第19話 大入り


 今まで串肉を売っていた場所に、土魔術で、屋根つきの新店舗を開いた。


 看板は、ネアさんに書いてもらった。俺は、読めるけど書けないからね。

 素人目にも、かなり上手い字だと分かる。とりあえず、外装はこれでいいか。


 ノボリも作る。この世界には、ノボリの習慣が無いようだから、店の前にそれを立てると非常に目だった。ノボリには、「とろ~り甘いクッキーだよ」とイオが書いた。


 さっそくお客が来る。


「おい、兄ちゃん。

 これ『甘い』って書いてるが、本当か?」


 少年と手を繋いだ、赤竜族のおじさんが聞いてくる。


「本当ですよ。

 でも、作り方は秘密です」


「とりあえず、一枚だけ買えるか?」


「一枚が小さいので、袋売りです。

 でも、試食はできますよ」


「その『シショク』って、何だい?」


 なるほど、この世界には、試食の文化も無いんだな。


「一枚だけなら、無料で食べられます」


「おい。

 そんなことをして、損にならねえのか?」


「大丈夫です。

 ウチは、商品に自信がありますから。

 食べたら、必ず買いたくなりますよ」


「じゃ、一枚シショクするぜ」


「お子さんの分も、どうぞ」


 俺は、二枚のクッキーに蜂蜜を垂らすと、それを渡してやった。


「な、何だこれ! 

 凄くあめーぞ!」

「父ちゃん、すっごくおいしい!」

 

 親子は、満面の笑顔だ。

 俺も、思わず笑顔になる。


「おい、二袋、いや、五袋くれ」


「はい、毎度ありー」


 二人の様子を見ていたお姉さんが、足を停める。


「ねえ。

 シショクって、私もできるの?」


「ええ、どうぞ」


「なにっ、これ! 

 甘いー!」


 この辺から、店の前は物凄い人だかりとなった。

 試食した人の、「甘いー!」の叫びと注文の声で、耳が痛いほどだ。

 途中から、ネアさんとイオも手伝ったが、また長い行列ができてしまった。

 急遽、串肉の時に使った「美味肉、最後尾」という看板の「肉」という字を消して利用する。

 多めに作ったクッキーは、一時間もせずに、全部売れてしまった。

 今日は、ネアさんも含め、五人でハイタッチする。


「やったー!」


 皆、顔が輝いている。


 俺は、元気が無かったリニアがイキイキしているのを見て、店を開いて本当に良かったと思った。

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