第4部 赤竜族の長

第23話 赤竜族との出会い


 次の日、リーヴァスさんたちには、旅の疲れを取るために休んでもらい、俺とポルは、店に出ていた。


 今日は、開店前から行列が出来ていた。

 リニアは、リーヴァスさんたちに、この世界のことを教えてもらうため、家に残してきたから、ネアさん、イオも含め、四人でお客をさばく。


 お昼前に、もうすぐ店じまいしようかとしていると、赤髪の竜人がやって来た。背が低い、ぽっちゃりした竜人の娘が、大柄な若者五人を従えている。


「おい、お前が、ここの店主か?」


 俺は、当然それを無視する。


「はい、袋三つね。

 ありがとうございました」


 俺は、商品を常連客に手渡した。


「おい、聞いてるのか!」


「皆さん、今ので売りきれです。

 また、明日おいでください」


 俺は、並んでくれているお客さんに、頭を下げる。


「ああ、明日また来るよ」


「ここのクッキー食べたら、他所のはねえ」

「甘くておいしいもんね」


「ありがとうございます。

 この木札をお持ちください。

 明日は、並ばなくても買えるようにしておきます」


「そうかい、気が利くねえ。

 じゃ、みんな、明日また来よう」

「ああ、店長、またな」

「イオちゃん、また来るねー」

「ポル君、明日また会おうねー」


 お客が口々に挨拶し、帰っていく。

 俺たちは、店のかたづけを始めた。


「おいっ! 

 いい加減にしろっ!」


 あれ? 赤髪の娘が、まだ何か言ってる。そういえば、学園都市世界で、同じクラスに同じタイプの赤髪がいたな。


「そうだ、ポル。

 今日は、外でバーベキューでもするか」


「わーい! 

 いいですね!」


 赤髪の娘は、足をジタバタさせ始めた。


「キーっ! 

 あんたたち、こいつら、やっつけちゃいなさい!」


 大柄な五人の若者が、俺とポルを取りかこむ。


「あんたたち、今日はもう店じまいだよ」


「うるせえ! 

 お嬢様の言いつけだ。

 観念しな」


 そう言った竜人が、殴りかかってくる。


ガンッ


ボキッ


「ぐあっ!」


 ああ、言わんこっちゃない。

 あっという間に、物理攻撃無効の餌食になり、五人の竜人が地面に転がった。

 お嬢様には、反省してもらうため、点をつけて吊りあげる。三回ほど、上下させると、動かなくなったので、地面に降ろす。

 あー、これはあれだね、漏らししちゃってるね。


 俺は、白目をむき、気を失っている娘を放置し、イオの家に帰った。


 ◇


 翌日は、リーヴァスさんたちが、お店の手伝いに来てくれた。


 加藤は、行列の端で「美味、最後尾」の看板を持っている。

 リーヴァスさんは、椅子に座り、全体に目を配っている。

 ルルとコルナが袋に詰めたクッキーを、ナルとメルがお客さんに渡す。

 ミミとポルは、焼きたてクッキーを運ぶ係だ。

 コリーダが、お勘定を担当している。


 ルルたちの参加で、お店が華やかになったからか、今までで最速の売れゆきだ。開店から一時間くらいで、もう商品が無くなりそうだ。


 そのとき、また昨日の娘が現れた。赤髪と同じくらい顔を赤くし、二十人くらいの竜人を引きつれている。


「あんたっ! 

 昨日は、よくもやってくれたわね。

 今日は、思いしらせてやる!」


「シロー、このお嬢さんは、どなたかな」


 リーヴァスさんが、椅子から立ちあがる。

 あー、これは可哀そうなことになりそうだな。


「それが、どうもお客では無いようなんですが、何の用件かサッパリ分かりません」


「な、なによっ。

 あんたが、私の話を聞かないんじゃない」


「いや、俺、失礼なやつの話って、聞かないことにしてるんだよね」


「ししし、失礼な奴ですって! 

