでした」


 白竜族の線審も、きっぱりと言いきった。


 ビギは、ゆっくりこう言った。


「二対二か。

 では、主審に判断がゆだねられるな」


 彼は立ちあがると、反対側に座る主審の所まで歩いていった。かがみこみ、主審の耳元で囁く。


「お前の息子は、今、牢に入っていたな」


 青竜族の主審が息をのむ。


「俺の力で、無罪放免にしてやろう」


 そう言うと、ビギは自分の席に戻った。


「……では、判定は、迷い人側の場外反則負けということにする」


 主審は、苦悩に満ちた声を絞りだした。


「主審! 

 明らかに場外ではありませんよ!」


 赤竜族の線審が気色ばむ。


「場外だ」


 椅子に沈みこむように、主審が繰りかえす。



 映像は、第二戦を上空から映したものに変わった。

 ザブルの剣がポルナレフを貫いたと見えた瞬間、白い光のような影が、ザブルの後ろに回りこんでいた。



 ポルが得意の変身で蛇の姿となり、ザブルの背後に回りこんだのだが、観客には、それすら分かるまい。

 上空から見ているから、ポルが場外に出ていないのは明白だ。


 映像が流れると、ざわついていた場内が、恐ろしいほど静かになった。


「だ、誰か! 

 あれを止めろ!」


 ビギが叫ぶが、壁は人の手が届かない高さにある。しかも、誰がそうしているかも分からないから、対処のしようがない。

 竜舞台に上がった少年が怪しいが、彼は指一つ動かさず、呪文すら唱えていないのだ。


 第二戦の映像が消え、ビギがほっとしたのも束の間、次の映像が始まった それは、つい今しがた彼が主審に判定の逆転を要求した場面だった。


「おい、何とかしろ」


 ビギが、そう主審に要求している音声が、ハッキリとらえられていた。


「しかし、今回は明らかに……」


「お前の息子が、どうなってもいいんだな」


「ぐっ……わ、分かりました」


 その映像は終わったが、先ほどと同じように、試合を上空から映した映像も流れた。しかも、途中からスロー再生になっている。


 開始線で向かいあうビガとリーヴァス。

 ビガが柄を握りこむと、剣先が発射される。リーヴァスの剣が鞘走ると、飛んできた剣先を見事に弾きとばした。スロー再生でも、ぼやけるほどの剣速だ。

 リーヴァスの剣が滑らかに軌道を変え、そのままビガの右手を切りおとした。


 観客のざわめきが、次第に大きくなる。


「おい、なんだ、ありゃ。

 反則してるのは、ビガの方じゃねえか!」

「ひでえ! 

 息子を人質に、不正を要求してるじゃねえか!」

「審判も何やってんだ!」

「天竜様のお怒りに触れるぞ!」


 不満の声は次第に大きくなり、まるで場内全体が一匹の獣になり、唸り声を上げているようだった。

 竜人は、伝統と名誉を重んじる。神聖な竜闘となると、なおさらだ。ビギと審判の行いは、この場にいる竜人が誰一人として許せるものではなかった。


 収拾がつかなくなった竜闘を救ったのは、白竜族の若者だった。

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