 あんたたち!」


 赤竜族の男たちが、剣を引きぬいた。

 あちゃー、どうなっても知らないよ。


 さすがに、周囲で店を開いている者が騒ぎだす。


「おい、ポンポコさん、大丈夫かい?」


「ええ、何の心配もありませんよ」


 俺は、安心させてやる。


「すまぬが、それを少しの間、貸してくれぬか?」


 リーヴァスさんは、隣の店主から、お玉を借りている。


「謝るなら、今の内よ。

 私の話を、聞きなさい」


 俺は、隣の店主と、天気の話を始めた。


「キ、キーッ! 

 やっておしまい!」


 男たちが、動こうとした瞬間。


 パコッコココーン!


 そんな音がすると、男たちが剣を放りだし、うずくまった。皆が頭を抱えている。リーヴァスさんが、お玉で頭を叩いてまわったようだ。

 彼は、赤髪娘を小脇に抱えている。さっきまで座っていた椅子に腰かけると、娘を膝の上にうつぶせにする。


「若い娘として、まず言葉遣いから勉強しませんとな」


「あ、あんた。

 誰よ!」


 パーン


 あちゃー、お尻叩かれてるよ。


「痛いっ! 

 何すんのよ」


 パーン


「痛い、痛い。

 止めなさいよ」


 パーン


「え、え~ん」


 泣きだしちゃったよ。


 パーン


 あちゃー、容赦ないね。


「きちんとした言葉を話せますかな」


「え、え~ん」


 パーン


「え、え~ん、はなっ、話します、話します」


 リーヴァスさんは、赤髪の女の子を立たせると、頭を撫でてやった。


「やれば、出来るではないですか。

 これからは、いつもそうしなさい」


「は、はい……え~ん」


「あれ? 

 もう終わったの?」


 加藤がやってきた。


「ああ、そうみたいだ」


「なーんだ、つまらないな」


 彼は、竜人の男たちが落した、剣を集めてまわっている。


「これ、要るか?」


「いや、要らないな」


 俺が答えると、加藤は、剣の根元を二本の指でつまみ、ぽきぽき折りだした。やっと、頭の痛さから解放された男たちが、震えながらそれを見ている。あっという間に、二十本の剣をへし折った加藤は、店じまいの手伝いに参加した。


 娘と男たちは肩を落とし、すごすごと帰っていった。


 ◇


 次の日も、店は大繁盛だった。


 普段の二倍以上の数だけ、焼いておいたクッキーが、昼前には完売してしまった。

 さすがに昨日の今日、赤髪の少女は来ないようだ。

 そう思って店じまいしていると、がっしりした体格をした赤髪の男性がやってきた。昨日来た男たちとは、明らかに風格が違う。

 椅子に座ったリーヴァスさんの前まで来ると、軽く頭を下げる。


「こんにちは。

 私は、ラズローと申します。

 お名前をうかがってもよろしいですか」


「こんにちは、リーヴァスです」


「ここのところ、うちの娘がいろいろ、ご迷惑をおかけしたようで、心からお詫びいたします」


「いえ、聞きわけのよい娘さんでしたぞ」


「家でも手を焼いていたのだが、昨日帰って来てから、急にしおらしくなりました。

 何度言っても直らなかった言葉遣いも、見違えるほどになりました」


 彼は、そう言うと、深く頭を下げた。


「娘を躾(しつ)けていただき、誠にありがとうございました」


 どうやら、あの娘には似合わぬ、立派な父親のようだ。


「変われるのは、娘さんに可能性があるからですな。

 そう育てられたのは、あなたですから、自慢なさって良いですぞ」


 男は、しばらく頭を下げたままだったが、ようやく顔を上げると、こう言った。


「お忙しいでしょうが、ぜひお礼をさせていただきたい。

 ウチに、いらしてはもらえないだろうか」


 リーヴァスさんが俺の方を向く。

 俺が頷くと、彼はこう言った。


「よろしいでしょう。

 うかがわせて頂きます」


「おお! 

 そうして下さるか。

 では、明日の昼過ぎ、ここにお迎えに上がります。

 どうぞ、皆さん、おいで下さい」


「では、五人で伺います」


「よろしくお願いします」


 男はそう言うと、こちらにも頭を下げ、去っていった。


「では、そろそろ引きあげますかな」


 リーヴァスさんの声を合図に、俺たちは、店を後にした。

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